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善人の誓い

少しだけシリアス入るかもです。

 リリーヌは少し目線を下げて躊躇うようなしぐさを見せた。カナリアはリリーヌのその様子に我を忘れそうになりながらも必死に頭を振って思考をもとに戻す。

「その、消された村というのは何なのでしょうか」

「その昔、犯罪者たちの独房代わりに使われていた村のことです」

リリーヌの言葉にカナリアは驚いたように目を丸くした。

「そんな私の村は貧乏ですが犯罪をするものなどいません」

リリーヌは静かに頷く。

「そうでしょうね。なぜなら、彼らには〝善人の誓い”という血の呪いがかかっていますから」

「善人の誓い・・・?」

カナリアの不思議そうな声にリリーヌは続ける。

「今は違いますがその昔、この国では犯罪者への罰は一律してその呪いをかけることだったのです。その善人の誓いをかけるとそれからの生涯一度も悪いことができなくなるのです。そしてその呪いは血に宿るために子供にも受け継がれるのです。彼らは悪いことをしないのではなく、できないのですよ」

リリーヌの説明にカナリアは首を傾げる。

「ですが、リリーヌ様。それはいいことですよね?何故、それを止めたのですか」

カナリアの言葉にリリーヌは静かに首を横に振る。

「いいえ、善人の誓いは恐ろしい呪いですよ。なぜなら、どんな些細な悪もできないからです。人の生活には小さな悪が必要不可欠なのに彼らはそれができない、社会不適合者になってしまうのです」

リリーヌはそこで一旦言葉を区切る。

「分からないという顔をしていますね。それでは例をあげましょう。まず、善人の誓いを受けたものは嘘を付けなくなります。それはつまり社交辞令が言えないということです。その結果、彼らは人を傷つけます。また、彼らは約束を破れません。例えば七日に会う約束をすればその日、嵐が吹き荒れようが、重い病気にかかろうが、事故に会おうが、親が死のうが、何があろうとその約束を守ります。また、自分が空腹で死にそうな時だって、他に空腹な人がいたらその人に自分の食べ物を分け与え、いえ、もはや全部あげてしまうことだってあるのです。その結果、彼らは自らの命を落としてしまうことになってもそのことを気にしもしないのでしょう。それが、善人の誓いという呪いです。心当たりあるでしょう」

カナリアはリリーヌの言葉に頷く。

「それは確かに。私の村の人たちに共通する特徴ですが」

カナリアの肯定にリリーヌは辛そうに瞳を細める。

「そして、その社会不適合者となった人たちを王都に置いておくわけにもいかず、しかし他の領地に押し付けるわけでもなく、彼らを国外れの辺境に集めていくつかの村を作り、彼らに自治を任せました。それが消された村です。何故、消されたという形容詞が付くかといえばそれらが地図に載っていないこと、また彼らが善人の誓いを受けたがゆえに勝手に絶滅しなくなるだろうという魂胆のもと作られた村だから、ということなのです」

わかりますか、と遠慮しがちに聞くリリーヌにカナリアは頷く。

「はい。でも、一つだけ分からないことがあります。その話の通りだと私は、私にはその呪いが効いていないように思うのです」

「呪いが効いていないのは貴方が魔力持ちだからです。そして、問題なのが善人の誓いを受けたもの、受け継いだものは決して魔力持ちとはなりえないと考えられていることです」

その言葉にカナリアは目の前がぐらりと歪んだ気がした。今まで信じていたことが急に不確定なものへと変わっていく感覚にカナリアは不安を覚えた。そして、気が付くと叫んでいた。

「リリーヌ様、私は確かにあの村の出身で私の両親は確かにあの二人です。私がその呪いを受け継いでいないのが確かでも私は私は・・・」

 ――違う。リリーヌ様を責めても始まらない。悪くない。違うのに。

「そうですね。ごめんなさい。カナリアさん。ただ、そう考えられているだけで実際は違いますから大丈夫です。その呪いは魔力持ちを極端に少なくはしますがなくなるわけではありませんから」

リリーヌは優しく微笑んで言う。カナリアはその言葉に少し救われた気がした。 

「あの、ところで、リリーヌ様。どうしてそんなに私の村、というか消された村のことについてお詳しいのですか」

「それはその善人の誓いを確立したのが私の家だからです。私の家が男爵という地位を貰ったのはその呪いを確立をしたからなのです。だから、詳しいのですよ」

そう言ってリリーヌは寂しそうに微笑む。それからリリーヌは頭を降って話を変えるようにカナリアを風呂に誘った。


 割と恐ろしい呪いだと思うのですが皆さまはどう思いますか?

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