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モブ、友人の問題に直面する。

オズ視点です。

今回はオズの家族が出て来ます。

「あぁ~、本当に面倒」

 思わず声に出す程度には僕はイラついている。折角、アルトから飲みに行かないかと誘われていたのに断る羽目になった。あの男のせいで、だ。

 生まれ育った家を前にしても最早僕は何も思わない。もうここは僕にとっては帰る家でもないし、またいい思い出なども皆無だ。過去のものであるこの場所は、今の僕に何ら影響を与えることはもうないのだ。僕が帰る場所は王宮にある研究室だ。そこには、こことは違って悪意に満ちた目を向けない友人や同僚がいる。一緒に悩んで、討論してと濃い時間を過ごしてきた。あの人達よりも短い時間でしかないが、それでも僕のことを本当に心配してくれる人達だ。だからこそ、あの男からの呼び出しには憂鬱になる。卒業を機に家を出て清々しただろうにまだ僕に干渉してくるのか。本当に忌々しい。

 到着するとすぐさま案内され、あの男の執務室まで来たところで思わず舌打ちが出た。案内していた執事がびくついていたが僕は気にも留めなかった。今までこいつが僕の仕打ちを知りながらも見ない振りをしていたことを知っている。恐怖と懺悔に満ちた目を見ると更にイラついてきた。

 執事の呼びかけに応じたあの男の声に嫌な気持ちが湧き起こる。あの男にはもう嫌悪しか湧かない。情など今では皆無だ。そしてもう二度と思い出したくもないし、一生忘れておきたかった。もう会うこともないと思っていたのに一体僕に何の用なんだ。

 僕が部屋に入ると、執事は部屋には入らずに去り、あの男と二人きりになった。その事実に僕は込み上げるものを必死に抑えた。

 あの男は僕が来てもまだ執務机で書類に目を通し、サインしていた。仕事が終わる様子もない。その様子に僕の顔は怒りで引きつるも、強く拳を握ることで苛立ちを逃がす。席に座っておくように言われた僕は勿論遠慮なく座った。どうして僕があの男に気を使わないといけないのか。向こうから呼び出しておいて。そうして、ようやく仕事に一区切り付いたのか、あの男が顔を上げたので僕は早速、要件を問いかけた。この場所から一刻も早く出たい一心だった。

「何の御用でしょうか、父上」

 内心のことなどおくびにも出さず、これ以上ないぐらいに綺麗な笑みを浮かべて聞く。本音では父上などこれっぽちも呼びたくはないが、残念ながらまだ僕はこの家の者だ。僕がこの家と縁を切ったつもりでも今後こういうことが起きるのなら籍を抜くことも考えるべきかと真剣に検討し始めたところに声が響いた。

「お前に縁談が来ている」

 その言葉に僕の頭に血が上った。この男はまだ僕を利用できると思っているのか!?

「お断わりします」

 僕は無意識の内に答えていた。

 誰がお前の言うことなんか聞くか!僕はお前の道具じゃない!激情から叫び出しそうになった声も、怒りに合わせて僕の体を激しく渦巻く魔力も瞬時に抑え込んだ僕はこの時、初めてあの男の目を真っ直ぐ見た。そこで見たものに一瞬、虚を衝かれた。あの憎悪した目をしていないのは初めてで、ただただ静かな目だったからだ。動揺したが、それでも怒りの方が強かった。

「悪い縁談ではないぞ。向こうから持ち込まれたものだ。ご令嬢の強い希望だそうだ」

 更に詳しい説明を淡々とされるが、それを聞いても僕の気持ちは一切変わらない。というより、僕はお茶会や夜会などといった催し物には一切参加していない。社交とは無縁の身の僕にどこでどう会ったと言うんだ。僕が会話するのはほとんどが男だぞ。そもそも、行く場所だって研究室か図書館しかない。飲み会では人嫌いな僕のために個室を借りているし。そんな奴の心当たりなど全くない。

「お断わりします。何を言われても気持ちは変わりません。話がそれだけなら帰らさせていただきます」

 そう言って席を立つ僕に引き留める声がする。耳障りなそれすらも無視し、僕はその場を立ち去った。

 やはり一刻も早くここから立ち去ろう。そして籍を抜く。エド辺りに聞けば、手続きの仕方を教えてもらえるだろうと考え込んでいた僕は歩いていた廊下の先に人がいたことに気づかなかった。

「オズワルドじゃないか。帰って来てたんだな。父上に呼ばれたのか?」

 さも親しそうに話しかけて来たのは僕と兄という関係性の男だった。表面上は取り繕っているが、その目は恐怖でいっぱいだ。それでも話しかけて来る胆力に感心するしかない。

 僕があの男の執務室のある方向から来たことでそう思ったのか、いや僕がここに来るとしたら呼び出しがあったからだと推測したのか。どちらでもいい。そう、ただ思うのは一つだけだ。

「無理なさらなくていいですよ。私のことなど気になさらなくていいのです。お互いのために今後は関わり合いにならない方が精神衛生上、いいでしょうし。私はもうこことは金輪際、関わらないつもりでいるので」

 金輪際を強調して言った絶縁宣言に兄と呼ばれる生き物は目を見開く。

 予想外って?今までの仕打ちを思い返しても本当に同じことが思えるのか?むしろ、こうなるのも必然だろうに。あぁ、本当に虫唾が走るな。

 僕が本気だと察したそれは動揺して言葉も出ない。どうすればいいのかわからないのだろう。茫然と固まったあれの横を通り過ぎて、僕はこの嫌な思い出しかない家から出た。


「何かあったか?」

 目敏いアルトは僕の異変によく気づく。人の異変には鋭いのに自分に関することは鈍いのは何でだろうと不思議に思う。そして今回も案の定、すぐ感づいた。

「別に大したことじゃない。ただ血縁関係にある人と会っただけだ」

 その言葉にアルトは何とも言えない顔をした。アルトは両親を亡くしているが、彼らが生きていた頃に愛情をたくさん注がれてきたのだとわかるぐらいに真っ直ぐな性根をしている。それに比べればあれは酷いものだった。僕はあれを家族とは呼ばない。呼びたくもない。その強い拒絶が伝わったアルトは悲しんでいた。アルトには悪いが、関係の修復は最早不可能だ。そもそも、今までの仕打ちを僕は許すつもりもないのだから。アルトはそれ以上は深く突っ込まなかった。

「エドに聞きたいことがあったんだ」

 この場にはエドもいた。今回は三人揃っての飲み会だ。折角の機会なので聞いておこう。

「何だ?」

 さっきまで黙って話を聞きながらお酒を飲んでいたエドは静かな声で問いかけた。

「家と縁を切りたいんだけど、手続きってどうすればいいの?」

 エドまでも何とも言えない顔をする。アルトから聞いた話では、それはもう暑苦しい兄が二人いるそうで、最近長男の方が王宮に来たらしい。僕は会ってないから話でしか知らないけど。それを聞く限り、僕のような殺伐とした関係性ではないだろう。きっと僕が思う家族の形をしているはずだ。

「できないことはないが、難しいんじゃないか?」

 エドは顔をしかめた。やっぱり難しいのか。そこは予想していた。

「あぁ、貴族だから?やっぱり、煩雑な手続きをしないといけないのか?」

 貴族というものに理解があまりないアルトは事務手続きが難しいという意味で受け取ったが、多分エドが言いたいのはそこじゃない。

「家とは長が治める集合体だ。家に関する決定権は当主が持ち合わせている。当然、手続きには当主の合意が必要だ。つまり、当主が拒否すればそれで終わりだ。合意は得られそうなのか?」

 エドの言葉で数日前に会ったあの男を思い出す。縁談の話を持ち込むぐらいだ。合意を得られるとは思えなかった。

「難しいんじゃないかな」

 僕は苦い顔をするしかなかった。僕には利用価値がある。その魔力量の多さと必死に磨いた実力から宮廷魔術師になり、そして研究室まで与えられているその待遇から、少なくとも手放そうとは当主として考えないんじゃないかと思う。合意など無理だ。

「だろうな。真っ当な者なら将来有望な人材は逃さないだろう。合意なしでやるなら、二つ方法がある。一つはお前の家に不祥事を起きた場合だ。事件や事故でもいいが、もし家が傾いたなら国としてお前を家から切り離す判断をするかもしれない。家そのものが潰される場合もあるが。とは言え、現実的な方法ではないな。そこまでの不祥事があそこの家にはないと思う」

 確かに家族として最低の部類でも、あれらは優秀であった。特に問題は起こしてないし、起こすこともないだろう。関わり合いになりたくないだけで害することまでは考えていない。確かにエドの言う通り、この方法は現実的ではないな。

「もう一つは?」

 先を促すと、エドはため息を吐いた。本気か?とも言いたげな目をされるも僕は本気だ。僕が引かないのを見たエドは口を開いた。

「もう一つは、功績を上げて爵位を賜ることだ。爵位を貰えたらお前はあそこから独立したことになる。これが一番現実的だろう」

 そうか、爵位か。その発想はなかった。名誉とか全く興味はないが、縁が切れるならやってみる価値はある。

「功績って、勿論スタンピードの時みたいなものじゃ足りないよね?」

 あの時、貢献したとされた僕に褒美が貰えた。研究資金の増額である。それで喜んでいた僕だが、違うものを望むのもありだったのだろう。とは言え、流石に爵位は無理だろうけど。

「全然足りないな。大きい功績を上げるより、小さい功績を積み重ねた方が現実的だぞ?」

 確かにそうだけど、爵位を得るまでにどれだけの功績がいるのか、またどれだけの時間がかかるのか。その間、あれが僕を放っておくとは思えない。また干渉されるに決まっている。

「オズは研究しているんだから、これみたいなものを開発すれば?民の暮らしを助けるようなものでもいいしさ」

 アルトが自分の耳に付けていたイヤリングを指しながら言った言葉に僕は視野が狭くなっていたことに気づいた。そうか、別にスタンピードの時みたいな功績ではなくてもいいんだ。魔道具の開発は目に見えやすい成果である。そっち方面からアタックするか。

 アルトの言葉で方針が決まった僕はお礼を言うが、アルトは大したことは言ってないよと苦笑しただけだった。折角だからアルトの度肝を抜かしてやると決意した僕だった。

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