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モブ、異変と遭遇する。

ようやく動き出します。

アルトが頑張りますよ。

 あれから捜索隊が組まれて、行方がわからなくなった者の痕跡が発見された。この言い方でわかると思うが、保護された者はいなかった。痕跡と言っても、隊服や持ち物、また大量の血痕と肉片が発見されただけだ。そこからもう生きている者はいないだろうと捜索は打ち切られた。当然、この異常事態に調査隊が組まれ、そこに何故か俺が入ることになった。何でだ!?

 何でも前回の偵察の評価が高く、実力を買われているようだった。情報を確実に持ち帰ったことが良かったと言われた俺は乾いた声で引き受けるしかなかった。上官の命令は絶対である。だが同時に、これはチャンスだ。そう、チャンス。チャンスなんだとそう言い聞かせて今、調査隊として森の中にいる。例の魔物が出たとされる場所の近くまで来ていた。調査隊のメンバーはもう数週間も一緒にいるため、顔見知りが多い。軽く自己紹介してから出発したが、空気が重い。まぁ、情報が一切ない未確認の魔物って怖いよね。対処の仕方も弱点もわからないのだ。臨機応変に対応しなければならない。心臓がバクバクしているのを自覚した俺は静かに深呼吸する。落ち着け。こういう時こそ冷静にだ。そう言い聞かせながら慎重に歩を進めていた時だった。微かな音がした方向に振り向くと、そこには襲いかかろうとしていた魔物の姿があった。飛びかかってきていた魔物を俺は咄嗟に転がって避け、すぐに体勢を整える。

「何だこれ……」

 メンバーの一人が呟いた言葉に俺も同意する。確かにこれは見たことのない変な魔物だ。だが、俺は心当たりがあった。そう、前世でだ。これってまさか合成獣(キメラ)じゃないか?その姿を見た俺がまず思ったのはそれだ。確かに聞いた通り、獅子と大猿の特徴がある。太い腕は大猿のように毛深いし、顔が獅子で鬣がある。他にも色々と混ぜ合わせてあるようだ。複数の特徴を持つ、見ていて気持ち悪い生き物。自然ではあり得ない形をしている。そう、これは人工だ。誰かがこれを作ったとしか思えない。こんなの命の冒涜じゃないかとその悍ましい実験に吐き気がする。だが、今はこの事態をどうにかしなければならない。

 魔物を中心に散開した俺達はまず盾持ちが前を出てヘイトを稼ぎ始めた。俺もヘイトを稼ぐために動き始める。メンバーにいる魔術師が唯一のダメージソースである。この調査隊は情報を持って帰ることが最優先され、逃げ切られるように身軽な者が多い。盾持ちもゲームやアニメみたいな大楯じゃなく、小楯と剣を装備しているし、魔術師も支援と回復に特化している。とは言え、魔術師が攻撃の要なので、魔法を準備するためにそれ以外の者が時間稼ぎをするが、どう見ても魔法一発で倒せるとは思えない巨体だ。何発か撃つことを考えると、やはりヘイト稼ぎが重要になる。

「遭遇したくなかったが、ここで倒されてくれよ」

 ナイフを投げるも分厚い表皮に阻まれる。見た感じ頑丈そうだと思ったが、これは思った以上に厄介かもしれない。もし魔法が効かなかったらやばいぞ。そもそも、このパーティーは倒すことを主軸にしていない編成である。だからと言って、逃げられるかと聞かれると無理そうだなとしか言えない。近づいて来たことに気づけなかったこともそうだが、あの巨体だとすぐ追い付かれそうである。前回の遭遇で不意打ちだったのもこちらが感知できる範囲外から一気に近づかれたのだろう。あの巨体と身体能力なら可能だ。また逃げられたのも多分、追いかけるよりもすることがあったからだ。こいつは人を食ってその味を覚えている。故にこれは最早、討伐対象だ。

 ちまちまとした攻撃にイラついた魔物がした大振りな攻撃を避け、攻撃の隙を伺う。巨体から繰り出されるあのパワーは当たれば無事では済まないだろう。吹っ飛ぶことは間違いない。骨折だけで済めばいいが、即死なら最悪である。それを想像しただけでさっきから冷や汗が止まらない。死がすぐそこまで迫っているのを肌で感じていた。あの魔物がただ身じろぎしただけでもこちらには脅威である。救援信号を出しておいたが、それまでに俺達が倒されても何らおかしくはない。誰か一人でも抜けたら終わりだ。それをメンバー全員が感じている。実際、何度か危ない場面があったが、お互いにフォローし合ったことで助かっている。問題は体力よりも精神的な疲れが溜まっていることだ。盾持ちが正面で受け流しながら注意を向けさせ、俺やもう一人が攻撃して気を逸らしたり、妨害をする。後衛の弓と魔法が時々入るが、あまりダメージが入っているようには見えない。それが更にこの空気を重くしている。倒せるビジョンが全く見えないのだ。このままでは無理だ。なら急所を狙うしかないが、心臓はあの硬い表皮や筋肉で阻まれそうだし、巨体故に首も高い位置だ。隙がなければ到底届かない距離にある。ならどうするか。そもそもあの高さに行くのが難しい。森の中のここなら木があるから、仮にそれを足場にして首に近づけてもあの腕で薙ぎ払われたら死ぬだろう。これ以上は時間をかけても良くない。どうする!?

 考え込みすぎたのか、足元にある木の根に足を取られた俺は体勢を崩した。やばい!と思った時には魔法が飛び、魔物の攻撃がこちらに届く前に避けられた。

「大丈夫か!?」

 盾持ちの人からの声に俺も答える。

「悪い!問題ない。助かった」

 一度戦線から離れた俺は一度、深く呼吸する。落ち着いて、冷静に。隊服は汗で張り付いて気持ち悪い。そのことに今気づくぐらいに余裕がなかったと自覚する。魔物はイライラして冷静さを失っているようだ。羽虫みたいに飛び回る俺達を潰せないことに頭に血が上っている。戦線に戻るタイミングを計りながら考えていた俺は唐突に閃いた。そうだ、届く距離に持って来ればいい。俺は冒険者をしていた時はいつも狩人みたいなスタイルで依頼を受けていた。事前に調査し、魔物が油断した時に攻撃。魔物の長所を潰し、俺の得意なフィールドに誘導する。いつもやっていたことだ。それを応用すればいいだけなのに、今まで気づいていなかったとは。本当に何してるんだ俺!?反省するのを後回しにした俺は後衛に声をかけ、作戦を話す。後は前衛とのタイミングが重要だ。この魔物はパワーと頑強な体を持つが、知能は高くない。これまでの動きから見てもそう思う。なら言葉を理解することもないだろう。

「攻撃を仕掛けます!合図で離れて!」

「了解!」

 前衛からの声に俺は魔法を構築していく。魔術師も強力な魔法を撃つために集中し出していたが、俺は気づく余裕もなかった。あの巨体から考えていつもよりも範囲は広く深くしなければ。いつもの魔法式をこの場で改良し、構築し始める。これを後日聞いたオズは呆れるのだが、これが異常だと気づいていない俺はようやく構築し終わった式に問題ないか確認し、声をかける。

「準備、終わりました!」

 その声に前衛の動きが変わる。

「5!4!3!」

 前衛がこの時点で離脱する。

「2!」

 それを見た魔物が追おうとするが、そこに矢が顔に当たり、嫌がった魔物は顔を振った。

「1!」

 魔法の発動準備をし、

「0!」

 魔法の効果が魔物の足元に現れた。魔物が先程まで踏み締めていた地面が消失し、魔物は深い底へと落ちた。ちなみに底には槍をおまけで設置しておいたので多少刺さるといいなと思っているが、多分効いてないだろう。

「落とし穴とは古典的な……」

 盾持ちの人が呟いていたが、まだ戦闘は終わってない。

「行きます!離れてください!」

 その穴に向かって弓士が油が入った袋を投げ、直後に射った矢で袋の中身が破れた。穴の中に油が撒かれたのだ。そこに魔術師が強烈な火の魔法を放つ。そうなるとどうなるか。穴の中は恐ろしい勢いで燃え上がった。炎の中で魔物は藻掻き苦しんでいたが、あの巨体の倍以上というかなりの深さで作ったため、そこから這い出ることはなかった。

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