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モブ、遠征の準備をする。

この話でこの章は終わりです。

幕間のような章が終われば、次は大きな編が始まります。

「遠征ですか?」

 突然告げられた団長の言葉に俺は首を傾げた。遠征とは、中央騎士団と地方騎士団との交流と訓練も兼ねて毎年行われている、魔物を間引きする討伐行事だ。いつもなら魔物が活発に行動し始める春頃に行われるはずだ。今は夏の終わりで、もう秋になろうとしている。何だってこの時期に?今年も問題なく春に行われていたと聞いている。何故、またするのか?理由がさっぱりわからない。

「最近あった例のスタンピードの件で上層部が敏感になっていてな。他の所でまたあんなことが起きては困るってことで、冬になる前にもう一度行われることになった」

 つまりそれ、決定事項ってことですよね?これから他の騎士団と打ち合わせをして、予算や編成を組まなければいけないってことでもあるんですよね?毎年のことなら前年のを参考にできるが、前例のない、しかも上からの突発的な命令となると、一からやらなければならない。勿論、例年のを多少参考にはできても、春と秋では対応も必要物資も変わる。故にこれから忙しくなるだろう。だから団長の顔は暗いし、副団長も憂鬱そうな顔である。勿論、俺も。上の決定は絶対。これが社会というもの。世知辛い世の中である。


「団長、一つ聞きたいのですが」

 今回の遠征に向かうメンバーが書かれた紙を見た俺はそこに書かれた文字を否定したくて団長に尋ねた。何だこれは。幻覚だよな?誰か違うと、嘘だと言ってくれ!

「何だ?」

「何故、俺が入っているのでしょうか?俺はまだ入って一年も経ってない新人ですよ。おかしくないですか?」

 いや、おかしいよね?何で誰も言わないの?普通、入隊して数年の者が選ばれるよね?そもそも、何で俺が選抜されてるの?意味がわからないんだけど。

「あぁ、前回のスタンピードの活躍で大丈夫だろうって判断になった。良かったじゃないか」

 いや、全然良くねぇよ!何で俺なんだよ!?とそう叫び出したいのを我慢する。

「活躍なんてしてませんよ」

 実際、大したことはしてない。偵察して、避難誘導しただけで、最後はぶっ倒れたし。戦闘に何も貢献してないんだぞ。むしろ、何で選ばれたのかわからない。

「お前が持ち帰った情報で魔術師の派遣が決まったし、本隊の編成や出発が早まったのも事実だ」

 うっと呻く。確かにそれは認める。だが、何故俺が選ばれたのか、全然納得いかない!断固抗議する!

「お前を派遣した俺の目は間違ってなかったってことだな」

 自慢げに言う団長に俺はイラッときた。

「俺が推薦しておいたぞ!喜べ!」

 親指を立てた団長に殺意が湧いた。元凶はお前か!?悪気はない団長は純粋に俺が喜ぶと思ったのだろうが、有難迷惑って言葉を知っているかな?その善意は俺にとっては最早悪意だ。

「実績を積むことは悪いことではありませんよ。それに何事も経験です。今回の遠征では得難い経験を得られるでしょう。出世したいなら団長の好意を断らず、素直に受け取っておきなさい」

 副団長の加勢に流石の俺も黙る。アリスとの将来を本気で考えるならこれはチャンスでもある。俺の実力では何か偉業を成し遂げることなど到底無理だからだ。なら、こういう実績をコツコツと積み上げていくしかない。俺にはどうしても掴みたい未来がある。難しくても精一杯足掻くって決めたんだろう。なら覚悟を決めろ、俺!

「わかりました。行かせていただきます」

 今回の遠征で何か得られるかもしれないし、得られないかもしれない。それでもやってみなければわからない。せめて、今の自分より少しでも成長できたらいい。

「お前が選抜されたことで、他の部署も新人を入れることにしたらしいから」

 団長がわざわざ付け加えた言葉の意味を全く理解していなかった俺はそうですかとだけ返した。俺と同期で優秀な人材と言えば、誰かなどよく考えればわかることだったのに。


「えっ?お前らも選抜されたの?」

 恒例の飲み会で二人から聞かされた言葉に俺は驚いた。

「そう。本当、今研究で忙しいのにさ。遠征とかあり得ないんだけど!?」

 飲んでいたコップをドンッと置いたオズは前回の飲み会で言ったことを実現させようと頑張っているようだ。そこまでして縁を切りたい家族ってどんなのだろう?と疑問に思うも尋ねるつもりはない。オズの最も繊細で弱い部分だろうから今後も尋ねることはないだろう。

「スタンピードの兆候がないかの調査とか、現地に行って王宮に届いた報告書が実際の所、どうなっているのかの確認作業とか、文官も色々とやることがあるらしいぞ」

 不正がないのか、調べるのか。監察官のようなことをするってことだろう。ついでとばかりに実地調査をこの機会に行うとは思っていた以上に大事になってきたな。突発的な遠征だから迎える向こう側も大変だろう。こっちも大変だったから向こうもそうに違いないと俺は同情していた。

「どこの部隊だ?ちなみに俺は東だけど」

 俺は東方騎士団へと向かう遠征部隊に配属された。あのムキムキなお兄さんがいる所ならそんなに心配しなくても大丈夫かなと思う。あの人、多分団長と同じタイプの人間だし。短い時間だったが、そういうオーラがあった。暑苦しい人だが、根っこは悪い人じゃない。

「俺も東方騎士団だ。実家に帰るみたいで嫌だが」

 案内人も兼ねているんだろうなと思ったが、エドは心底嫌そうな顔をしているため、口には出さなかった。まぁ、こういう形では帰りたくないよね。

「僕も東方騎士団だよ。何だ、僕達同じ所に配属されているみたいだね」

 団長の差し金だろうか。多分、そうに違いない。いや、知り合いがいたら心強いけど、これって本当に大丈夫か?職権乱用じゃないよね?まぁ、ダメなら副団長が流石に止めてるよな。


 今回の遠征は表向きはスタンピードの発生の兆候の有無を調査し、討伐するとなっているが、実際は東の国境線に面している国を警戒してのことだった。ピリピリした空気の中、騎士団を派遣すれば大事になるかもしれないが、最もらしい大義名分があれば問題はない。表向きの理由も全くの嘘ではないからだ。いつもなら報告のためだけに団長クラスが王宮に来ることはない。東方騎士団の団長がわざわざ王宮に足を運んだのは国王陛下に現状報告するためだ。そう、東側に面している国はラーヴェ。今、最も警戒し、そしてスタンピードの原因だろうと推測されている国である。そんな危険な国の国境に近いカインズ領に向かうことになったアルト達。もうすぐ起こるであろう出来事を彼らはまだ知る由もなかった。

今回の題名でわかったと思いますが、

次話から遠征編が始まります。

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