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愛歌 <紫穂&水葵 ゼファー&メサイア>

狂愛

作者: 紫

愛情に身を投じ、

愛情にのみ生き、

愛情に住まい、

そして、捧げるの

                        狂愛『START』

女は涙を流し、透明な線を引くことなく床に落ちた。

「愛している。愛してる」

男の肩に手腕を掛け床を見つめた。

男は彼女の背に手を回しそっと抱き寄せた。

幻覚は目の前に広がり、荒野を駆け抜ける闇色の風がヒョウウ、と、渦巻き遠くへと過ぎて行く。

銀色の星が瞬き、天井に返ると目を閉じ女をしっかり抱き寄せた。

如実な殺気が渦巻き静かに水を打っては澄み渡った。

「ねえ。あんたはどれほど愛している?」

「同じ位だ」

「私も」

美しい女の瞳はブラックダイヤモンドのように光り、漆黒の髪はガラス質の様に艶めいた。

男の鋭い瞳に見つけられて、燃え尽きそう……。


「今回の依頼はあなた方それぞれがリーダー格を請け負っていただきます。Aチームが倉庫からの製造武器をB国のC取引所まで輸送してもらい、仲介人Dとの交渉を済ませ、Eチームに武器を狙う組織Fからの狙撃を阻止、撃退して頂いた後にAとE双方のチームが合同して組織Fの物資を全て破壊の後に崩壊に向かっていただく」

「オーケー」

依頼人の男は2人を一瞥してから、慇懃に礼をし部屋を後にした。

女Sはその依頼人の背を見つめてから、静かに閉められた戸のある方向から男Mを見て肩に頬を乗せた。

男は彼女の髪を撫でてから銃に弾を詰め込み、立ち上がると地下の射撃場へと歩いていった。

女はソファーの背もたれに、頬を乗せ目を閉じて、幻想を思い描くだけ思い描いた。

世は尽きている。

夜は満ちている。

水は業火を打ち消すことなく雫を落とし、闇を潤す……。


依頼人の男Uは司令塔へ戻る前に、Sの保護者であった女の死体のある研究所へ降りた。

彼女はSの12の年に病に伏した。その日から彼女は無我夢中で腕を磨き上げた。

プロフェッショナルへと。

だが彼女は……心が純粋過ぎる。

Uは死体の収まるカプセルを見上げ、敬礼するように目礼してからドクターのいる場所まで歩いた。白衣に身を包み、検査の結果を見る。

不治であり、原因不明であった病魔はことごとくYの体を蝕んだ。

あの子は、SはYに似ている。殺しを嫌い、憂い、行動に移してきた。

Uは究明されないままの研究を一段落させると司令塔へ向かった。


Mは機関銃を構えそれを振って部下達を誘導すると、ヘリから揃って地へ降りていった。

爆撃が肌を焼き、男の鈍色の瞳を光らせる。

銀色の月に反射して、一瞬で緋色の爆炎が消し去った。

Sが搬送して行った物資の方向を目で追い、反撃してくる組織Fの人間共を攻撃していく。

Sはバイクに飛び乗り背後を一度見てから部下達に目配せすると一気に疾走して行った。

バイクに両足を掛け、C取引所のゲートで反撃派が攻撃を仕掛けてくるのをSは弾丸を激しく打ち込み、歯で手榴弾のキーを引いた。

「東エリア、」

投げつけ、ゲートを爆破した。

「オーケー!!」

B地点へ駆け抜ける。

司令塔UからSへ通信が入る。

『S。B地点封鎖完了致しました』

「ええ!」

Sは背後に手をかかげた。

「皆私に続け!突入する!」

バイクで燃え上がる炎の中突破して行く。灰が舞う。

Sの美しい顔を照らす。

「M!!応答せよ!!B国は完全に抑えた、海上Fで落ち合う!」

SからMへ連絡が入る。

「オーケー!」

「Good Lack!」

「Good Lack!」


Mは機関銃を肩に担ぎ、激しく壊滅した組織Fを背に煙草の紫煙を引き、後にした。

司令塔へ連絡を継ぐ。

「組織Fを壊滅した。今から帰還する」

「ご苦労様です。見事でした。では、お待ち致しております」

ヘリへ乗り込み黒煙の渦巻く天を滑らせて行った。

炎の中、Sの幻を見る。

殺気が渦巻く。深い愛情と共に鋭く際立つ。

微笑む。

Mの涼凛とした顔立ちを闇が飲み込むように、ヘリは空をかけていった。


無機質なただ広い空間へ帰ると、部屋にはまだSは帰ってはいなかった。

Mはバイクのキーを手に収め、部屋を視線だけで見回してからきびすを返し、後にした。

Sが帰ると、Mはまだ帰ってはいなかった。

彼女は黒ビロードの上質なロングワンピースを美しい体に身につけると、グランドピアノの置かれた場所まで来た。

椅子に腰掛け、広いリビングを見つめる。

彼女の保護者Yの形見のグランドピアノは、ベンゼードルファーという代物で、鍵盤の数が多い。

重厚に指を滑らせる。

水を打った様にしんと響き、流れる水の様に旋律が響きわたる。

サティーの『夢』を弾く。

瞳を閉じ……あの人を想う……。

Mは海岸線を走らせて行き、青の海はどこまでも一定の美しさだ。

バイクを停め、ガードレールに腰をつける。手で風をさえぎり火を点す。

風が海岸線の際の山間から、海原へと爽快に走って行く。視線で追い、流す。

銀色の太陽の光に彼の瞳が屈折することなく射す。

Mのプロになる前のパートナーGがMのところへ来た。

「最近、お前バイクのイベントに顔出さないじゃねえか」

「ああ」

「女といる時間の方が既に魅力的か」

Mは微笑み、その瞳に一瞬宿った炎を見てGは海に目を向けた。

こいつは、危険な愛情に埋もれている。

Gは今日のタトゥーコンベンションを告げたが、やはりMは揺るがなかった。

全ては褪せた世界だ。あの女以外は。

夜のコンベンションまでの暇つぶしに付き合えとGはMを誘ってバーに来た。

「最近、Wの噂はどうなってる。プロになっても探れねえのか」

「ああ」

悪魔的な伝説を持つ組織Lの謎の殺し屋、Wは、Mがこの世界に入ってからの目標だった。誰も姿を見た者はいない。

最上のプロへと上り詰めればお目にかかれるはずだ。

「お前等は、昇進の話はそろそろ出るんじゃねえのか?」

「さあ。あの糞Uの手の内も、スポンサーの豚共の機嫌伺いもどうでもいい」

昇進の話は司令官Uとスポンサー達が取り決める。

MとSの腕は着実に次のステップまでのし上がっている。


MはSの頬に手を当て、長い髪を片方の肩に流した。

肩を引き寄せて壁を見つめ、目を閉じた。

「16時から、Uに私たちは呼ばれているわ。会議室へ来て欲しいって」

Sは微笑みMを見つめ、その彼の頬を撫でた。

寄り添って、目を閉じた。

Sの心の中、静かな殺気が澄み渡った。

闇の中、渦巻く殺気がMの中に駆け巡った。

殺したい程の愛おしさ。

極限まで続けて、

「いつか、殺し合いましょう……」

水が業火を澄み渡らせて、炎が聖水を威嚇する。

Sの首から掛かる黒クリスタルの十字架が光を屈折して、静かに輝く。

愛する程に、互いだけの世界でいい。

いつまでも

「その時までを」

どこまでも


「本日を持ち、あなた方は昇進なさいました。これより更なるグレードアップにお励みいただきたい」

組織Lの最高グレードまで、あと一歩へと来たわけだ。

「今回の昇進、喜ばしい限りだわ。ようやくよ。ここからがスタート地点ね」

「ああ」

「全ては、あの人のために……」

Sは黒の十字架を手に取り、Mの瞳は鋭くなった。

「……。あの人?」

なんだ?まだ邪魔者がいるっていうのか?

「ううん。なんでも無い」

Sは小さく微笑み、通路を歩いて行った。

Mはその背を見て、目を細めた。


続ける仕事。こなして行く依頼。姿を表さない殺し屋W。腕を上げていくMとS。

精神を愛情で切り詰めて行き、研ぎ澄まして行き、誰にも邪魔をさせはしない……。


10

「………、」

SはいきなりMを突き放した。

Mは目を見開き、Sを見つめた。

「もう、終わりにしましょう」

Sの大きな黒の瞳から涙が流れ、眉をひそめた。

「もう嫌なのよ、もう……」

何を言っているんだ?何を終わらせよとして。

この愛情は永久に続くんじゃないのか?何を言っているんだ?耳を疑う……

「もうあんたを愛せないの、あんたは……」

Sは涙の流れる顔で美麗な顔を微笑ませ、きつく言った。

「あんたの愛は私には重荷なのよ」

言い放ち、その場を去って行こうとする。Mはその腕を掴んだ。

「何でだよ。まさか、誰か他に男が出来たって言うのか?もう俺を」

そうじゃないわ!あなたを深く愛している。でも、駄目なのよ……

「ふん、そうよ。もうあんたにはうんざり」

SはMに向き直って、深く愛しつづける彼を、見つめ見上げた。

「もう、あたしはLを去るわ。殺しにももううんざり。はじめから、嫌だったのよ。全てが」


11

「でもね、M。誓いを立てるのよ」

SはMの頬に一度触れてから腕に手を下げ、彼に言った。

「私は数年後、あなたの元に必ず現れる。その時には……」

MとSは見つめ合った。炎はくすぶり、Sの鋭く美しいツルギの穂先のような瞳は聖水の様に強く潤っていた。Mの炎は音を立て銀色に広がった。闇の中。

「殺しあいましょう」


12

UはSの決断を断固反対した。それも当然だ。

だが、Sの心は強固として変わらなかった。Sの決断に、Uは逆らう事など出来はしない……。

Mは一人残った部屋で、床を見つめ怒りがくすぶった。

男。何者かの影。

『あの人』

誰なんだ。一体……。

俺たちの愛に邪魔者は一人として既にいなかったはず。全て消し去ったはずだった。

『W』

Mは眉根をひそめ、闇を睨んだ。Wなのか?正体不明の殺し屋。

Sは組織Lの血縁者だ。組織で生まれ、組織の血縁者に育てられ、ボスの血族だ。Wを知らないわけもない……。

Sは大切に籠に入れられた鳥のように育てられてきた。組織最高の殺し屋へと。

Mのように、スポンサーに引き抜かれこの世界に入ったわけではない。Sの姿自体、Mの連れのGでさえ知らない。

それとも、Uの事か?UもSを育てつづけてきた。大切にだ。事実、SはUを幼いころから尊敬している。組織Lの司令官であり、他組織との総合公証人だ。

だが、Uの存在すらも既にMにはかなわなくなっているはず。

Mの怒りは渦巻き混沌と、闇を侵食して行った。


13

Sは組織を去ると、ある男と婚姻を結んだ。

そこで、静かに過ごし始めた。

愛するMとの再会の時だけを待ち望み……。

Uは決断せざるを得なかった。Sから聞かされた話を、聞いて、瞳を閉ざした。

頷いた。

UはYのカプセルの前に来て、ドクターと共に病魔の解明に力を注ぎ続けた。


14

Mはワンマンで動くようになるとしばらくして、組織の最高グレードを手にいれた。

Wと同じ、グレードだ。

Mはこの昇進に口端を引き上げた。最高の気分だ。

ここに、共にSもいれば……

青の海を見つめ、どこまでも澄み渡っている。カモメは高く鳴き、そしてしんと声を天に響かせた。

『再会の時に、誓いを果たしましょう』

Mはバイクに乗り込み、自分のねぐらへ走らせて行った。

豪華なパーティー。どこにもいない。

激しい仕事の炎の中。どこにもいない。

S。

……S……

誓いの時を、待ちつづけ。


15

GはMが青の海を見渡す横顔に言った。

「どうやら、大きくLが変革を迎えるらしいぜ。お前の女が駄々こねる内は大丈夫とも思ったんだが」

「ハッ、Uの野郎もスポンサーの豚共の勝手な行動にも嫌気が差してるんだろう」

「お前はトップグレードだ。お前なら、好きに会議で意見できるんだぜ」

「Wの動向は」

「さあ。本当にいるのかも不明な野郎だぜ」

「今までこの組織方針に文句も言わずに従ってきたなんて、それとも、よっぽど優遇利いて待遇がいいんだろう」

「そうなのかもしれねえな」

今、Mは組織内本部にあったあのSの部屋を去り、組織外にねぐらを構え、本部には会議の時ですら行かなくなり、依頼の全てもコンピュータ上で済ませていた。きっと、Wもずっとそうして来ていたのだろう。

海は太陽を翳らせた。

あいつがいなければ、どこも不完全な世界……


16

3年の歳月が過ぎ、スポンサーに会議室へ呼ばれ、久しぶりの本部へ足を踏み入れた。

S暗殺の依頼が下った。

今まで、目を覚ますたびに横にいないSを思いつづけてきた。

Sの体温の無い横のスペース。

Sの存在の無い部屋。

あいつの微笑みと透明の涙の見えない距離。

生きているのか、死んでいるのかさえ分からなかった3年間……


17

Uは車に乗り込み、約束の場へと向かった。

SはUを認め、車両に促された。

誓いの場へと、進んで行く。

あいつと私との、誓いの場……

UはSに、病魔究明が間に合わなかった事を告げた。

「……そう」

Sは力なく微笑み、あまりにもその微笑みが美しすぎて、青い輝く海を見つめてUはSを見た。

「S。私は、貴女を愛しておりました」

Sは風にも揺らがない黒の髪を手で抑えそっと振り向いて、Uの静かな美しい瞳を見つめた。

一度は、Yが死に、その報せをしに来た彼に、言ってしまった言葉。

『私は悲しくなんかないわ。あたしはどこまでも腕を上げなければならないの、Yのため、組織のため、悲しんでなんかいられないのよ、だから……』

『せめてもの救いね。ふん、……その、冷めた瞳』

あの時のUの、Sを見た瞳は、今まで何事にも揺らぐ事のなかった冷徹な瞳が揺れた。微かに、揺れた。幼い日Yに紹介された初めの頃から変わらない美しさと、哀しい色のまま……。

「知ってた……」

Sは波止場のコンクリートを見つめて瞳を閉じ、開いた。

海はどこまでも広くて、美しくて。

尊敬しつづけたYとUを、大切な人たちと思いつづけ、分かっていた。揺るがない心の奥底で、Uが厚く尊敬の意をこめていたYが死んで、本当は心揺るがなかったわけが無かった事。

彼女を欠いて、行き場の無かった私は無我夢中になっていた。諸刃の剣を、鋭くして行くだけの様に。

「あなたは、私にはいなくてはならない空気のような人だったわ。いて当たり前で、いなければ困る、私の尊敬する大切な人だった。組織をここまで、あなたは大きくしてくれて、KボスやYや私の為にどこまでも尽くし続けてくれた」

Uは瞳を開き、海を背後にするSの姿を見つめた。

最期の姿に留めなければならないなんて信じたくは無い


18

再会の場所へと向かい、Mは銃を黒革のスーツの中に確かめ、ドアを見つめた。

この倉庫廃墟の中に、Sがいる……。

美しいS。

美しいS。

愛しつづけた女。

背後の海は天にカモメを乗せて声を響かせ、Mは地面を見つめる瞳を、静かに上げた。

ドアノブを回し、戸を開けた。

俺は……

いつかの海に誓い、Sを、彼女を想った。

どこまでも青く、そして永遠のように感じた海。

いくら目覚めても帰ってきていないSは、帰らないままで……お前のいない世界など……

 帰ってくるんだS。

 俺の元に帰ってくるんだ。

 俺たちの、空に

 俺たちの……未来に

どこを探しても……見つからなかった夜は一人泣いた

倉庫内に進み入り、Mはある一点を見つめた。

「……M」

Sは歓喜の微笑みを美しい顔に広げ、目元を潤ませた。

Mは、Sのあまりの麗しさに息を一瞬止めた。

彼女は3年前にも増して、何かの純粋な光に充たされていた。

「S」

MはSに歩み寄り、彼女を強く抱き寄せた。

やつれた。そう思った。見た目は昔のままだというのに、黒のビロードに包まれた滑らかな体は、どこか頼りなさがあった。

Mは銃を持つ手を緩め、ためらった。3年前に、殺しを止め組織から去るSから受け取ったSの拳銃。

「……」

抱き寄せる、Sの小さな背を見つめ、髪を撫で、髪に頬を寄せて実感する。

Sだ。愛するS。

「……M」

Sはつぶやくように囁き、倉庫跡の積み立てられるコンテナや滑車の下がる中、Mの抱き寄せてくれる胸元を見つめてから顔を上げた。

拳銃を持つMの手に細い手を重ね、Mは涼凛とした瞳を開いてSを見た。

「……愛しているわ……M」

SはMにキスを寄せ、微笑んだ。


19

「………」

Mは目を見開き、音を立て倒れたSを見た。

カモメは高く舞い、声を響かせ……

そんな

「なんで」

Sは厚いまつげを動かす事もなく、息を引き取るとそのまぶたから透明な涙が一筋流れ滑った。

Mは信じられなくて視線を定めることも出来ずに、Sから目を離すことも出来なかった。

Sが、Mの手の上から自分の心臓に銃口をつけ、自分で引き金を引いたからだ。

Mの体からSは離れて行き、地面に落ちた。


20

Mは鋭い瞳から涙が一筋流れ、空虚を見つめ、カモメは遠くへ飛んで行き風に乗り……

カラカラカラと、音を立て回した。

Sのリボルバーを自分のこめかみに突きつけた。

カチ、

「………」

乾いた音を立て、弾は彼の小さな頭を打ち抜きはしなかった。


21

UはMの去って行った場に来て、Sを見つめた。

即死だった。

Uはしばらく見つめ、彼女の体をそっと抱え上げて運んで行った。

海の見える岬に彼女を埋めた。黒の十字架は、輝いたまま……

自分は、泣くことも出来ずに

悲しみさえも手にとる事が出来ず


22

「我々を、守ってくれ!頼む!」

「当然全力を持って」

司令塔でUは反逆者Mの総攻撃に立ち向かう戦闘員達に指令を出して行き、巨大な画面を見上げた。

彼は着実に組織Lを破壊へと導いて行く。徐々に、徐々にここまでと来る。

彼はトップグレードの殺し屋だ。彼からの反撃は相当の物だ。

Uは画面からきびすを返し、大またで歩いて行った。

「W、あなたも向うのですか」

「ええ」

颯爽と歩いて行き、そして、振り返った。

「………」

Uは司令塔を見渡した。

激しく立ち回る彼ら。

指示を仰ぐ上層部。

半生を、生きてきた場所

人生を捧げて来た彼の居場所

組織に身を投じ、組織と共に育ち、生きてきた

Uはスーツから銃を出し、その銃口を上げた。

微笑みなど、忘れていたものを

司令塔の彼らと共に来た時間、全ての力になって着いて来てくれた彼ら、大切な部下たち、全ての時間、自分に身を投じ、任せてきてくれていた信頼する彼ら。

「!……W、一体、何を?」

Uの瞳から涙が流れ、彼らは彼を見上げた。

「……W」

忘れたものを、微笑んだ。

「今まで、有難う御座いました」

大切なもの全てに別れを告げるなど

彼らは彼を見上げて、瞳を閉じ、微笑んだ。

彼らは一斉に敬礼した。

「総司令官、長年、ご苦労様です。我々は、あなたと共に、あなたの元に、この組織と共に生きて来れた事が、真に幸福でした」

なぜ、こんな決断を実行しなければならないのか、なぜ、居場所を滅ぼさなければならないのか、なぜ……最高の腕を持ってしてでも

愛する者だけを救えなかったのか

組織と共に生きてきた、彼らも……

銃が激しく唸り、硝煙が空間にうずまいた


23

Mは激しく撃破して行く中を突き進み、組織の人間全てを殺して行く。

Sを始末する依頼を出して来たスポンサー共、Sを奪った張本人のはずの殺し屋W、親父を奪った組織、Sを欠いてはもういらなくなった俺の居場所。

大切な親父を失ってから、もう、破壊しか見出せない

Mはスポンサー達の集まる会議室への扉を蹴り開け倒し、機関銃を激しく打ちつけた。

ゆっくり移動し晴れて行く微かな硝煙の先の闇に、男を見た。

「………U」

彼を見て、静かに頭は働きはじめていた。そして、巨大な怒りも。

「お前が、……W?」

眉をひそめMは銃口を下げ、彼を睨み見た。

彼、Wは今までのお堅いエリートのスーツ姿が思い浮かばない装いで、確固とした雰囲気やオーラまで違った。

誰もがIRON HEARTとまで名指し、鉄の心を持ち恐れられ続けた殺し屋。

『あの人』

「お前が……Sを俺から奪ったのか……?お前がWなんだろう!!!」

銃を叩き付けるように床に撃ち、鋭く歯を剥き睨みつけ大またで進んで彼に殴りつけるように機関銃の銃口を向け銃声が轟いた。

彼はそれを避けMの肩を掴みあちらの壁までを叩きつけMはバウンドして軽く身を翻した。痛む背を抑え、信じられない力だ。

SはUを尊敬していた。ボスの変わりに組織を動かして来た男で、SをYとかいう女と育ててきた男。深く、尊敬していた。こいつが、組織Lの悪魔、Wだったからだ……。

MはUが大嫌いだった。愛し合う俺よりもSとの深い信頼関係を持つUが。

SがUに向ける瞳が許せなかった。邪魔者だった。

Mは目元を落ち着かせてWを見て、もう一度聞いた。

「……。いいえ。彼女が愛したのはあなたのみです。Sはあなたのみを深く愛し続けた。私の存在などは、映らない程に」

「……」

初めてUの冷静な瞳が冷酷とは違う色味に見えた。

こいつ、Sを愛していたんだ。

Sのプロへと転進して行く姿を見て行くWとしても、大切に育て上げ続けたUとしても、組織に捧げて来た司令官としても、Sの強固とした努力の美しい姿に。

きっと、知らない内に

MはWに宣戦布告した。


24

Wには殺気があった。

Mにも殺気があった。

Sを失い、MはSを狂った愛情にたどり着かせ精神を殺ぎ落とさせて行き、UはSを、それで最強の腕へと上り詰めさせて行く組織体制の元見守る他なかった事に。Sをも襲った病魔に打ち勝てなかった事に。

Wは組織Lの海底地下の巨大な基地を爆破し、対戦の場に立った。

銃を互いの各々の手の内で確かめ、向き合った。

激しく打ち合い、腕は同等とはいえ全てに均等の取れたWはUともども全てに長けている。Mとの勝算は五分五分だ。

激しく打ち合い、愛する者を失い、憤りの向け様も無い物に奪われ殺されて、組織をいくら滅ぼしても既に蘇らない。

Wは撃鉄を上げ、互いに負傷しあう中、空を見上げた。

銃口を上げ、互いに飛び向け合った。

『愛とは何なのですか』

『そんな物はくだらない』

『……U坊やはどんどん変わって行く』

『私は、組織の為に生まれ、組織の為に生きて行く。全ては、組織と共に』

亡きKボスに誓った言葉は、強固として形作った。

『愛とは……なんなのですか』

S……

……S。

『Kボス。誰もが、私の目を見て顔を白くする。何故ですか?』

自分がどうやら他人とは違うらしいと気づき始めた少年時代は、いつも感情の一つ一つを人に問うていた。分からずに。感情を欠落する事が、何がどうというのか、愛情を理解出来ない事がどうというのか、人には感情がある事が、羨ましかった時期があった。心の底では……

乾いた音を立て、Wの心臓に銃弾がのめり込んだ。

『いいこと。U。私の子供をスポンサー共から守って。絶対にMには悟られないようにして』

『そして、組織を滅ぼして』

S、愛するS

……貴女と共に生きて来た

私の人生も共に……

『あなたは私の尊敬する人よ!』

…私は……IRON HEARTなどでは無い…

音を立て、Wは仰向けに倒れこみ、空が歪む事無く流れた。


25

Mは険しく眉をひそめ銃口を下げ、倒れたWを見た。

わざとだった。

わざと撃たれた。

わざと……

「……おい、貴様、一体どういうつもりだよ!!!」

Wは一度視線をMに向け、また空を見た。

実際Mに対しての激しい憎しみがあった。Sの命令を背いてでもMの命を取りたかった。殺したかった。それでも……

Mには完全に負けていた。分かっていた。SはMを心底愛し、彼の為に全てを受け入れ、そして本当は死ぬ直後まで彼と共に過ごしたがっていた。

彼の為にここまでを彼女は絶えつづけた。病魔と戦いながら、体力をなくしても、大切な子供を大切に育て続けた。

組織から隠す為、組織から逃れるため、決してMから逃げたわけじゃない。

声に出せなかった。

分かっていた。Mから大切な存在の父親を奪ったのは組織だ。組織に関わらせたのも、彼の全てを絶望させ奪ったのも……我々だ。

意識だけはっきりしていても、死が横たわっていた。

『もし病気が治るような事があれば……組織を去って家族3人でずっと生きていきたい……よくね、想像するの。今まで出来なかった豪華な遊びをして、Mと共に思い切りはしゃいで、今まで組織から出る事は許されなかったけど、出来ることなら……彼との未来に帰る事が出来ればいいのに……』

涙を流し、自分は彼女の画面の中の頬をぬぐう事も適わずに、

あの言葉が、どんなに自分に向けられたものなら良かったかと……彼女の為に、Mと再び彼女が幸せに愛し合うまでの時間をどうにか繋げてあげたいと願い続け、足掻きだとは思わない。決して、思わない。

Mを愛していたあの頃のSは、本当に、美しかった。透明であって、潤いだったからだ。

『愚かな事では無いはずなのに……、私は願い続けているのよ。彼との明日を、彼との未来を、彼との……光を』

S

Wは、いつの間にか息絶えていた。

Mは激しく怒鳴り叫んで拳銃を地面に叩きつけ、あらん限りに怒鳴り叫んだ。

何でだ。何で、何で、

何で、何で……

全てを闇に閉ざさなければならなくなったのかも判らずに


悲愛

生き残ったMは海を見つめ、煙を吐き目を閉じた。

空は夕暮れを濃密に色づかせ、カラスが鳴くのを感覚の中に入れた。

どこの空気も何も感情を乗せずに流れては、どこにも留まらずにMを一度包んでは吹いて行った。

紅い太陽は夕陽と名を変えて沈み行き、全ての亡き者を沈ませた。

怒りに身を投じ、全てを無くして、一人佇んで

愛し、心底愛し、失って死なずに生きろというのか。

不可解に死んで、何の理由も告げずに、殺しは疲れただとか、愛はもう要らないだとか……下手な理由ですぐに分かる嘘をついて、俺の元から去って愛を終わらせて、世界を見る事も無く死んで行った。

S

お前を俺はどうすれば良かったんだよ。連れ出せば良かったのか?逃げた隠れる場所から、何を言っても有無も言わせず、何が世界に、俺たちの間に待っていようがかまわずに連れ出せば良かったのか。お前をずっと傍で互いに死ぬまで愛しつづければ。傍にいつづけ愛を手に取り合って、そう、したかったのは、俺だけの心だったのか……。何も言わずに、死んでいって、俺を一人残して……

俺は、これからどうすればいいんだ。

Sは、俺にどうしてもらいたいが為に、一人死んで行ったんだ。

一人だけで。

あんな事を

『あなたは、生きて』

最期に囁いて

他の愛情で、お前を包み込むことが出来れば、もう遅いが、望みは尽きなかったというのか……。

それでも、生きる事を、選ばなければならないのなら、何をこれからの糧に生きて行けば良いのかを、自分の手で模索して、きっと、俺にはお前は、『幸せ』になってもらいたかったのだろう……


静愛

愛情の為に人はどこまで生きられるのか。愛情を知れは、人はどこまでも突き進もうとする。どこまでも変わる。その人の為に、生きる事が出来、死の隣り合わせの世界で必死に生にすがりつき、誰の為に生きる事が出来るのか、誰の為に人生を捧げることが出来るのか、心を失っても、蘇らせることの出来る愛情を、どれほど暖められるのか、それでも、死ぬことさえも出来る究極の愛。

そんな事が、3人の心に分かって模索し進みつづけ、誰にたわむける事が出来たのか、充分愛した死んだ者にも伝わったから、選ぶ道を選択できたのかもしれない。

Sのその気持ちもまだ理解できていないうちからMは生きる道を選び、それでも長い残された人生の中で、絶望するかもしれず、愛を失った中を生きる他無く、Sにずっと問い掛ける。


俺は幾度もロシアンルーレットを続け、毎日のように泣き、Sの幻を追いつづけ、運命は俺の頭を撃ち抜きもしないまま、Sを失った、色を変えた闇の中を模索する。

理由もわからないまま、どうしても知らなければならない物のはず。

Sをあの時自殺へと追い込んだ何かの真実。

Sを狂愛から反らさせた存在。

誓いを破ってまで一人自殺した現実。

暗い道を、俺は歩く……どこまでだって、死んだお前の幻を追い求め。

生への執着なのだと気づく。

いつも最上と最強を追い求めた中で出会った極上の女と、どうしても死が人に待つ事が本当は互いに哀しくて、失いたくなくて、悲しいほどに追い求めて、宇宙を抱かせ大河を、闇にも光を、愛情で侵食させて、終わりを望む事しか浮かばずに、結局は早く終わらせた。

一番の生への執着が、努力の元あったお前を一番早く、失わせて。

それに気づけば、Sのリボルバーを持ちつづけてロシアンルーレットを続けずに済んだのに。

低俗を嫌い、目の前の物を見ずに追い求めるだけ追い求め、全てに愛情を盲目にさせ

俺は、愚かな男だ。

一番大切な者の心を失ってしまった。

死んで初めて気づいて、悟った。

普通の愛情に生きる事に勇気を持てずに、どうして生きてこられたのか。

死を持って、変えられる愛情など、無いことが幸せなのに。

『安心』という言葉を人生で初めて聞いた時には、既に心は悲しみと絶望の中だけで埋め尽くされていた。心配する者の姿も見えなくなり、頼れる道を欠いては、運命にようやく見放され、

俺の頭を撃ち抜いた

本当は、Sを失って、寂しくて、悲しくて、生きて行く事がどうしようもなく辛くて仕方が無かった……生きて欲しいという言葉に、生き続けても、望みを作りつづけても、世界を装飾しても、虚しいばかりで、早くお前の元に行きたくて

独り残され、死になど執着せずに、愛情を本当は感じていただろう恐怖の内に死に向わせずに、そんな愛情も捨てて勇気を持ち『生きて行く』心で強くなることも出来ずに……

純粋な諸刃の刃でなく、Sの心は本当は鋼の剣のように強かったのだ。

愛の形を守る事に生き、悪魔の様に判断を下させ終わらせはしたものの、

闇の中に消え果て

空虚の瞳は感情のがらんどうを見つめ、涙も流れ果て、既に息は無かった。

そんな夢を見て目を覚まし、

ふと、辺りを見回した。

生きる事に、吹っ切れた気がした。

歩くために立ち上がった。

多くの人間がするだろう、失った者達の存在を留め、これからを生きる事。

俺は、笑顔を取り戻していた。

もう目の前の幸福を逃さない様に、着実に生きる術を身に付けて、お前を失ったが、

その場を愛せ

泣きこそすれ、

……恐れるな

愛情に生きろ、だろ。愛情を続けろだろ。この身を持ち、限られた生の中で。

また感情に揺らいで、感情が人を生かし、生へと執着させる。

感情を殺ぎ落として生きる事など無いんだ

たとえ、辛くても良いことが俺の身にいつかは巻き起こる。

お前といくはずだった道しるべも、辛さも、一つの事が加われば幸せの字になるから、その方法を自分の手で掴みとって他の者を愛する勇気を持って、続けて行く。

叶わなくても、お前との時間が叶わなくても、共に行くつもりの道を行きつづける。




おまけ


暗い中、土が盛り上がった。

彼、Wは思い切り息を吸い込み大きく瞬きした。

そこは自分が埋め立てられたどこかの山の中だった。

鋼の心臓はやはり鉄だったらしく、血が流れる胸部に、指を突っ込みひしゃげた弾丸を取り出した。

「やいーやい死ななかったみたいよ〜」

どうやら何かのたがが外れた様で、どこかしらフランキーになっている。

頭をカリカリかいては土を払って立ち上がった。

「まったく、俺の整った顔がこれじゃあ泥まみれじゃないか!」

カンカンに怒って泥を払い、元々きつい性格的に密かにナルシストだった彼は辺りを見回してやれやれため息を付いた。

元から完璧な道を選び着実に生きて来た彼は完ぺき主義者で、人生の成功を組織Lで収めた人材であるからその後の老後までをまた確実に生きる事を選んだのだった。

顔の泥は、微かに流した最後の涙によるものとも知らずに



<終>


 ちなみにMは、その後に派生させ二十歳前後から書いていた警察ギャング物語DGGシリーズのなかでも、特に「死を見つめる瞳」に登場する男側MM(もう一つの顔が暗殺組織殺し屋)と同一人物です。元々破滅的危険思想を持ち合わせた性格がなおの事ひねくれてしまいました。

 私自身の年月の経過により、Mが他シリーズとも絡み合った結果、物語の利便上男女の双子になったりMMという身分を作ったりなど、いろいろ派生していったことが分かります。

 こうして一つの物語が多くのシリーズと絡み合い派生しあいながら、全てが関連ついていったという長いストーリーのごくごく一部のシリーズをこちらのサイトに載せております。

(ZEBRANAシリーズは全っくの別物です。時々クラブが日本支部、というように絡む程度です)

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