文字を覚える
カナリアはリズムの家に来ていた。今は三の月の中ほど。カナリアが王都の学校へ行くまであと二週間ほどといったところだ。カナリアはリズムにこの世界の文字を習うためにここにいた。カナリアとリズムは家の真ん中にある簡素な机に向かい合って座っている。
「では、授業を始める前に確認です。カナリアさん、この国の文字を見たことは?」
リズムは念のためといった感じでカナリアに訪ねる。
「ありません」
カナリアはそれに堂々と答える。
「ですよね。取りあえず、三の月の終わりには王都から使者がくるでしょうし。多く見積もっても期日は一週間といったところでしょうか。それまでに文字を全部詰め込むのは、無理でしょうし。最低限自分の名前を書けるようになりましょうか」
リズムはそういうとどこからともなく紙とペンを取り出す。カナリアがそれに驚いている間にさらさらと紙に何かを書いた。
「カナリアさん、貴方の名前はこう書きます」
カナリアはその紙を見て顔をゆがめる。
「やっぱり違うか」
ぼそりと呟く。小さな声だったがそれはリズムの耳に届いたらしい。
「どこか違う国の文字を知っているのですか」
「いや、あの。なんでもないです」
「そうですか」
それからしばらくリズムによるカナリアの授業が行われた。
「うぅ。複雑・・・」
「とにかく、名前だけは書けるようになった方がいいですよ」
それから数時間。日が傾いてきたころ。
「今日はこの辺にしましょう。紙は差し上げるのであとはご自宅で」
「はい。ありがとうございました」
カナリアはそれだけ言うとリズムの家をあとにする。今日一日で自分の名前の綴りと四十種の文字を覚えることができた。基本的には一文字一音。また、それは特殊な組み合わせにより十種の別の音を表現することができる。文字自体はあれだ。文字は韓国文字とギリシャ文字を足して割ったようなものだ。
「そこは普通に日本語にしてほしかったなぁ」
カナリアは呟くと空を見る。日が沈みつつある村は徐々に闇に支配されていく。
「結局、リズムさんは何者なんだろう」
未だに性別すら分からないなぁ、と小声で呟く。家に行けば性別ぐらいは分かるかと思ったが、家は一部屋、机と炊事場と寝床、棚があるだけで他の家とほとんど変わらない。唯一他と違うと言えば棚があったぐらいか。この村の皆は貧乏すぎて替えの服など一着あればいいほうだ。そのため、服をしまうという習慣はない。基本的に一着を着て、その間にもう一着を乾かすといったていだ。また、この村では嗜好品などの類は皆一切持っておらず、リズムが持っていた紙とペンすら嗜好品に見えるぐらいには皆貧乏している。
「棚の中見れば分かるんだろうけど。それはさすがになぁ」
この村の人たちは貧乏だが、絶対に犯罪は犯さない。むしろ、今日のご飯にも困るのにお腹が空いて困っている人を見たら自分たちの乏しい食料を差し出すような優しい人たちばかりだ。いや、優しいというよりは自己犠牲に等しいかもしれない。
「まぁ、リズムさんが来てから東の森の中腹まで食料を取りに行けるようになったし、ここが貧乏でなくなるのは時間の問題かな」
--そしたら、徴税の義務ができるのか。それは面倒だなぁ。
カナリアはそんなことを思いながら、家路に着いた。
めざせ!!文字を覚えて、入学式の危機回避。
ちなみにゲームで最初に話しかけてくるのは誰だろう?メインのアルフレッド?いや、同じ一年のオリーブか?カナリアはもちろん誰かなんて覚えてない。作者もそんなの考えてない。けど、まぁいいか。
そして、次回いよいよリズムが女性であることが判明?するかもしれないし、しないかもしれない。
でも、とりあえず、次回王都に行くかも?