モブ、友人の家族と出会う。
この章は次の章へと繋がる伏線が散りばめられています。
次々と新キャラ登場です。
宮廷医師に処方された薬のお陰か、はたまたオズがくれた魔道具のお陰か、俺の睡眠不足は解消されつつあった。とは言え、全く悪夢を見なくなったという訳でもない。ただ、あの異常なまでの恐怖心はなくなったし、見る頻度も減ったような気がする。それでも精神衛生上、あのトラウマとなっている例の人物には遭遇しないようにしていた。どこにいるかは使用人の噂でわかるし、行動範囲もある程度は推測できる。できればもう二度と会いたくはなかった。俺と接点なんかそうそうないし、大丈夫のはずだ。
そんな毎日の中で起きたここ最近の大きな出来事と言えば、地方騎士団の一つである東方騎士団が定期報告のために王宮を訪れたことだろう。この国の東の国境を守っているのが東方騎士団である。今代の騎士団長は確か、辺境伯の息子さんだったと思う。貴族と関わりなんてあまりないからそれぐらいの情報しか知らないが。そんな情報でしか知らなかった騎士団長と初めて会ったのは彼、ウィリアム・カインズが団長の元を訪れた時だ。中央騎士団と東方騎士団と所属が違っても顔見知りだろうから顔を見せに来るのは必然だと言える。
「久し振りだな!元気にしてたか!?」
「貴方こそ相変わらず元気そうですね。そうだ、聞きましたよ。スタンピードでボスを一人で倒したそうですね」
お互いにハグし合う姿は暑苦しかった。だって、筋肉ムキムキの男二人が抱き合うんだよ?部屋の湿度が上がった気がする。団長になるにはあそこまで鍛える必要があるのかなと俺はむさ苦しい二人の再会を前にくだらないことを考えていた。
「そりゃあ、これでも中央騎士団の団長だぞ。あれぐらい倒せなければ団長なんて座に就けないさ」
中央騎士団の団長になるにはあのレベルの強さが必要だと初めて知ったが、なら凡人の俺には一生無理だなと思った。にしてもこの二人、顔見知りっていうよりも先輩と後輩みたいな関係である。
「そうだ、紹介するよ。こいつがアルト。アルト、俺の後輩のウィリアム・カインズだ。ウィルは昔、中央騎士団に所属していた時があったんだ」
団長に紹介された俺は席から立ち、改めて自己紹介をする。
「アルトです。平民なので姓はありません」
「ウィリアム・カインズだ。よろしく」
力強く握手されて、筋肉質な人に囲まれることが多い俺でも流石にちょっとビビる。体格もそうだが、腕も手も太くて大きい。ここまで大きいと少し気圧される。
「君がアルトか。弟から話は聞いているよ」
弟?弟って誰だ?そんな奴、知り合いにいたか?心当たりはない。にしても一体、俺について何の話を聞いたのか。
俺の疑問を察したのか、ウィルさんはある衝撃の事実を述べた。
「うん?エドから友人だと聞いているが?」
巨漢の男が首を傾げても全然可愛くないなと思いながら先程の言葉を咀嚼する。
エド?エドって俺が知っているエドのことか?確か騎士団に所属しているお兄さんがいるとは聞いていたが、まさかこの人がそうなの!?全く似てないじゃないか!?
「あははは、あまり似てないよな。俺は父親似で、エドは母親似なんだ。兄弟だと言うと皆驚くよ」
俺の驚愕した顔にウィルさんは苦笑した。
「エドワードと仲良くしてくれてありがとう。これからもよろしく頼むよ」
「あっ、はい、勿論です」
本当に似てない。全然似てない。マジでこの二人兄弟なの?あぁ、だから剣も使えるのかと納得した。そりゃあ、騎士団からも声がかかる訳だ。
今まで俺はエドが貴族という事実は知っていたが、当の本人が貴族らしい偉ぶった態度とは程遠かったために貴族だと認識まではしてなかった。貴族の世界に疎い俺にはエドワード・カインズという名前を聞いてもピンときてなかったのもある。だから今までカインズ辺境伯の息子だという事実に気づけていなかったのだ。だからこそ、余計に疑問に思う。何でエドは騎士にならなかったんだろう。前から思っていたが、今回のことで更に思うのだった。
「は?騎士にならなかった理由か?」
疑問に思った俺は早速、次の飲み会の時に聞いてみた。今回はオズの予定が合わなかったため、エドと二人飲みである。
「急に何だ?唐突だな」
いや、自分でも思うけど、あの後だんだんと気になってきたんだ。ならもう聞くしかないだろう?
「お前のお兄さんに会ったんだよ。ほら、今王宮に来ているだろう?団長の所に挨拶に来たんだけど、最初お前の兄だって信じられなかったぞ。あそこまで似てないとは思わなかった」
本当にあそこまで血縁を感じさせない兄弟とは聞いてなかった。
「それ、本当によく言われる。俺達兄弟は父と母それぞれに似ているんだが、うちの両親のこと、周りは美女と野獣って言っているよ」
エドは細身のマッチョって感じでかつ中性的な容姿をしている。筋肉があるから男性だとわかるが、女装したら結構イケるんじゃないかな。気さくなエドだから気にしてなかったが、よく見るとその顔は美形だ。貴族って本当に美形が多いよな。
「俺の所にも挨拶に来たけど、相変わらずだったな」
へぇ~、昔からあんな感じなのか。
「もう一人、兄がいるけど、ウィル兄さんとそっくりだぞ?」
更にあんな感じの兄がいるのか。それは暑苦しそうだな。想像すると何とも言えない気分になった。今も昔も兄弟がいたことがない俺には少し羨ましい。勿論、世間一般的な兄弟がいたらなと思うだけで、あんな感じの兄は遠慮するが。
「それより騎士にならなかった理由か?単純に戦うより書類仕事の方が性に合ったからだ。後、母さんが騎士になるのをあまり快く思ってなかったのもあるけどな」
「えっ?何で?」
意外だと思った。辺境伯の奥さんならそこまで戦いに嫌がらないだろう。事実、兄二人は騎士なのだし。
「まぁ、あの上二人を見たらわかると思うが、もうあんな可愛くない息子はいらないと思ったらしい。後、兄達と違って体格が華奢だったから余計に騎士になるのを反対されていたし」
「あぁ~、なるほど」
納得した。今のエドは鍛えているから華奢だとは思わないが、昔はそうではなかったのだろう。あれをすぐ側で見ていたら騎士にならないでほしいと願うのは当然か。




