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ツバメ―load to world―【お蔵入り放出】

作者: 滝皐

制作段階でお蔵入りになった作品の供養小説になります。

完全に途中で終わってますが、気にしないでください。

 夏の暑い日だった。

 木々のざわめきやスズナリゼミの金切声に似た鳴き声を耳にしながら、ウィル・ハーベルはある光景を見ていた。今は配達の帰り。自分の勤務先に戻るために、近道をしようと沿岸をサイドカー付きの源素二輪空車(エレスバイク)で移動してた時の目撃してしまった。


 砂浜で行き倒れている子供がいた。


 バイクを止めて砂浜に下りその子に近づく。海で遭難でもしたのだろう、その子服装は薄着だった。


「大丈夫か? 生きてるのか?」


 死んでたら死んでたで困りもんだと思った。

 顔にかかった琥珀色の髪を払ってやり、とりあえず脈を確認して血がちゃんと通っていることに安心する。

 しかしどうしたものかと辺りを見渡して見るが、見える限りに人が住んでいそうな建物はない。だからと言って見つけてしまった以上、放っておくことも後味が悪い。


 考えた末に自分で運ぶしかないと考えたウィルは、その子をサイドカーに乗せてバイクを発進させる。


 まず病院に向かうことにしたウィルだったが、走行中にその子が呻きだしたでまたバイクを止めた。


「おい。大丈夫なのか?」


 ウィルの声に反応するようにその子は薄い目を開けると、「水……」と一言呟いてまた意識を飛ばすのだった。





「いや~。助かりました~。ありがとうございます」


 半分近くあったペットボトルの中身を全て飲み干したその子は、緩んだ顔で頭を下げてくる。


「いや。構わん」

「いえいえ。あなたは命の恩人です。私にできることがあれば何でも言ってください」

「ならまず。お前が誰なのか教えて欲しいんだが」


 そう言われてその子は「そうでしたそうでした」と自分のポッケを弄り始める。


「私。こういうものです」


 取り出したのはクリアランスと言われる階級証だ。受け取ったウィルの目にまず入ったのは、その子のクリアランスが最下層のブラックであること、そして名前の欄に記入がなかったことだ。


「お前、ブラックなのか」


 奴隷。ブラックは総称してそう呼ばれる。どこの島にも必ず存在する汚点。唯一ブラックの立ち入りがないのは、中欧島ただ一つだ。


「はい。まあ色々あったんです」


 奴隷の多くは子供であることが多い。理由としては、親に身売りされのだ。そして子供が辛く苦しい現実を生きる中、そいつらはのうのうと売った金で暮らしている。

 ウィルもそれ以上その子の過去を聴こうとは思えなかった。ただ黙ってクリアランスを返し、その子の足元にある自分のバックからパンを出すよう言い、それを分け与えた。


「重ね重ね、ありがとうございます」

「お前は、逃げて来たのか?」

「そうですね。逃げてきました」

「そうか」


 沈黙が二人の間に流れる。その子はパンを食べ終わると、ウィルの方をジッと見つめる。ウィルもその視線に気づいたのか、なんだかそわそわしている。


「何か付いてるか?」


 耐えきれなくなり尋ねてみるが、その子は首を横に振った。


「いえ。ただ、綺麗な銀色の髪をしていると思って。見惚れてたんです」


 ウィルはそう言われ、少しだけ浮かない顔ををした。


「どうしたんですか?」

「いや、この髪は……母親と同じ色なんだ」

「それは素敵ですね」

「ああ」


 ウィルのその表情の真意を読み解くのは、その子には無理だった。ただその方がウィルに取って有り難いのはまた事実だ。


「いつまでもお前って呼ぶのも変だよな、本当に名前は無いのか?」


 その子は一瞬考え込むが、直ぐさまあっけらかんと笑う。


「ないです。なんだったら、名付けてください」


 予期せぬ返答に変な声が漏れたウィルだったが、少しの間考えた後に「フェリタ」と名付けた。


「フェリタ。幸福という意味の古代語ですね」

「詳しいな」

「勉強はしていたんで」

「そうか」

「でも、なんだか男の子っぽい名前ですね」

「ん? 駄目か?」


 何でかわかっていないウィルにフェリタは自身の胸をむにっと掴んで強調させる。


「これでも少し大きくなった方なんですがね」


 それだけでウィルが自分でとんだ勘違いをしていたことに気づき、「すまん」と謝った。だがフェリタは、嬉しそうに微笑む。


「いいですよ。そもそも分かり辛い恰好をしている私も私ですから」


 そう言って自分のシャツを引っ張る。

 それは奴隷であったことが影響なのにも関わらず、フェリタは全くと言っていい程気にしていなかった。それが強気から来るものなのか、それとも忘れたいから来るものなのかはウィルにはわからない。


「それに、いい名前ですし。幸福。皆に幸せをあげれそうですね」

「自分も幸せにならないと駄目だぞ」

「……はい」


 目に涙を溜めて頷いた。だが彼女は決して涙を零さなかった。


「そういえば、あなたの名前はなんていうんですか?」

「ウィルだ。ウィル・ハーベル」

「ウィルさんですね。いい名前です」


 その言葉に、ウィルは微笑む。

 それから一時間近く、他愛もない会話を楽しみながらウィルの勤めている運送会社ツバメの本拠地、『巣』がある街、水の都ヴィネッツに辿り着いた。水路が道のこの街は、源素空車(エレスカー)と言う、今ウィルが乗っているバイクと同じ、少しだけ地面から浮いている機械乗って移動することが通例であるため、道幅がとても広い。昔ながらの煉瓦造りの家々は、他の島からこの街並みを見るために来ると言うくらい美しい景観だ。


 巣はこの街の中央に存在しており、様々な種族の方々が利用する。

 サイドカーで街並みを物珍しく見るフェリタ。そのはしゃぎようは上京してきた田舎者のようだった。初めて見たのならこのはしゃぎかたも納得はいく。ただあまり動きまわるのはやめて欲しいとウィルは思った。車体が傾くので。


 街中を移動していると、大きな商店通りに出る。水路だけでなく左右に歩道も造られていてるそこは、多くの人達にで賑わっていた。


「おーうウィル君! 今日は生きのいい魚が釣れたんだが、一匹どうだい!?」

「いや! 今日はこれから巣に戻らなきゃいけないから! また来るよ!」

「ウィルちゃん! 今帰り!?」

「おう! ただいまおばさん!」


 中央の水路を通るウィル達に、商店街の人達は各々ウィルに声をかける。


「ウィルさんは慕われているんですね」

「この街に暮らして長いからな。それにツバメの仕事は、人と人の思いを繋ぐことだから。自ずとこうなるんだよ。それが嬉しい」


 自分の仕事を誇らしげに喋るウィルは、フェリタにとってかっこよく思えた。


「いい仕事なんですね」

「ああ。ただ危険も付きまとう。お勧め出来る仕事ではないな」

「そうなんですか?」

「骨董品狙いの盗賊はいるからなそういった奴らに狙われることもある。自分に子供ができるなら、あまりやって欲しくは無い。まあやりたいって言うなら止めないけどな」

「そうですか」

「ああ。……見えて来たな」


 ウィルの見る先をフェリタも一緒に見る。まるで宮殿のような建物が聳え、綺麗な装飾に巨大なステンドグラス。貴族が住んでいると言われても疑わない程美しいものだった。


「凄い」

「あそこがヴィネッツにあるツバメの本拠地だ。悪いが、先に仕事の報告だけさせてもらうよ」

「ええ。私は外で待っていた方がいいですか?」

「いや。ブラックが一人で外にいるのは危険だ、俺と一緒に中に入って貰う」


 ヴィネッツは他の街に比べて比較的治安がいい。とはいえ、そうゆう輩がいない訳じゃない。もしもウィルが目を離している隙に人攫いにでもあったらたまったものではないだろう。


「いいんですか? 私なんかが」


 ブラックはそのクリアランスの所為で様々な場所に入ることを禁じられている。例え主が許したとしても、店側やその建物が禁止していれば絶対に入ることはできない。フェリタもそのことを気にしているのだろう。


「いいんだよ。何か言われたら俺が守ってやる」


 そう言ってフェリタの頭を撫でるウィル。フェリタは頬を染めて俯き「頼もしいです」と答えた。


 巣の裏手に回り、駐車場の一角にバイクを止める。関係者口から中に入る。細い廊下を少し歩き目の前のドアを開けると、絢爛豪華な大広間に出る。ここは一般の人が自分の荷物の配達依頼をするための場所で、一階には大きな荷物を運ぶための窓口が、二階に小物品や手紙なんかを取り扱っている窓口がある。入り口から目の前に大きな階段があり、それを上った踊場から、二階に上がれる階段が二つに分かれる独特な造り方をしている。

 フェリタも想像以上の大きさに驚き先程から開いた口が塞がっていない。逸れないようにフェリタの手を握り、ウィルは二階に上がって行く。


 通り過ぎる一般の人も、ウィルと同じ翼の紋章が入った青色の制服を着た人達も、ウィルたちの方をジロジロと眺める。恐らくはフェリタの出で立ちに所為だろう。着替えもさせてないので服はボロく、顔は泥で汚れている。

 フェリタも自分の所為で見られていることがわかり、隠れるようにウィルに引っ付いて歩く。


「安心しろ。俺といれば問題は絶対に起こらない」


 安心させるように笑顔を見せるウィル。コクリと頷き、フェリタはウィルの手をけして離れないように強く握る。

 二階に上がりまた職員専用口に入る。綺麗に掃除された廊下に出て、ウィルの手に引かれながら歩くこと数秒。ある部屋の前に立ち止まる。扉の横に札が掛かっており、そこには支部長室書かれていた。

 扉をノックすると中から「は~い」と少し気の抜けた返事が帰ってくる。


「ウィル・ハーベル。ただいま長期配達から帰投しました」

「入っていいよ~」

「失礼します」


 中に入ると無駄なものが一切なく、本棚が幾つかと大きめの机と椅子があるだけだった。その机で仕事をしていた男は、うっとうしい髪の隙間から見える眠気眼の目でウィルを見ると眼鏡を外した。


「お帰り~ウィルく~ん」

「ただいま戻りました。アルマ・カルネ支部長」

「ん~?」


 アルマはウィルの後ろに隠れていたフェリタの存在に気づき、首をかしげる。


「隠し子?」

「違います」

「じゃあ……妹さん?」

「それも違います」


 アルマは他にはなんだろうと考えながらフェリタをジロジロ見るので、フェリタはビクビクしながらウィルの裾をギュッと掴んだ。


「この子はフェリタ。配達の帰りに行き倒れていたのを保護しました」

「お~。それは大変だったね~」


 アルマが言うと全く大変そうには聞こえない。


「それで~。その子どうするの? 一緒に暮らすの?」

「それは……」


 ウィルはフェリタを見て考える。正直な話しこれも何かの縁だと思って一緒に暮らしたいとは思ってはいた。ただ自分は仕事の都合で家に居ることは少ない。あまり構ってあげることができないのだ。それなりに大きい子だと言ってもまだまだ子供、守ってやる人が必要なはずだ。ならば孤児院に預けるか、頼れる友人に頼る他ない。


「……で」

「あの! お願いがあります」


 ウィルが言葉を言おうとしたその時、フェリタがそれを遮るように前に出てくる。


「何かな? フェリタ君」

「あの……私を、中欧島に連れてって欲しいんです!」

「……ん~?」


 その言葉にウィルとアルマは驚いた。中欧島は他の島と違って、特別な条件を持った人たちしか入れないし、暮らせないのだ。その条件は、シルバークリアランス以上の住民、貴族や王族であること。そしてそれに使える召使であること。王族の許可を獲得した限られた商人であること。それ以外の住民は脚を踏み入れることさえもできない、まさに聖域なのだ。宅配にしたってそうだ。門前で中欧島お抱えの『シギ』と呼ばれる運送会社が途中から代わりに配達をするのだ。

 そんな場所に連れて行け言うのだから驚きもする。


「え~と。フェリタ君。それは何でなのかな?」

「それは……言えません」


 何かある。それについては二人はわかっていた。ただそれが犯罪に繋がるのかが気になっていた。


「何か後ろめたいことでもあるのかい?」


 アルマの問いに、フェリタは真剣な眼差しで「ありません」と答えた。


「……ウィルく~ん」

「はい」

「ツバメの五箇条。言ってくれる」


 その言葉を聞いただけで、ウィルはアルマが何を言いたいのか理解して溜め息を吐く。


「Ⅰ・安心の運送は安全な運転から。Ⅱ・きちんとした挨拶はちゃんとした信頼関係を作る。Ⅲ・常にお客様の立場で考える。Ⅳ・犯罪以外の依頼は断らない。Ⅴ・受けた仕事は最後まで責任を持つ。でしたよね?」

「上出来♪」


 二人でわかっていて置いてけぼりをくらっているフェリタは、不思議そうに二人を見る。


「フェリタ君。その依頼、このツバメが受け持とう」


 アルマのこの言葉にフェリタは、ウィルに抱きついて大いに喜んだ。


「あ! ありがとうございます!」

「いいよいいよ。でも問題は山積みなんだよね~。ウィル君どうしようか?」


 さすがの支部長でも中欧島には行った事が無い。それはウィルでも同じことで、全くと言っていい程に案が出てこない。

 何かいいアイディアはないものかと思案していると。コンコンとドアがノックされる。


「リーベ・フランジュただいま帰投しました」

「入っていいよ~」

「失礼します」


 ドアを開けて入って来たのは、少しウェーブのかかったブロンドの長い髪の女性だった。リーベは入るそうそうウィルと視線を合わせると、顔を赤くして固まって動かなくなる。


「お帰り~、リーベ君」


 アルマが声をかけるが、リーベはドアを開けたまま動かない。みかねたウィルが「大丈夫か?」と声をかける。


「だ! 大丈夫に決まってるでしょ! 馬鹿じゃないの!? だいたいなんであんたがここにいるのよ!? 長期配達終わったんならさっさと家に帰って休みなさいよこの馬鹿!」


 ひとしきりウィルに罵倒を浴びせたリーベは肩で息をしながらフェリタに視線を向ける。フェリタはリーベの怒声に怯えてしまい、ウィルの背中を掴んで脇から様子を窺っている。


「誰なのこの子? まさか子供!?」

「違うよ」

「そ……そう。よかった。ま、紛らわしいことしないでよね!?」

「なんで俺はこんなに暴言を吐かれてるんだ」


 気を悪くさせるようなことをした覚えの無いウィルにとって、リーベのこの行動は理解ができない。しかし頭を抱えているウィルの後ろで、アルマは頬杖を突きながらニヤニヤ笑っている。


「これこれ君たち。痴話喧嘩なら他でやってくれないかな?」

「何言ってるんですか支部長!? 私とウィルはまだそんな関係じゃ……って別にそうじゃなくて!」


 必死に否定しようとしているリーベだが、アルマは全くと言っていい程取り入ってはくれなかった。ウィルに至っては何がなんだか理解できず、ことの成り行きを見守っている。


「もういいです! とりあえずこれ! 報告書です!」


 アルマの机の上に報告書を叩きつけ、踵を返して退室しようとしたその時。


「リーベ君。少し力を貸してくれないか? 他ではないウィル君の為に」

「はい? 何かあったんですか?」


 アルマはフェリタを指さす。釣られてリーベもフェリタを見る。


「そういえば、結局この子なんなんですか?」

「彼女はフェリタ。行き倒れていたところをウィル君が救ってあげたんだけど、なんでも中欧島に行きたいらしくてね」

「中央島!?」


 やはり誰しも中欧島の名前を聴けば驚くのだろう。リーベはウィルに本当なの? という視線を送り、ウィルは頷いた。


「呆れた。中欧島なんてどうやって入るのよ。島々を移動できる私達ですら入島は許可されてないのよ? それなのにこんな子供を入れるなんて。まずその子のクリアランスは幾つなの? せめて商業階級のグリーンはないと話しにならないわ」


 リーベに問われフェリタは渋々クリアランスを渡す。それを受け取ってリーベは目を丸くした。そして憐れんだ目でフェリタを見つめ、クリアランスを返す。


「ごめんね。辛いこと訊いちゃって」

「いえ。いいんです。ブラックなのには変わりないんで」


 そう言わせてしまった罪悪感がリーベの心に蔓延り、自分自身に憤りを感じていた。


「なんとしてもあなたを中欧島に連れて行く。そのためならなんだって手伝います」


 決意の籠った目つきでアルマに宣言する。


「うん。それは僕達も同じだよ。それに、もしリーベ君がごねたとしても、もう依頼として受けちゃっている以上、断ることはできないよ」

「なんですかそれ? 初めに言ってください」

「あはは。ごめんごめん」


 絶対に謝っていないアルマにウィル達は溜め息を吐いた。


「それで。どうするんですか? 私だって中欧島への入り方なんてしりませんよ?」


 協力を得られたところで問題は変わらない。結局はどうやって行くかだ。


「うん。ただ思い出したことがあってね。それだったら中欧に行けなくないんだけど、それもまた問題があってね」


 アルマがもったいぶっているので「早くしろ」とウィルが急かす。アルマ自身も「そうだね」と言って頷くと、フェリタを見た。


「フェリタ君。君は中欧島で暮らしたいのかな? それともただ行きたいだけなのかな?」


 その質問の意味がいまいち理解できてないウィルとリーベは、互いに見やり首をかしげた。フェリタもフェリタでどう答えたいいものか悩んでいる。


「どうなんだい?」

「……一日二日は居たいです。それ以上は望みません」

「そうか」


 フェリタの言葉を受け、アルマはまた考え始める。そして。


「ウィル君。君にある任務を言い渡す。心して聞いてくれ」


 いつになく真面目な顔のアルマ。ウィルも気を引き締め直し、アルマと向かい合う。


「フェリタ君と共に全島々を巡り、load strikeで優勝優勝してきなさい」

「……え?」


 予想外の命令にウィルの思考は止まった。勿論その場で聞いていたリーベも固まり、フェリタは聞いたことのない名前に二人の反応を窺っている。


「聞こえなかったのかな?」


 アルマが念押しでもう一度言おうとするので、「大丈夫です」とだけ言ってその言葉を止める。


「あの……load strikeって、あのload strikeですよね? 源素二輪空車(エレスバイク)源素四輪空車(エレスカー)で街中をコースに見立ててレースするっていう」

「それ以外に何があるっていうんだい?」


 さも当たり前のようにアルマが言うので、自分の間隔が可笑しくなったのかと錯覚したが、隣で聞いていたリーベも分かっていない。


「あの支部長。私は関連性が見えてこないのですが、なぜそのようなことを?」


 リーベの問いにアルマは「分からないの?」と煽ってくる。その言い方と表情にカチンとくるも二人は何とか堪える。


「load strikeはこの七つの島。ヘキサクルブライトで行う代表的なお祭りだ。一つ一つの島が国みたいなこのヘキサクルブライトにおいて、このようなイベントは年に二度もない。この時だけは各島の入島に大きな審査を必要とせずに、旅行感覚で島々を行き来できる。そして七つの島全てのレースゲームに参加して、最終成績が上位八名には中欧島のレース会場に出場できる権利が与えられるんだよ」


 そこまで説明を受けて、三人はハッとする。


「つまりはそういうことさ。これに勝ち進みさえすれば、中欧島には入れるんだよ」

「確かにそうですね」


 頷くウィルにリーベとフェリタは同意する。


「ただ中欧島にいけるのはレースに出た人らしいから、ウィル君だけが出場しても意味ないよ?」

「え? それじゃあどうするんですか?」


 フェリタは見た目12歳そこら、バイクの免許を取れる年齢だと言っても恐らく取らせてはくれなかっただろう。それにこのレースはただのレースではない。


源素銃(エレスガン)の扱いなんて、フェリタにはまだ難しいかと」


 そう。銃を使う。load strikeは、射撃の腕と速さを競うレースなのだ。


「10歳で発砲訓練をこっそりしてたのはどこのどいつだい?」

「それは」


 痛い所そ付かれ、ウィルは黙るしかなかった。それが分かっていたアルマは、ニッコリと笑いフェリタを見る。


「フェリタ君。君にはこれからウィル君の直属の召使にでもなって貰おうと思う」

「な! 勝手に」

「私はそれでいいです!」


 フェリタが全力でアルマの提案を受け入れたので、またまたウィルは黙るしかなかった。


「召使にでもなってくれれば、君のブラッククリアランスはホワイトのニ級クリアランスに更新できる。でき次第こっちから輸送するから、それまではウィル君に射撃訓練を受けるといい」

「はい」


 フェリタは嬉しそうにウィルを見ると、「お願いします」と頭を下げた。そうされてしまうともはや反論の余地もなく、ウィルはしかたなく受け入れた。

 その後、アルマが「詳しい手続きの方はやっとくから」と言って支部長室を出てしまったので、ウィル達は居ても仕方ないので取り敢えずウィルの家に戻ることにした。裏口からウィルのバイクとリーベのバイクを持ってウィルが暮らす借家に向う。

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