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その後の話。

 これまでのあらすじ。

 初恋の女の子の危機を救ったら、何故か付き合うことになった。ちょっと自分でも言ってる意味がわからないな。

「これって夢じゃないよな?幻覚か!?」

「急に何?」

 本を読んでいた金髪の少年、オズワルドが顔を上げる。

「あれだ。幸せすぎて不安なんだろ」

 呆れた顔で黒髪の少年、エドワードが答える。

「あぁ〜……、それはもうラブラブだもんね」

 アルトとアリスの甘い空気を思い出したオズは嫌そうな顔を浮かべた。

「そうだよ!ラブラブだよ!?どうするよ!?」

「いや、そのままでいいだろ」

 エドが突っ込む。

「だって、一目惚れした女の子と付き合えるんだぞ?初恋は実らないってよく言うだろ?諦めてたんだぞ」

 嬉しさと喜び、幸せで頭も胸もいっぱいだった俺だが、叫んだことでようやく落ち着いた。ふと不安になった。

「やっぱり夢かもしれない……」

 すると、エドはおもむろに立ち上がり、唐突に俺を殴った。おまけに、俺の真上に魔法陣が現れ、大量の水が降って来た。あまりの出来事に茫然とする。

「痛いし、冷たい……」

 殴られた頬は痛いし、水浸しの体はだんだんと冷えていく。しかもこの水、冷たいよ!?

「これで夢じゃないだろ」

「これで夢じゃないでしょ」

 夢じゃないってことを確認させるためにしたらしい。だが、ここで俺は一言申したい。

「いや、だからって殴ったり、水をぶっかけるのはどうかと……」

 思うな~と続ける予定だった言葉は友人の言葉で消えた。

「だって、うざすぎて友達やめようかなって考えてたし」

「うざいから一旦距離を置こうかと考えていたが」

「お前らちょっとひどくね?もう少し優しくしてもいいと思うんだけど」

 さっきのよりも傷ついた。主に俺の心が。何でこんなに手厳しいんだ。もっと親身になって話を聞いてくれ。

「お前よりアリス嬢のほうが積極的なのはどうかと思うぞ。男として」

 最早、優しくしてくれるつもりはないようだ。

「で、もうすぐ卒業だが、就職先は決まったのか?」

 傷心の俺など気にせず、エドが話題を振る。

「研究室に入るよ」

「王宮のか。夢だったもんな。叶って良かったじゃないか」

「俺は希望通り騎士団だ」

 平民の俺が就きやすいのは騎士だろう。研究者や文官は難しい。専門用語がたくさん出てくる研究者や礼儀作法が必須の文官は平民には難しく、少ない。騎士は実力さえあればいけるため、こちらの方が平民は多い。ちなみに、この世界での公務員は倍率がすごい。物騒な世界であるため、堅実で安定した公務員は人気だ。一攫千金の夢を見て、冒険者になるという道もあるが、ハイリスクハイリターンという不安定さ。騎士はなりたい職業ランキング一位で人気な職業で、さらに他の職業よりも倍率はさらに高い。

「俺は文官だな」

 エドは騎士団にも誘われていたが、断ったらしい。体格も良く、剣の腕もいいので誘われてたのだ。

「ペンより剣を持ってそうな見た目なのに」

「確かに」

 オズの言葉に俺も同意する。

「ただな〜、なぜか知らんが、戦闘の試験もあったんだよな。文官でも危険な場所に行く場合があるから自衛ができる戦闘能力は必要みたいなことを言っていたんだが」

「……へぇ〜」

 戦闘能力がいる文官ってそんな人いるの?

 俺はオズの耳元で囁くと、オズも同じく囁き返してきた。

 働く場所は安全な王宮だけじゃないからね〜。そういえば、騎士団は脳筋が多いから書類の内容は酷いし、期限通り提出しないから苦労するって聞いたな。

 貴族であるオズは俺よりも王宮の情報に詳しい。

 それってつまり……。

 俺の想定通りなら。

 騎士団に貸し出されるかもね。

 オズの推測には俺も同意する。

「頑張ってくれ」

「頑張ってね」

「あぁ」

 俺達の生暖かい視線の意味がわからなかったのだろう。不思議そうな顔でエドは頷いた。


「あれ?」

 鞄に見慣れないものが入っていた。

「手紙?」

 いつの間にこんなものが。

「ラブレター?」

 横からオズが覗き込む。

「いや、それはないだろ。アルトはアリスと付き合ってるんだから」

 エドが即座に否定する。

「とりあえず、開けなよ」

「あぁ」

 オズに促され、俺は手紙を開ける。そこには、先日の第一王子相手でも立ち向かい、あのマリアの化けの皮を剥いだ姿がかっこ良かったですという内容が書いてあった。

「これって……」

「ファンレターだな」

「何だ。ラブレターじゃないのか。修羅場が見られると思ったのに」

 心底、残念そう顔で言うオズに俺の顔が引きつる。お前、それでも俺の友人か。

「お前は俺の幸せをもっと願うべきだと思う」

 俺は改めて手紙を読む。

「周りも対処しようにも悪化していくばかりだった事態を見事解決したお前はかっこ良く見えたんだろうな」

 周りが注意するも殿下達は聞く耳を持たなかった。魅了されてたからね。

「あの魅了って洗脳に近いよね。精神魔法は禁忌とされてる魔法が多いからみんなも気づかなかったんだろうけど……。魅了の能力者か。珍しすぎて僕も気づかなかった」

 能力者はただでさえ数が少ない中、魅了の能力(アビリティ)はさらに稀だ。

「そもそも、本人が自覚してなかったみたいだぞ?それに私はヒロインなのよ!とか何であんなモブが邪魔するのよ!とか口走っていたらしいが」

 エドには騎士団に所属している兄がいる。そこからの情報だろう。話を聞くに支離滅裂な発言が多かったそうだ。

「うわぁ〜、ないわ〜」

 オズはドン引きしていた。

「ヒロインって、ここは小説やゲームの世界じゃないんだけど」

「ゲーム?」

 聞き覚えのない単語だったからだろう。すぐオズが反応した。

「いや、こっちの話」

 マリアも俺と同じ転生者だったのだろうか?だとしたら舞い上がるのもわかる。だけど、ここは虚構のフィクションではなく、現実(リアル)だ。それに気づかず、直視しなかったからあんな出来事が起きたのかもしれない。まぁ、俺には関係ない話か。もう終わった話だし。終わり良ければすべて良しだ。アリスと付き合えたんだし!

 ヒロイン達のその後についてここに記しておく。

 マリアは魅了という能力者だったため、国のために使うという話もあったらしいが、倫理的な問題と危険性から却下された。今は魔力の封印と記憶操作され、どこかで暮らしているそうだ。

 マリアに魅了されていた彼らも元に戻り、迷惑をかけたことを反省した今は必死に夢に向かって邁進している。学園内で収まったので特に婚約破棄や廃嫡はなく、軽い罰を受けただけで済んだ。


「アルト、目を付けられてるの気づいてないよね?」

 オズはアルトの鈍さに呆れるしかない。

「全く欠片も気づいてない。あのままだとろくなことになってなかっただろうからな。魅了だと気づいたのはアルトだけだった。未然に防いだアルトの評価は高い」

 エドもまたオズと同じ意見だ。兄達から聞く話の感じでアルトは多分、アルトが思うよりも評価されている。そこに全く気づかないのがアルトらしいが。

「そもそも、庶民のアルトが騎士団に推薦で入れる時点ですごいんだけどね」

 騎士団の実情に詳しいエドから見てもそう思う。実際、騎士団には平民でも入れるが、やはり入隊するのは難しく、数が少ないのが実状だ。ある程度の教養が必要なため、どうしても必然的に貴族が多くなる。学園からの卒業生だと多少は優遇されるが、それでも全体的に見たら少ないだろう。

「それに団員からってどういう意味かわかってるのかな?」

 候補生から始まるのが普通なのだが、優秀な生徒なら団員から始まることもある。アルトは気づいているのだろうか。エリート扱いであることに。そしてその待遇が意味することを。

「つまり、上層部はアルトのこと評価してるんだよね〜」

 あれだけのことをしてもアルトは自分のことを平凡だと思っているのだ。故にその事実に気づかない。

「あの事件で騎士団も動いてたからな。評価もされるだろ」

 実際、アルトが集めた証拠はかなり役立ったらしい。

「これからアルトの周りは騒がしくなるか。楽しみだね!」

 傍観する気満々のオズは笑顔だ。

「少なくとも何か起こるだろうな」

 これからアルトは功績を上げてアリスとの仲を認めてもらえるように頑張らないといけない。それは並大抵のことじゃない。だけど、アルトならやるんじゃないかと期待もさせる。

「俺も楽しみだ」


「以上で報告を終わります」

「ご苦労。もう下がってよい」

「はっ」

 報告しに来た男が部屋から出たのを確認すると、私はため息を吐いた。

「陛下、大丈夫ですか?」

 心配そうに私の右腕である宰相が尋ねてきた。ここ最近はストレスで寝不足気味である。食欲も落ちたように思える。ギリギリのところで踏み止まれたから良かったものの最悪の事態もあり得たのだ。そうなれば、この国も内乱へと向かっていたかもしれないと思うと頭が痛かった。

「大丈夫だ。にしてもその少年には感謝せねばならんな」

 学園内のことには例え王族であろうと簡単に手を出せない学園で身分を行使して介入はあまり褒められた行為ではないのだ。。王としての資質を見る意図もあったが、何よりカインの優秀さから問題ないだろうと放置していたのが更に事態を悪化させたように思える。そしてようやくあの婚約破棄寸前にこちらが介入する羽目になったのだが。おまけに少年が出した証拠でこちらもかなり動けるようになったのだから本当にあの少年には感謝が尽きない。

「アルトと言ったか?その少年に一度会ってみたい」

「騎士団に入団するようですから会う機会はいくらでもありますよ」

「そうか」

 報告書には特に秀でたものはないものの優秀な少年だと書かれていた。だが、特筆すべきは精密な術式を構成する点と展開する速さだ。威力に欠けるために学園で評価はされてないようだが。

「間者ではなかったようですが、あの少女の扱いには困りますね」

 少女について徹底的に調べ尽くした結果、特に国をどうこうしようとは考えておらず、妙に情報を知ってはいたが、それ以外に怪しい点はなかった。今の情勢で現れた魅了の能力者は爆弾に等しい。本当に頭が痛い。

「ただでさえ、あそことは一触即発なのに」

「これをきっかけに何も起きなければいいがな」


 ある国の学園にてある少女がいた。その子は王族や上位貴族の令息を口説き落とし、侍らしていた。彼らのあまりの変わり様に私も驚いたと同時に面白いと思った。これは駒として使えると。

 だから私は裏で少女の手助けをした。手助けをしなくても上手く行ったかもしれないとは思ったが、噂を流すくらいはしておいた。そして事実、上手く行った。いや、途中までは上手く行っていたのだ。だが、あの男が来て計画は失敗した。

 何か動いているなとは思っていたが、問題ないと無視していたのが仇となった。ただの平民の分際だと侮っていたのが良くなかった。名前はアルト。詳しく調べると、上の下ぐらいの成績で秀才型。剣も魔法もそこそこできる。そこそこという点に疑問を持った。魔法の腕前はすごかった。事実、あの場所で放った魔力封じや雷の魔法は精密かつスピーディーだった。

 あぁ、学園の評価方法では評価されないのか。

 遠距離から一方的に高威力の魔法を放つのが一般的な運用方法だ。アルトの剣も魔法も使った近距離での戦い方は一般的ではない。魔法の使い方は上手いが、大した威力は出せないのだ。とは言っても、低い威力でも近距離からなら効果的だが。

 威力が出せない魔法は評価されない。いかに高い威力を出せるかがこの国の評価基準だ。故に、効率のいい構成を開発しても、術式の展開が精密で速くても彼は評価されないのだ。正当に評価されないことを可哀想だと思うが。

 さて、このことを報告書にまとめておかないと。もうすぐ定期報告の日だ。私は情報収集し、報告するのみ。これを主人がどう判断するかは私の知るところではない。

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