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まったりそのさん:猫娘は今日も元気だ

 ――ドクン、ドクン。


 ソレは異様なほどに力強く鼓動している。

 先ほどヴェルムが狩った銀翼竜の心臓だ。


「おいしそうですねこれ」

「この固そうな見た目を見て、お前今なんていった!? おいしそう!? やめろよ!!」

「まぁまぁ落ち着いて、ヴェルム様。ココアちゃんもそんなの触っちゃ危ないわよ?」

「そうですか。なら仕方ありませんね」


 ココアは未だ鮮血を垂れ流している銀翼竜の心臓をべちゃりとテーブルの上にたたきつけた。


「おまっ、なんて扱いを!」

「……? 置いてと言われたので置いただけです」

「置き方ってもんがなぁ――」

「それにしてもコレ気持ち悪いわねー。カンナちゃん泣いちゃうんじゃない?」


 ツンツンと人差し指で心臓をつつくミルレイを、ヴェルムは微妙な心持ちで見ていた。

 恐ろしく高い魔力を秘めているものに素手で触る度胸がある女性なんて、このルクフェイシアの王都中を探してもこの二人くらいのものだろう。


「とにかくミルレイさん。銀翼龍を倒して心臓を取ってきましたが……正直、こんなもの本当に指輪に加工するんです?」

「もちろんよ? それ以外に何に使うのよこんなもの」

「こんなもの――? 魔導細工に使えば所持者の能力を飛躍的に上げる効果のある、この貴重な素材をこんなもの扱いしました!? 今!?」

「うるさいですご主人様」

「うるさくもなるよ! だってこれ超一級品の魔物素材だよ!? 滅多にお目にかかれないよ!? 売れば何G(ギール)になると思ってる!? 軽く一億は越えるぞ!?」

「別にお金には興味ないしーw ほらヴェルム様。早く指輪にしちゃっていいわよ」


 ミルレイが経営者として言ってはいけないであろう言葉を吐き捨てた。


「もうやだこの人たち……」

「ほらご主人様。早く仕事、しなさい」

「……もったいねぇんだが……」

「お・し・ご・と・です!」


 ココアが腰に手を当ててぷんぷんと怒る。胸を張るものだからまた服のカップ部分から胸がこぼれそうになっているではないか。

 鼻血が出てきそうなのを抑えるため、仕方なくヴェルムは未だ脈打つ心臓に両手を重ねる。

 まさか銀翼竜も強力な武器になる爪やら牙やら全部放って、心臓だけ取られるとは夢にも思って否方だろう。ちょっとかわいそうになってきたヴェルムであったが、世は弱肉強食で焼肉定食なのだ。仕方がない。


「オリハルコンの指輪なんて5歳児の持つもんじゃねぇよ……王族だよもう……」


 言いながら、心臓を大胆に分割しその中心部からヴェルムは人差し指ほどの小さな石のようなものを取り出した。

 それは七色に光り輝き、神秘的な雰囲気を醸し出している。


「わぁ、綺麗ですね」

「本当。すっごく綺麗ね!」

「これが、銀翼竜の体で一番価値のある部位――魔石です。宝石の価値もさることながら、魔術武器にはめ込めばほぼ無尽蔵の魔力を永久に提供してくれるものなんです。聖剣とか魔剣とか呼ばれるものに使われますね! でも5歳児に上げるんでしょコレ! 仕方ないね!」


 半分涙目になりながらミルレイに指輪を渡したヴェルムが言うと、ココアがその豊満な胸をヴェルムの背中に押し付けた。


「へ!? はっ? こ、ココアさん!?」

「これが今回のご褒美です。お疲れさまでしたご主人様」

「よかったわね。ヴェルム様。続きはベッドでゆっくりね。ココアちゃん頑張るのよ!」

「はい。ご主人様に種付けしてもらえるように頑張ります」


 ぐりぐりとヴェルムの背中に胸を押し付けるココア。

 既にヴェルムは限界を迎えていた。

 気を失う直前に見たココアのなまパイ。そして太もも。

 いまはその感触が襲ってきているのだ。

 すでに心は劣情に侵されている。


「お、おいココアさん!? ちょ、やめ……くそっ、これ以上はヤバイ!!」


 積み上げてきた戦闘経験を総動員し、スルリとヴェルムはココアの幸せ拘束(ハッピー・マテリアル)から逃れることに成功した。


「あっ、ご主人様。おっぱい触りましたね――こんな人前で犯したいってことですか……? ドン引きです」

「いや、ちがう! それは誤解だ!」


 そのまま逃げればよかったものを、ヴェルムは馬鹿正直にココアに向き直り無罪を主張した。

 主張してしまった。

 立ち止まってしまったのだ。


 がしっ。ふに、


 気づくと、ヴェルムの目の前にはドアップのココアの顔。

 強く抱きしめられているせいでいつもより数倍、ココアの感触がする。


 ――幸せ拘束(ハッピー・マテリアル)に捕まったのだ。


「あああああああああああああああああああ!! くそおおおおおおお!! 謀ったなココア!!」

「暴れないでくださいご主人様……。あんっ、おっぱい好きですね」


 もぞもぞと動くたびに熱っぽい喘ぎ声を出すココアに、理性の壁はもろくも崩れ去ろうとしていた。

 だが――


「あー! お兄ちゃんとお姉ちゃんが面白そうなことやってるー!」


 耳に聞こえてきたのは、5歳児の声。

 そう。件のカンナちゃんだ。


「あっ」

「隙ありぃいいいいいいいいいっっ!!」


 一瞬、ココアがカンナちゃんの姿を見て拘束を緩めたのだ。

 すでに鼻血まみれのヴェルムは、脱兎のごとく逃げ出した。


 取り残された三人娘は、くすくすと笑いあう。


「今日もお兄ちゃんおもしろいね!」

「そうなのよカンナちゃん。お兄ちゃんはいつも面白いのよ」

「ご主人様は私のご主人様ですから」

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