モブ、魔法について語る。
前話の続きです。
魔法についてわかりやすく説明しています。世界観の補足もしてます。
「アルトってさ、ロリコンなの?」
仕事終わりにオズと飲みに行った俺はオズから唐突にそんなことを聞かれて、思わずぶほっと飲んでいた酒を吹き出した。
「えっと、今何て言った?もう一回言ってくれ」
今の幻聴か?勿論幻聴だよね!?
「ロリコンなのかって聞いてるんだけど」
「そんな訳あるか!」
オズの言葉を即座に否定する。どこからそのロリコンって言葉が出てきたんだ。
「最近、よく聞かれるんだよね。わかりません。違うと思いますけど、趣味は人それぞれですし……、僕は友人としてどうすればいいでしょうか……とちゃんと返しておいた」
「あの噂はお前のせいか!?」
最近出回っているあの曲解した噂の元凶はこいつらしい。
「おかげでアリスに嫉妬されて大変だったんだぞ」
「その割には嬉しそうだけど」
その疑問は当然だろう。大変ではあったが、いいことがあったからな。
「まぁな。やきもち妬くアリスは可愛かった」
今でも鮮明に思い出せる。俺は思わずにやけてしまう。
「うざい」
相変わらずの一刀両断である。
「お前、そういうこと言わなければ友達もっとできると思うぞ」
この口の悪ささえなければ友人も増えるだろうに。
「別にどうでもいい」
話が途切れた俺達はお互いに酒を飲み、料理を食べる。
「で、エリ……エリス殿下だったっけ?」
すぐに名前を思い出せなかったからってお前諦めるの早くないか?
「エリザベス殿下な。自国の王族の名前くらい覚えろよ」
「覚えなくても研究できる。で、その殿下と付き合うの?」
その清々しいまでの態度には感心するしかなかったが、最後の問いかけはちょっと意味がわからないな。
「いや、付き合う訳ないだろう」
何言っているんだと憮然とした顔で答える。
「年齢の差は問題ないと思うんだ。貴族の政略結婚ではよくあるし、愛に年の差は関係ないと僕は思うよ」
よくわからないフォローをし出すオズに俺の頭が痛くなってきた。この痛みは酔いではないな。
「だから!アリスと付き合ってるからエリザベス殿下と付き合うとか絶対にないから!アリスとは別れてないし、絶対に別れないからな!」
「えっ、そうなの?修羅場は?」
オズはきょとんとする。
「お前はどれだけ修羅場見たいんだよ!」
「だって、修羅場ってさ、人の本性が見えるから面白いんだよね。それにほら、人の不幸は蜜の味って言うじゃん?」
オズは無邪気な笑顔で首を傾げる。その笑顔とは対照的に言葉は真っ黒だ。
「お前、性格ひねくれ曲がりすぎだろう!」
「前からこんな感じだったって」
「いや、前はそこまでひねくれ曲がってなかったからな!」
ここまでではなかったはずだ。更に悪化してる。
「さて、冗談は置いといて」
いきなりオズは真剣な顔へと変えた。
「えっ?さっきのは冗談なの?そうなの?」
「気を付けなよ、アルト。公爵令嬢と付き合うだけじゃなく、カイン殿下やエリ……エリス殿下とも付き合いがあるんだ。周りから見れば面白くないだろうからね」
さっきのは無視か?スルーなのか!?ガン無視なの!?
「わかってる。あと、エリス殿下じゃなくて、エリザベス殿下な。いい加減、名前を覚えろよ」
お前は三文字しか覚えられないのか!?不敬罪で捕まっても知らないぞ。
「覚えなくても生きていけるから問題ない」
「それは問題ないかもしれないけどな……」
オズに関わらない人間だから覚える気が全くないんだろう。次期王太子のカイン殿下の名前は覚えてるし、それでいいか。
「僕みたいに優れた魔法使いならまだしも、平民で何の秀でたところもない人間が王族や公爵令嬢と親しいのはターゲットにされやすいからね。頑張りなよ。僕は助けないけど」
「えっ、何。お前、俺のこと嫌いなの?俺と友達だよね?」
さっきから俺に対して辛辣じゃねぇ?最後の言葉、絶対に付け加えなくても良かったよね?
「嫌いな人と友達になる訳ないじゃん。でも、友達だからって何でも助けるのは友達のためにもならないと思うんだ」
オズは憂いに満ちた顔で答える。そんな表情をすれば何言おうが許されると思うなよ!?
「いや、ためになるから!助けろよ!今、その時だから!」
「えー、面倒」
オズは面倒くさそうに顔を露骨に歪める。
「それが本音か!」
「って言うことを話してまして……」
昨夜の酒の席でのことをアリスとのお茶会にて話す。
「面白い友人ですね」
くすくすとアリスは笑う。実際の俺にとっては全然笑い事ではないのだが。
「そうですか?ひどい友人ですよ。友達をやめようかと思いましたし」
付き合いが長いから性格が悪い奴だってわかってるけどさ。それでも限度ってものがあると思う。何で友達やっているんだろうなと思う程度には酷いよね。
「それでもやめないんでしょう?」
その真っ直ぐに問いかけられた言葉に俺は何も答えられなかった。あいつの言葉は攻撃的で刺々しいが、自分を守る剣でもあり、盾でもあるのだ。あれは自分を守るので必死なだけだ。会った時から比べると、今は随分と余裕を持てるようになったが。
会った時のオズはそれはもう猫が威嚇しているかのようにバリバリ警戒心が強かったからな。実際に誰だろうが無視と暴言のコンボを放つあいつに近づく奴はいなかったし。今はある程度緩和したお陰で、話しかける奴が増えたようだ。本当に大した進歩だと思うよ。
そうなったきっかけであるあいつの過去は知らないし、一切聞いてない。あいつから言わない限り、今後知ることはないだろう。
「……さっきから何なのよ!?私を無視して話し出して!?」
さっきまで静かだった殿下がいきなり叫び出す。
「いや、話に加わればいいじゃないですか」
「今の話にどうやってよ!?入る隙間なかったじゃないの!?私が開いたお茶会よ!」
「……じゃあ、殿下からどうぞ」
もう面倒なので殿下から話を振らせることにする。
「えっ?じゃあ…、趣味は何ですか?」
ここはお見合い会場か!?
そう突っ込みたくなったが、黙っておく。
「趣味ですか。そうですね〜。魔法陣や魔法式の開発ですかね」
魔法言語を理解した上で組み合わせたり、組み換えたりと楽しい。
「魔法陣と魔法式って、それは最近習ったわ!えっと、確か魔法陣と魔法式の違いは記号や文字で陣を作るか、式を作るか、よね?」
「そうですよ」
「でも、魔法陣や魔法式の理論式よりも感覚式のほうが簡単だし、主流だわ。理論式は時代遅れだって言われてるし」
何でわざわざ魔法陣や魔法式の開発をするのかと殿下は不思議そうな顔だ。
「まぁ、確かに時代遅れっていうのもあながち間違いじゃありませんが、理論式は感覚式よりも優れた点はありますよ。何で時代遅れって言われるか、説明できます?」
「そんなの簡単のことだわ。限られた人にしか出ない能力を再現しようとして、できたのが魔術で、それを簡略化したのが今の魔法。で、理論式の魔法陣や魔法式は魔術の分野の副産物だから時代遅れって言われるんでしょ?」
今の説明が大雑把な魔法の歴史である。
「正解です。よく勉強されてますね。さすがです」
英才教育を受けてるだけはある。
「王族としてこれくらいは当然よ」
殿下は自慢げに胸を張るが、これは常識だからね。
「実際、感覚式を魔法、理論式を魔術だと分ける人もいますしね。詳しく説明すると、魔法は呪文、つまり言葉で発動するのに対し、魔術は詠唱、つまり文章で発動するんです。だから、プロセスが短い魔法は発動時間が短いため、戦闘では多用され、逆にプロセスが長い魔術は発動時間が長い分、精密な魔術を使えるけど、利便性が低いために扱う人は少ないんですよ。ただ準備さえしておけばノータイムで発動できる点は有利です。魔道具がいい例でしょう?」
「でも、やっぱり魔法のほうが便利だわ」
「それは否定しませんよ。魔法はイメージで発動するために自由自在ですが、それゆえに事故が起こりやすいんです。それに、騎士団の魔法部隊では理論式を使う人が多いんですよ」
「えっ、そうなの?」
殿下は感覚式を使う人が多いと思っていたのか意外そうな顔をする。
「そうですよ。なぜ理論式を使うかわかりますか?」
「……わからないわ」
「さっき事故が起こりやすいと言いましたよね?感覚式はイメージですから発動者から遠いほどずれが生じやすい。そのため、事故も起こりやすいんです。それに魔法部隊は遠距離からの攻撃が多いですから、感覚式よりも理論式のほうが向いてます。感覚式は見える範囲しか発動できませんし、威力も大きさも速さもバラバラな魔法より理論式で均一の魔法を一斉に出すほうが集団では効率がいいですからね。理論式は手間がかかりますけど、応用が利きやすいですから玄人向きですよ」
「へぇ〜」
感覚式は見える範囲しか発動できないと言ったが、正確に言えばできる。イメージさえできれば、の話だが。見えない場所にイメージで魔法を発動させるのは難易度が格段に上がるのだ。その点、理論式のほうが便利である。
俺の魔力量は普通の人より多いぐらいで、オズみたいに莫大な魔力量を誇る訳ではない。だから、消費魔力を抑えやすい理論式を多用する。感覚式は無駄が多く、消費魔力も大きい。もちろん、ある程度は抑えられるが、そこは理論式のほうが軍配が上がる。なので、俺の魔力量、魔法陣や魔法式を弄るのが性に合ったこともあって、理論式を使用することが多いのだ。
「アルトって説明が上手よね。ねぇ、私の家庭教師にならない?」
「お断りします」
そんな面倒なことは即行、断った。
次はほのぼのから少しシリアスな話になる予定です。話が動きます。