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攻略対象者から見たモブ

 僕とアルトが出会ったのは学園にある図書館だ。それも難しい専門書が置かれた地下にある書庫。誰もいないし、静かだし、好きな本はあるし、天国だった。あいつが来るまでは。

「その本、読めるの?」

 読書に夢中だった僕は人が近くにいることに全然気づかなかった。

 本から顔を上げると、目の前に人当たりの良さそうな顔をした少年が立っていた。貴族ではないと立ち振る舞いでわかったけど、それ以上のことはわからなかった。そもそもクラスメイトの顔も把握してないし、どこの誰とかわかるはずもなかった。

「読めるから読んでるんだけど?読書中に話しかけないでくれるかな?邪魔。見てわからないの?その目節穴?」

 それだけを言って、僕はまた読書に戻った。

 えっ?初対面であれはない?わかってるよ。あの時の僕は本と魔法、研究さえあれば良かった。それ以外はいらなかったんだ。

 僕はある貴族の末っ子として生まれた。僕は家族から疎まれてた。僕を生んで母親が死んだからだ。母を愛してた父は僕を恨み、疎んだ。僕の兄や姉もそれに倣うように疎み始めた。父親の態度は子供だけではなく、使用人にまで広がった。そうなるのも当たり前である。父が家の中での最高権力者だからだ。右に倣えで逆らう人などいなかった。

 魔法を習い始めた兄達は得意げに僕を魔法の練習台にしていた。とは言っても、習い始めた子供が放つ魔法だ。そんなに威力はない。だが、魔法の撃ち所が悪く死にかけたことがあった。その時、自己防衛しようとした僕は無意識の内に魔力が暴走させた。

 それからの僕の世界は一変した。僕は魔力量がかなり多いらしく、父は僕に教育を施した。また暴走されても困るからか、利用できるからか知らないけど。また周りの態度も激変した。使用人や兄弟は僕を恐れ、今までの仕打ちなどなかったかのように振る舞う姿には反吐が出る。

 魔力があればこんなに違うのか。

 それから僕は魔法を勉強した。魔法の勉強は楽しい。魔力が多いからたくさん練習できるし、色々と実験できた。

 魔法があれば誰も僕にいらない子なんて言わせない。いじめられることもない。僕一人でも生きていけるんだ。

 王宮にある魔法研究室に就職するという目標のために学園に入学した僕は図書館に入り浸り、猛勉強した。

 そんな時、あいつに会ったんだ。


 読み終わり、席を立とうとすると、目の前の席にあいつがいた。

「その本、難しいのによく読めるね。古代語読めるんだ?」

 あれだけ言ったのにまだ話しかけてきた。今までの奴らはあれで話しかけなくなるのに。頭おかしいのかな?

「読めるから読んでるんだけど」

 それが何だと睨むもあいつは全然動じない。

「その本、読んでる人少ないんだよね。その作者の本、他にもあるんだけど……」

 そして気づいたら、なぜか僕は彼と話していた。彼、アルトは平民だったが、努力家で魔法についても詳しかった。僕の次ぐらいにだけど。

 だんだんと話すのが楽しくなってきたことに驚く。家族ともろくに会話をしていない僕がこんなに会話していることに自分でも驚いた。アルトは話し上手だし、聞き上手だ。会話に乗せられる。普通の人なら僕の物言いに怒るが、アルトは気にしない。

 前に聞いた。初対面であんなに言ったのに何で話しかけてきたんだって。そうしたら、だから読み終わるの待ってたんだけどって言われた。僕の口の悪さについても猫に威嚇されてるみたいな感じかな?って言われ、僕は笑顔で魔法をぶち込んだ。


「ねぇ、何でアルトは自分のこと平凡だって思うのさ?」

 いつも不思議だった。アルトはそこら辺にいる貴族共より優秀だ。

 僕の数少ない友人の一人、アルトを通じて知り合った黒髪の少年、エドワードに尋ねた。

「あぁ〜、お前とアルト、魔法の勝負をしたらどっちが勝つと思う?」

「それは当然僕だね」

 愚問だ。まず、根本的に魔力量が違う。魔法の勝負なら確実に威力も数も撃てる僕が勝つ。当然の結果だ。

「剣の腕や頭の良さだってアルトより優秀な奴はいる。あいつは一番にはなれない。良く言えば万能、悪く言えば器用貧乏、中途半端。アルトと同じタイプはカイン殿下か。あの人も剣も魔法も使え、頭もいい。とは言え、アルトよりも実力は上だが」

「でも、模擬戦は強いよ」

 授業中の模擬戦では苦戦する。

「全部それなりに、そこそこ使えるだけだが、アルトはそれを上手いこと組み合わせるからな。強いというよりは戦い方が上手いんだ。多分、戦術を考えながら戦ってるんじゃないか?だから、実戦では強い。ただ制限がかかる学園の試験ではあまり評価されないな」

 学園では専攻が分かれ、それぞれに特化した学問を学ぶ。アルトのような万能型は学園での評価されづらい。学園では武術、魔法、知識とそれぞれを評価されるため、アルトはそれぞれがそこそこと評価されるのだ。

「でも、あのレベルで全部こなせるのはすごいと思うんだけど。殿下は例外でしょう。血筋と幼い頃からの英才教育があればあのレベルに行くよ。アルトは自力であそこまで行ったんだから」

 アルトは平民だ。知識や技術では貴族に劣るのを努力であそこまでにした。

「自己評価が低いのは上がいるってこと以外にも理由があるかもしれないな」

「理由……」

 僕は魔法理論について話すだけでアルトのことをあまり知らないと気づいた。


 ある時、アルトの様子がおかしくなった。

「苛つくんだけど?」

 そわそわと百面相をするアルトが視界に入ってうざい。

「おう」

 上の空な返事に僕は容赦なく雷の魔法を食らわせた。

「……オズ、魔法を放つよりも先に言葉で言ってくれ」

 渋い顔をしたアルトだったが、ようやくこちらに意識が戻って来たらしい。

「言葉で言った」

 勿論、いきなり魔法をぶっ飛ばしたりは流石の僕でもしない。

「……言ったか?」

 首を傾げるアルトを見た僕はもう一度手に雷を纏わせる。

「わかったから!俺、死ぬからな!?」

 アルトは慌てて僕を止める。

「で?何があったのさ?」

 仕方なく、僕は読書をやめ、アルトの話を聞く体勢を取る。

「一目惚れした!」

「……へぇー……」

「雷バチバチ言ってる!」

 馬鹿らしい内容に読書の時間が削られたのかと思うと、怒りが湧いてきた僕は無意識に魔法を使っていたらしい。あははは、全然気づかなかったよ。

 アルトから更に詳しい話を聞くと、相手は貴族という高嶺の花だけではなく、身分が公爵令嬢と未来がない恋である。

「諦めるしかないね」

 僕は即答する。何かに秀でていたりしたら話は別だけど、僕みたいに魔力量が多いとか。ただの平民が高位貴族となんて諦めた方がいい。僕も貴族だからこそその困難な道がわかる。

「お前、本当に冷たいな」

「いや、身分差があるし、婚約者がいるんでしょ?無理だね。それにここははっきり言うのが友達だと思うんだ」

 僕は優しい笑みを浮かべる。婚約者がいるってことは相手も高位貴族の可能性が高い。更に望みが薄くなった。

「嘘くさい」

 アルトのその言葉を聞いて、僕は即座に雷を落とした。


「最近、忙しそうだね」

 何か動き回っているようだ。

「うん。アリスの周りが少し騒がしくなってきているから調べてるんだ」

 まだ諦めていなかったらしい。やめた方がいいのに。

「ふ〜ん」

「興味なさそうだな」

 不毛な恋をしているアルトに呆れているだけとは流石に言えないため、違う言葉を返す。

「ないからね。そういえば、つい最近、何かうるさい女が来たよ。すごいうざかった」

 こちらのことなんて気にせず、一方的に話しかけてきたのだ。おかげで僕の読書の時間が減った。それは最早、災害だった。

「口の悪いお前に?それはチャレンジャーだな」

「死にたいの?」

「生きたいです」

 目が据わった僕に命の危険を感じたのかアルトは即座に答えた。チャレンジャーってアルトも同じことしてたよね?

「その女ってピンクの髪だったか?」

 アルトに心当たりがあるらしい。僕より交流関係が広いから当然かと僕は深く気に留めなかった。

「……ピンクだった気がする。何か僕のことわかってるみたいなこと言ってた。僕の家について詳しく知ってて気持ち悪かったんだけど。っていうか、本当に大きなお世話だよ」

 二度と視界に入れたくないね。それぐらい生理的に受け付けなかった。

「そうか」

 僕の答えにアルトが考え込み出したのを見て、流石の僕でも疑問に思う。

「それがどうかした?」

「それって……余程嫌いなんだな。その人、今の学園で凄い有名人で。カイン殿下や有力貴族の令息に付きまとっているから」

「玉の輿か」

 爵位の低い女性が爵位の高い男性を狙うことはよくあることだ。わかりやすい。

「それだけならいいんだけど、様子が変なんだよな。らしくないっていうか、前と違う態度なんだ。それはもう激変。いや、別人みたいになっていて」

「……激変?別人?」

「その女性を巡って争ってる。べた惚れっていうか……」

 何がどうなればそんな別人みたいになるのさ。恋ってそんなに恐ろしいものなの?

「その女性に身分問わず、結構な数の男性が恋してるのか、あまりの変わり様に周囲は騒然だよ」

「恋って怖いものなのか。熱に浮かされてる感じなのかな?」

「そうなのかな。それだけじゃない気がするんだけど」

 腑に落ちない顔をしたアルトだったが、君も人のこと言えないよね。

「アルトも似たような感じだったと思うけど」

「うぐっ……、確かに否定できないけど、あれは何か違う気がするんだよな〜」

 僕は本を仕舞い、立ち上がる。

「オズ?」

「ちょっと興味が湧いた」

 僕はそれを実際にどうなっているのか見に行くことにした。聞いただけではわからないしね。


 遠くから彼らを見ることは学園に通っていれば当然ある。だからこそ思う。今の彼らは僕が知る人物とはまるで別人だ。

「何あれ?よく似た偽者じゃないの?」

 それぐらい激変している。むしろ、見ていて気持ち悪い。

「気持ちはわかる」

 アルトは僕の言葉に同意するようにうんうんと頷いた。

「誰か注意しなかったの?」

 むしろ、注意しろよ。そして、あれを公共の場で繰り広げるのをやめさせろと切実に思う。

「したけど、聞く耳持たず」

 アルトは肩をすくめ、首を振る。

「恋は盲目って言うけど、あんなに変わるんだね〜」

 あそこまで変わるとは驚きだ。恋は病って本当だ。最早、怖いんだけど。もし僕が恋をしたらあんな風になるのかと思うと今後一生したくないな。

「で、アルトが気になるのはアリス嬢のことでしょ?カイン殿下の婚約者だもんね」

「……良くない噂が急激に広まりつつある。風向きが良くない。それに気になることがあるんだ」

 不毛とわかっていて首を突っ込むのか。本当にお人好しだよね。

「ふ〜ん。頑張れば?本当、アルトって馬鹿だよね」

 このまま放っておけばアリスと付き合える可能性が上がるのに。

「……好きな子には幸せになってほしいんだよ」

 そう呟くアルトの横顔を眺める。アルトより地位があり、力がある婚約者に勝てる要素はどこにもない。誰がどう見ても横恋慕だ。自分が身を引くことでアリスが幸せになる。そう思い込むことで自分を納得させているのだろう。こんな僕に話しかけて来るのも、好きな子のために恋敵の味方をするのもアルトがお人好しだからだ。馬鹿だと思う。だけど、それがアルトのいいところだとも思う。

 一度アルトとアリスが話しているのを僕は見たことがある。とても仲が良さそうで、彼女も楽しそうに笑っていた。本当に片想いなんだろうか?両想いなんじゃないのか?と僕は見ていて、そう思った。


 アルトが恐れていた事態が起こった。何故か周りはアリスに対して敵意を向けている。偶然、その場に居合わせた僕はその様子に不審なものを感じる。アリスは周りから好かれていたと思う。ここまで敵意を向けられることはないはずだ。

 敵意を向けている人と向けていない人。その違いは明確だった。敵意を向けているのはマリアの近くにいる奴ばかりだからだ。近くにいた人ほど敵意が強いように見える。

 アリスの窮地にアルトが間に入った。アルトが来たからにはもう大丈夫だろう。そしてアリスの無実を証明するためにアルトが使い魔を出した。

 クラマ?そんな使い魔がいるって聞いてないんだけど!?初耳!寝耳に水!後で問い詰めてやる!っていうか、アルトにしては強硬な手段だ。あれかな?アリスのために冷静さを欠いていた?それともそうせざるをえなかった?

 アルトが魔法陣を展開した。それも魔力封じの。

 高位魔法をあのスピードで無駄なく展開するとかないよねと僕は呆れる。簡単に行ってるけど、あれかなり高度な技術なんだよ。

 マリアとか言う女の魔力を封じた途端、周りの様子が一変した。アリスに敵意を向けていた者が我に返ったかのように敵意を向けなくなっていた。あれは何か魔法を使ってたのかな?だが、マリアの近くにいた彼らには意味がなかったらしい。彼らはアルトを敵と見なし、魔法を放とうとしていた。それも殺傷能力が高い魔法を。

 どう見てもたった一人にそれはやりすぎだ。冷静な判断力が落ちているらしい。傍観する気満々だったが、アルトの危機に僕はとっさに魔法を展開して発動させようとするも、それよりも先にアルトの魔法が発動し、雷の魔法で彼らを気絶させてしまった。無意味になってしまった発動直前の魔法を霧散させる。僕よりも早く精密な魔法を放った。彼らが魔法を放つよりも早く、彼らが気絶するように加減した魔法を構成した。僕よりも早く精密にという点が苛つく。

 よし。後でアルトをぶっ飛ばそう。


 その後、アルトはなぜかアリスを避けまくっていたが、見事アリスに捕まり、付き合うことになったらしい。良かったとは思う。思うが、アルトのあまりの浮かれ具合に少し苛つく。だけど、珍しく僕は我慢した。僕だって我慢できるんだ。そして、アルトのデレデレっぷりにも我慢…できるか!うざいわ!

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