クロスフォード・レックス
入学式が終わりカナリアとリリーヌは講堂を出る。
「カナリアさん、楽しそうね」
「えぇ。リリーヌ様と一緒ですから」
リリーヌの問いにカナリアは満面の笑みで応える。
「あら。そう」
カナリアの答えにリリーヌ優しく微笑んでカナリアの隣を歩く。
「それにしてもやはり目立ちますわね」
そう言ってリリーヌはカナリアの足元を見る。カナリアはそのリリーヌの視線を追って自身の足元を見る。
「えっと、靴のことですか。ですが靴は高価ですからとても私には」
カナリアは気まずそうに答える。その言葉にリリーヌは何か思案気な表情をした。
「私が以前使っていたものでよければ差し上げるけれど」
思いがけない言葉にカナリアは吃驚したように止まった。
「そんな。駄目です。そんな高価なもの頂けません」
そうして慌てたように首を手を振ってリリーヌの言葉を否定する。
--ていうか、そんな・・・リリーヌ様が履いていた靴なんてそんなの、そんなの、貰ってしまったら・・・。あぁ。駄目、駄目よ。興奮して発狂して、ていうか、そんな貰ったとして勿体なさ過ぎて履けるわけないわ。あぁ、でも貰って履かないでいたらリリーヌ様気を悪くするわね。あぁ。リリーヌ様に履かれていた靴を履けるなんて・・・そんな素敵すぎること・・・あぁあ。駄目、駄目です。リリーヌ様--
「そう。カナリアさんがそう言うなら」
リリーヌはカナリアの極度に遠慮する姿を見て言葉を返す。
「えぇ。そうです。私には靴なんてもったいなくございます。それより、時間割を組まなければなりませんね、リリーヌ様。あ、でもリリーヌ様はもう決めていらっしゃるのでしょうか」
カナリアは靴から話題を変えるようにこれからの学生生活のことを話し出す。
「ふふ。まだですわ。それにまずは専科を決めなければなりませんから」
カナリアとリリーヌは和やかに話をしながら足を進める。
「リリーヌ様は専科は決めているのですか」
「いいえ。カナリアさんは、まずどんな科があるのかもしらないかしら」
「ええ。お恥ずかしいことです」
そのまま談笑しながら歩いていると男の声が聞こえた。
「リリーヌ、まだ科を決めていないなら僕と同じ科にしないかい?」
その声にリリーヌが立ち止まったのでカナリアも併せて止まる。振り返った先には男が立っていた。カナリアはその男の姿を見て必死で前世でのゲームの記憶を手繰り寄せる。そして少なくともその男が憎むべき敵でないことを確認する。
「あら、クロス。わざわざ私を探してくれたの。嬉しいわ」
リリーヌの嬉しそうな声にカナリアはクロスがリリーヌと親しい間柄であることを確認する。その様子にカナリアは大人しく二人の会話を聞く。二人は二言三言、言葉を交わすとカナリアのほうに顔を向けた。
「クロス。紹介しますわ。こちら、私のルームメイトのカナリアさん」
そう言ってリリーヌはクロスにカナリアを紹介する。それに合わせてカナリアは深く礼をした。
「あぁ。貴方がカナリアさんでしたか。こんにちは。僕はクロスフォード・レックスといいます。リリーヌの婚約者です。よろしく」
カナリアはその言葉に衝撃を受けた。
--そんな・・・リリーヌ様の婚約者だなんて・・・そんなつまりこの方は私の恋敵ということか・・・。いや、でも二人とも仲つむまじくみえるし・・・うむ。リリーヌ様を裏切らない限りは何もしない。いや、裏切ったとして何もできないけど--
そんなことを思いながらもカナリアはクロスフォードに言葉を返す。
「初めまして。リリーヌ様のルームメイトのカナリアと申します。平民ゆえ氏はありません。何かと至らぬこともあるかと思いますがどうかご容赦ください」
そう言って顔を上げる。そしてカナリアは目の前の男を目に焼き付ける。負ける前提の恋敵としてその姿を記憶する。長身でやや細身、無駄のない筋肉、碧い目に真っ黒な髪。着用している制服のネクタイの色からして二年生。
カナリアに恋敵登場。
リリーヌ様の婚約者。二人の仲は良好。カナリアの付け入るスキなし。
ちなみに制服は学年ごとにネクタイの色が違う。女子の場合は蝶ネクタイ。




