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靴はないけどそれでいい

 カナリアがドッテーヘン村を出て七日目の朝。カナリアは馬車の荷台で初日に渡された制服を着ていた。体は朝食のあとで案内役の男に沐浴をかけてもらったから清い。カナリアは自分が着ている服を見ながら姿見が欲しいなと考えていた。長袖の白いシャツに膝丈より少しだけ短い黒いスカート。白いシャツは肌触りの言い絹製で、よく見ると白い糸で細やかに模様が描かれている。黒いスカートはプリーツスカートで、裾の近くに白い線で波のような模様が入っている。それから、白い膝丈の靴下。

「七つの時に鏡見たきりだけどゲームのカナリア可愛かったなぁ。いい子だったし」

 --だからこそ平民のカナリアに迫ってくる貴族男がより一層忌々しかったなぁ。毬沙にそんなこと言うわけにもいかずその鬱憤を弟で発散していたなぁ。

そう、カナリアは平民だ。王子や貴族に誘われて断りでもしたら不敬罪で処罰されてしまうかもしれないのだ。断れるわけがないのだ。そのせいでカナリアは嫉妬されるのだ。全ては男どもが悪いのである。だが、今のカナリアにそれは当てはまらない。なぜならカナリアは知っている。学院が生徒みな平等、身分による差別を禁じていることを。それはつまり、カナリアがいくら王子から話をふられようと誘いを受けようとはっきり断れるということだ。そして、同時に攻略者の婚約者の方々とお近づきになれるということだ。攻略者については名前程度しか覚えていないが彼女たちのことは鮮明に覚えている。どの場面で注意されるとか、魔法の対決をすることになるとか、そう言ったことは覚えている。

「でも、私が彼女たちに近づいて破滅させてしまったら。うぅ。あの馬鹿どもさえいなければ、私の生活はウハウハなのに。なんで女子校と男子校に別れていないの。男なんて・・・。ああ、憎い」

カナリアはそんなことを考えながら馬車の荷台で頭を抱えていた。

 不意に足に感じていた微かな振動が途絶えた。カナリアはそのことに気付いて顔を上げた。しばらくして荷台の扉がノックされた。

「カナリアさん。学院に着きました。出てきてください」

男の声にカナリアは鞄を肩にかける。肩にかけるタイプのその鞄はしっかりとした丈夫な布で作られていてそうそうに壊れそうにない。鞄の中にはリズムから貰った童話集が入っている。カナリアはその本がひっていることを最後に確かめて馬車を降りた。そして、目の前の学院を見て息を飲んだ。

 --やっぱり画面で見るのと実際とじゃ、スケールが違うなぁ。お城みたいだ。

重厚な扉にそびえたつ白い塔を前にカナリアは固まっていた。だから、案内役の男がカナリアの足元を注視していることにカナリアはしばらく気付かずにいた。我に返ったカナリアは男が自分の足元を注視しているのを見て視線を足元に移す。石畳のしかれた道は綺麗に舗装されているし、別に何かの糞を踏んでいるわけでもない。ましてや、王都でははしたないとされる裸足でもなく、きちんと靴下を履いている。なのになぜ男はカナリアの足元を見るのだろうか。

「なにか私の足についていますか」

カナリアは怪訝そうな男に問いかける。

「靴をお持ちではないのですか」

--あぁ、生まれてからずっと裸足だったから忘れていた。靴下があるなら靴もあるべきだ。

「持っていたら今までも履いていたと思いますが」

「まぁ、そうですね」

男はしくじったという顔をしていた。それから何か思案気な顔をして、カナリアに振り向く。

「仕方ありません。カナリアさん。靴屋に行きましょうか」

「靴なんて高価なもの、買う余裕はありません」

カナリアが靴のことを思い出さなかったのは他でもない靴が鏡と並ぶ富の象徴だからだ。もっとも、鏡よりは安価なのだが。

「しかし、靴を履かずに過ごすのは」

「別に靴は制服の一部ではないのだからなくてもいいのでしょう」

実際はなくてもいいのではなく富の象徴である靴を指定するのは通っている王族貴族の子息にたいして失礼に値するからなのだが、カナリアにしてみれば飛んだとばっちりである。ましてや、男と一緒に買い物などカナリアにしてみれば身の毛がよだつのである。今日までの旅を我慢できたのは基本的に案内役の男が彼の職務に全うであったことが大きい。それと食事時以外顔を見ることがなかったことも大いに関わっている。

「とにかく、大丈夫です」

「そこまで言うなら私は構いませんが、苦労するのはカナリアさん本人ですよ」

「わかっています」

カナリアは男の説得に五分近くもかかってしまったことに鳥肌が立っていた。

「それでは私はこれで。カナリアさんはこの門を通って真っすぐ進んで二つ目の角を右に進んでください。しばらくしたら白い建物が見えてきます。そこがカナリアさんの入る寮、白百合寮になりますので」

「わかりました。それと、この時計お返ししますね」

カナリアは初日に渡された時計を差し出す。

「あぁ、それは学院側の支給品ですからお気になさらず」

「そうですか」

カナリアは男の返事に時計を鞄に着ける。そして、さっさと寮を目指す。

ちなみに靴は指定ないけど靴下は指定。一着は無料配布(多くの王族貴族の人たちがシンプルなデザインの制服を嫌い、支給しなければ改造した制服を着ようとするため)。着用の義務があるのは式典の時のみ。

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