悪役令嬢死亡体験記
ぱっと思いついたものを…
ベアトリス=ノーズリストは人生をくり返していた。
この世に生まれ、王太子の婚約者に選ばれ、しかし恋敵が現れ不幸にも死んでしまう。
天才たる彼女をもってしてもその『死』は回避できず、意識が遠くなったかと思えばまたベアトリスとして生まれる。
普通ならそんな人生に絶望して、心を壊していくだろう。だが彼女は普通ではなかった。
「というわけで、私は人生一度きりの『死』という趣味を見つけることができたのよ!」
「どいうわけよっ!」
キラキラとした瞳をするベアトリスに、本来なら恋敵になるはずのフィオラが突っ込んだ。
令嬢同士の茶会でどうやらお互い前世の記憶があるらしいと気づいて翌日、詳しいことを話し合っていたらこれだ。
フィオラが言うにはこの世界は乙女ゲームという、恋愛小説のようなものらしい。彼女はその世界でのヒロインであり、ベアトリスは王太子ルートでの悪役令嬢だという。
しかしそう簡単にベアトリスと王太子の婚約は破棄できない。相手に不備がない限り解消できないし、貴族社会での恋愛でそれをするのは許されない。それでもフィオラと王太子は結ばれる。
なぜなら、ベアトリスが不幸にも死ぬからだ
しかもヒロインが誰と恋人になろうが、彼女は死ぬとフィオラは語る。それはもう、「運が無い」としか言えない死に方で。
「前世の私はベアトリスのこと嫌いじゃなかったのよ。むしろ好感を持っていたと言ってもいい。嫌がらせっていっても礼儀を知らない娘を茶会に呼ぶわけないし、暴言っていっても正論しか言ってなかったもの」
だから、この世界に生まれ変わった時からベアトリスを死の運命から救うと決めていたと。
彼女はこんなところで、死んでいい人間じゃない。
「それなのに、当の本人が死にたがってるなんて…!」
「ごめんなさいねぇ」
打ちひしがれる様子のフィオラに、ベアトリスはころころと笑う。
フィオラの想いを理解しながら、それでも彼女は救いを拒否した。いや、ベアトリスにとってそれは正しく救いではなかったのだ。
「私はね、才能があり過ぎたの」
どういうことだとフィオラが目を向けると、ベアトリスは自嘲めいた淡い微笑みを返した。
本を読めば書かれているすべてを暗記し、剣を持てば数か月で騎士団長をも上回り、優しく微笑めば誰もが見とれる。何もかもうまくいく人生はベアトリスにとって、とてもつまらないものだった。
彼女は天才過ぎた。
彼女はあらゆるものを持ち過ぎた。
しかしそんなベアトリスがすべての才能をもってしても、敵わないものが訪れた。
それは自分の『死』
どの道を選んでも通り魔に刺され、毒見がいるのにも関わらず服毒死する。
その『死』に彼女は感動した。幾度となくくり返される人生と毎回変わる死因に狂喜した。
まさしく”悪役令嬢”であることがベアトリスにとっての救いだったのだ。
「それで、次はどんな死に方になるんだろうと考えるのが趣味になったと…」
「そうよ。刺殺、毒殺、絞殺、撲殺、その他諸々経験した私はもはや、死のプロフェッショナル!」
「嫌だわ、そんなプロ」
私に死角はない!と拳を掲げるベアトリスに、フィオラは嘆息する。
ひどく無色だった彼女の世界に、『死』といえど色をもたらしたそれをフィオラは阻止できない。
身勝手な善意を押し付けるのは、自分のエゴだから。
だけど、だとしても。
「ベティ、『死』が貴女の救済なら私は止めないわ。けどね、それでも私は貴女に生きてほしい。だから約束してほしいの、少しでも生きることを楽しめる趣味を見つける努力をすることを」
せめて短い人生を鮮やかに彩るものを。終焉が救いなのは、やはり悲しいものだから。
フィオラの桃色の瞳を見返し、ベアトリスは微笑んだ。
「わかったわ、努力する」
もしかしたら続く…かもしれない




