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王都までの道中

 カナリアはリズムに貰った童話集を読み漁っていた。小さいころに聞いた話から聞いたことのない話までさまざまある。

「やっぱり、これはこの世界特有の童話も含まれてるのかな」

そんなことを呟きながらカナリアは頁をめくる。と言ってもカナリアの前世が取り立てて童話に詳しかったわけではないので今読んでいる知らない童話もこの世界特有のものではないのかもしれない。むしろ、ここが乙女ゲームの世界なら前世の世界のカナリアの知らない童話である可能性が高いだろう。カナリアはそんなとりとめもないことを考えて、パタンと本を閉じた。

「そうだ。なくさないように名前を書いておこう」

カナリアは思い立ってもらった鞄から筆記具を取り出そうとして持っていないことに気付く。今まで文字を紙に書くのはリズムの家でだけで、しかもそのときはリズムのものを借りていたために気付かなかった事実。復習はどうしていたのかと問われれば、家に紙があるわけではないので明るい時間に地面に枝でなぞって字を書いていたので筆記具は持っていなくても大丈夫だったのである。七日後には王都というか、学院が始まるというのにも関わらずこの体たらくである。他人から怠惰の烙印を押されて然るべき事態である。

 だが、カナリアにとってしてみれば悪いのはカナリアではなく学院側である。四の月から始まるのに生徒に入学を知らせるのがたったの七日前で、しかもその七日間も準備のための時間はなく移動のみ、学院側から支給されるのも制服と鞄のみ。貴族の魔力持ちの人たちからしたらそれで十分なのかもしれないがあいにくとカナリアは平民だ。それも超が付くほどの貧乏な田舎者。おそれく、ドッテーヘン村などという村を知っているものは学院にはいないだろう。それほどにドッテーヘン村は田舎なのだ。

「筆記具か。王都で買うと高くつきそう。途中でどこか町によることがあるならその時にでも買おうかな」

そう言ってカナリアは首から下げていた麻袋の中身を改める。銅貨が七枚に銀貨が二枚。今のカナリアの全財産、もといドッテーヘン村の全財産だった。それを村一番の老人が村人の総意だと言ってくれたのである。カナリアはもちろん断ろうとしたのだが押し切られてしまったのである。

「村人皆の期待の形なんだろうな」

 ――無事に卒業して立派な魔法士になって村の皆を支えていけるだけのお金を儲けて、ドッテーヘン村をもっといい村にしてみせる。村の名前もドッテーヘン村からもっといい名前に変えて、村の西側半分が王国公認のゴミ捨て場の状況も何とかして・・・でも、あのゴミ捨て場は村の貴重な収入源でもあるわけで。でも、あそこを畑にできれば、収入源にも食料の確保にも繋がるしなぁ。

カナリアがそんなことを思いながら馬車の中でゴロゴロとのたまわっているとコンコンと扉を開く音が聞こえた。

「カナリアさん。昼食の時間です」

カナリアは男の声を不快に思いつつも馬車から降りた。そこは森の中の少し開けた場所だった。道らしい道が見えないことに少しだけカナリアは不安を覚えた。

「道を通ってはいないのね」

「ドッテーヘン村と一番近くの町まで整備された道などありませんよ。せいぜい、貴方の村の男性たちが踏み均した草が道のようになっているだけです」

そういうと男は右手である場所を指し示す。そこには男が言ったように踏み均された草の道が見えた。それに伴いもう一度、この場所を見ると中央の方に焚火の痕跡があった。おそらくは村の男性たちが村から町まで行くのにここで少し休憩を挟むことがあるのだろう。それにしても、ここまでの道のり、決して舗装された道ではないにもかかわらず馬車は揺れなかった。魔法か何かでもかかっているのだろうかとカナリアは馬車を見る。

 ――いや、どうでもいいか。それよりも今は。

カナリアはそう思いなおして男を振り返る。男は焚火のあとに火を付けていた。そして懐から串に刺さった干し肉のようなものを取り出し焚火の周りに突き刺す。

「そうでした。カナリアさん、貴方アレルギーとかはありませんか」

男が振り返ることもなくカナリアに訪ねる。

「いえ、ないはずです」

「そうですか。なら、この干し肉をどうぞ。パンもありますから」

「くださるのですか」

「魔力持ちは希少ですからね。貴方に死なれると私の経歴に傷がつくのですよ」

そう言った男の声はどこまでも平坦で人間味がまったく感じられなかった。それを寂しく思う人もあるのだろうが生憎カナリアにはない。むしろ仕事の対象としてしか自身を見ないこの男には好感を抱けるほどである。あくまで、この男にではなく仕事優先の考え方にだが。

「そうですか。それではありがたく頂戴します」

カナリアは男の正面に移動して座る。男からパンを受け取るとかじりつく。それから飲み込むまでおよそ二分半。もう一口かじりつこうとして男がカナリアを珍しそうに見ているのに気づいて口を開く。

「なんですか」

「いえ、よくこんな柔らかいパンを三分近くも嚙み続けられると感心していたのです。途中で消えませんか」

「どうでもいいですよね。それ」

「ええ。どうでもいいですよ」

その答えを受けてカナリアはまた食事に戻ろうとして聞こうとしていたことを思い出す。

「それより、王都に着くまでに買い物ができる時間はありますか」

「今日の夜にはサーカソーの町に着きますから。買う時間はあると思いますが、何を買うのです」

「筆記具を持っていないことに気付きまして」

「そういえば、あの村の識字率はほぼ零でしたね。一応筆記具は入学記念に学院側が一人に一本ペンを給付しますが、それでも買っておきますか」

「そうですか。それなら、買い物は止めておきます」

「ええ、それがいいかと思いますよ」

それから三十分ほど食事と休憩をしてカナリアたちはその場から立ち去る。ちなみに二人がこの三十分の間に交わした言葉は上述の通りしかないのだった。



今更ですがカナリアは超絶可愛い女の子です。ただ、村が貧乏すぎて湯あみのできる機会が少ないので一見汚いです。汚したら嫌という理由で制服にはまだ袖を通していませんが着ると見違えります。

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