モブ、顔合わせをする。
連続更新です。
順調にストックが溜まりつつあるので。
題名でわかるかもしれませんが、お約束のあれです。
筋肉痛も治り、完全復活した俺がまず最初にしたのはオズを正座させて怒ることだ。滅多に怒らない俺が怒ったことで流石のあいつも反省したようだった。
それからはいつもの毎日で平和だったのだ。そう、アリスからあの言葉を聞くまでは。
「はぁ~」
友人と時間が合ったので恒例の飲み会を開いていたのだが、今の俺のテンションはダダ下がりであった。つい数時間前まではいつもの日常だったのに何でこうなったのか、問いただしたい。
「どうしたのさ、ため息なんか吐いて」
チビチビとお酒を飲んでいたオズの眉はしかめられ、うっとしいと顔に書かれていた。気持ちはわかる。折角の飲み会でため息吐かれたら機嫌が悪くなるよね。
「何かあったのか?」
エドのその言葉に俺は数時間前にアリスから告げられた言葉を言った。
「つまり、顔合わせってこと?」
そう、アリスのご両親との顔合わせである。お約束のイベントがやって来た。向こうから是非俺に会いたいと。何でだ。何言われるんだ、俺。もう今から恐怖である。マジで胃が痛い。
「まぁ、付き合っている相手がいるなら会いたいと思うのは自然のことじゃないか?」
そうだね。エドの言う通りだけどね、問題はそこじゃない。
「相手は公爵だぞ?もう今から胃がキリキリと痛むんだけど」
俺は胃の辺りを押さえ、明日医務室に胃薬を貰いに行こうと決めた。
「うわぁ~、大変だね」
他人事のようににっこり笑ったオズに殺意が芽生える。こいつ、本当に反省したのか!?
「俺は平民、向こうは貴族。これって絶対にお前程度が娘と付き合えると思っているのかと言われるんだよ!絶対にそうだ。やっぱり、今まで付き合えてたのって奇跡なんだ。夢だったに違いないんだよ!」
絶対にいいものじゃないに決まってる。今までアリスの両親のことが頭を過らなかった訳ではないが、見ない振りをしていたのは認める。認めるけどさ、まだちょっとだけ夢を見させてくれてもいいんじゃないかな!?
「アルトがバグってる」
「まぁ、気持ちはわかるが、いずれ娘さんをくださいって言うことはわかっていただろう」
「いや、全く考えてなかった」
その言葉にエドは呆れた顔をした。わかってるよ。身分が違いすぎて結婚まで具体的に思うことはなかったんだ。いや、絶対に無理だって思うじゃん!?オズみたいに魔力量が多かったら話は別だけど。国にとって替えの利かない重要な人材とかじゃないし、俺は普通で平凡な人間だもん。
「短い人生だったな」
幸せな時間はあっという間だったと黄昏る。
「何で人生終わらせるのさ。まだそうと決まった訳じゃないでしょ」
「そうだな」
そうだ。そこで諦めたら試合は終了だ。そう、どこかの先生が言ってた。
「もっとポジティブに考えなよ。悲観しすぎ」
「うん、それもそうだな」
オズの言う通りにポジティブに、ポジティブに考え……。いや、何をどうやったらポジティブに考えられるんだ!俺は頭を抱え、テーブルに頭を打ち付けた。
「全然響いてないんだけど」
ムスッとしたオズの顔を苦悩していた俺は知る由もなく、
「放っておいた方が良さそうだな」
またエドから処置なしと匙を投げられたことも知らなかった。
そして、運命の日がやって来ました。もう胃が痛い。胃薬を飲んだのに全然効いてないんだけど。キリキリと痛む胃を擦り、魔王城に向かう羽目になった村人の心持ちでお邪魔したのだが。
「いらっしゃい。アリスから貴方の話を聞いていて会いたかったのよ」
「君とは色々と話してみたかったんだ。本当に今日が楽しみでね」
歓迎ムードにこれは何かの罠かと勘繰る。こう、油断させて一撃を見舞う的な?
緊張のあまり、思考がバグっていることに気づいてない俺の脳内で公爵の言った言葉が再生される。そう、こう言っていたじゃないか。色々と話してみたかったんだ、と。これはそういうことか!?
顔には動揺を出さずににこやかな笑みを浮かべている俺の心の中はそれはもう嵐のように吹き荒れていた。お前に娘はやらんということなのか!?
嫌だ。もう帰りたい。お家に帰りたいと公爵邸に来たばかりなのに思う俺であった。
立派な応接室に通されてお茶が出て来たが、飲めない。いや、緊張のあまり飲めそうにないのが正しい。飲むのが礼儀だと知ってるよ?でも、カップを持ったら体が震えてるのがバレそうなんだ!仕方ないだろう!?手がブルブルと震えてる状態でお茶は飲めない。
ちょっと落ち着こうか、俺。そう、一旦深呼吸をしよう。いつも通りに平静でクールな俺になるんだ!大丈夫!俺ならできるさ!いつだって困難を乗り越えた俺なら!
キャラ崩壊しているが、この時の俺はこれが精一杯だった。
「アルト君がいかに優秀か、娘から散々聞かせられてね」
アリスー!本当に何言ったんだ!?
俺の顔が更に引きつったのがわかった。乾いた笑みしか浮かべられない。
「お父様!」
恥ずかし気な顔をしたアリスに思わず俺の心が和む。ここでの唯一の癒しだ。
「惚気話を聞かされていたものだから是非、貴方とお話してみたかったのよ」
品のいい妙齢の女性はアリスの母親だとわかるぐらいに面影があった。未来のアリスの姿はこんな感じかと俺はふと思った。うん?今、サラッと流したけど、何か引っかかったような……?
うん?惚気話?
ギギギと油が差されてないブリキ人形のようにアリスの方を見る。
「いえ、その、惚気話なんてしてません!ただそう、お母様に聞かれたから答えただけで惚気たつもりはありませんからね!」
顔を真っ赤にしたアリスは必死に否定したが、その顔では全然説得力がなかった。つまり、無意識に惚気てたってことか。はははは、やばい。色んな意味で死にそうだ。やっぱり、俺はここで死ぬのかもしれない。
それからは和やかな空気で話が始まり、俺の予想とは違う展開にこれは罠だろうかと疑い始めていた。気を抜いた瞬間にやられるに違いない。そうだ、ここは戦場である。
「今回のスタンピードでは活躍したと聞いたよ」
活躍!?ただ偵察をして、避難誘導しただけですけど!?
「いえ、そんな活躍なんて」
どこの誰に聞いたんだ、そんな話!?マジで誰が言ったんだ。後で調べてそいつを締め上げようと俺は決意する。それよりも俺への評価が思ったよりも高いことに更に胃が痛み出した。もう無理。ここから逃げたい。帰りたい。
「君にはお礼を言いたいと思っていたんだ」
これは罠か?罠なのか!?疑心暗鬼に陥っていた俺に最早、冷静さはなかった。
「学園で娘を助けてくれてありがとう」
公爵に頭を下げられたことで一瞬俺の頭の中は真っ白になった。
「いえ、そんな頭を上げてください!」
俺、平民。貴方、貴族。身分、違う。あまりの驚愕に心の中が片言になった。
「ここでは公爵としてではなく、アリスの父親としてお礼を言いたい。本当にありがとう。君とのことを話すアリスはとても楽しそうでね。これからも娘のことをよろしく頼むよ」
はい?今、何て言った?ちょっと冷静になろうか、俺。確かこう聞こえたぞ。よろしく頼むって。あれ?幻聴かな?
「こちらこそよろしくお願いします」
反射的に返すも頭の中はパニック状態だった。えっ?何これ。夢か!?夢なのか!?
自分の太腿をつねるも痛みがある。そう、痛みがあるってことはこれ、現実か!?
この後のことはあまりの衝撃に意識がぼんやりとしていたため、あまり覚えてないが、無事に自室に帰って来たことから多分、何も問題なく終わったのだろうと思う。アリスにどんな感じだったかさりげなく聞こう。何かやらかしてないよな!?




