モブ、ぶっ倒れて寝込む。
連続更新です。
その後の話になります。
陛下の執務室で俺は今、陛下と宰相の他に陛下の側近達と向かい合って座っていた。実際の数は見えているよりも多いだろうが。陛下には影がいるだろうから見えなくてもどこかで聞いているだろう。
「報告します。森の中で実験を繰り返した痕跡が発見されました。偽装されてはいましたが、恐らく今回のスタンピードは人為的なものかと思われます」
今回のことに疑問を抱いていた俺は部下達に森の中を調べるように言った。案の定、予想通りの痕跡が発見されてしまったが。できればあってほしくはなかった。
「そうか」
陛下はかなり疲れた顔をしていた。ここ最近は学園の騒動の後始末に奔走してようやく終わったと思ったら、今回のスタンピードが起きたのだ。陛下の心痛が増えたであろう。
「アルフリード、こちらもお前に伝えておくべきことがある」
陛下は頭痛がするのか、額を手で押さえてため息を吐いた。
「例の娘がいなくなった」
「はっ?」
陛下の前で不敬だとわかっていたが、その情報が与えた衝撃は強かった。だって、あまりにもタイミングが良すぎた。それはつまり、どちらも同一人物の犯行だということだ。
「どこがやったなどあそこ以外にあり得ないが、一応念のために違う線も探ってくれ」
こんな大きなことをできるところなど最早限られている。そしてそれを実行しそうなところとなれば一つしかいない。ここまできたら偶然ではないだろう。俺も陛下と同じ意見だ。周りにいる陛下の側近達もそうだろう。だが、そうじゃない可能性を限りなくゼロにしろと陛下は言いたいのだとわかった。表立って抗議するにも相手は強大な国家だ。そう、ここで想定する仮想敵は隣国であるラーヴェだ。
「あぁ~、情けない」
まさかあの後、ぶっ倒れるとは思ってもみなかった。自分が思っていた以上に体は限界だったのだろう。見誤ったな~と自室のベットの上で思う。体の節々は痛く、これは完璧に筋肉痛である。誰がどう見ても。故に治癒魔法は施されず、自然治癒となったため、医務室から放り出され、自室のベットに放り込まれた。怪我人ではないからか扱いが荒かったように思えるのは気のせいだろうか。いや、多分気のせいではないな。おまけに団長からは豪快に笑われ、バシバシと遠慮なく体を叩かれたせいで筋肉痛の体が悲鳴を上げたし、副団長からは追加で訓練が必要ですねと笑顔で言われてもう今からでも復帰した時が怖くて仕方ない。エドやオズは見舞いに来てくれたが、真逆と言っていい程にその反応に差があった。エドが一般的な見舞い客なら、オズはどうだったのか。戦闘にも参加してないのにぶっ倒れるなんてと笑ってきやがったのだ!俺の殺意のボルテージが更に数段上がった。今、思い出してもムカつく。完全回復した時を覚えておけよと拳を震わせて決意した。流石の俺でも怒る時は怒るのだ。
「暇だな~」
昼間は当然のことだが、皆仕事で誰もここには来ない。団員の宿舎だから夜勤で寝ている人しかいないため、物音もなく静かだ。
「読書でもするか?いや、魔法式でも書くか」
ベットから起き上がり、部屋にある机まで向かおうとした時だった。コンコンとノックの音がし、俺はどうぞと深く考えずに返事した。てっきり同僚が見舞いに来たのだろうと思っていたのだ。
「アリスです。見舞いに来ました」
ドアから現れたのはまさかのアリスだった。
「えっ?」
ここは男子の宿舎で、女性が入るなんてことは滅多にない。ないのだが、何でアリスがここにいるのか。スタンピードが起こってから会っていなかったために何か久し振りに会う気がする。いや、待て。俺っていつ風呂に入ったっけ?筋肉痛の体であるため、毎日入る程に風呂好きな俺は泣く泣く体を拭くだけにしてなかったか?
「怪我はされてないと聞いてますが、大丈夫ですか?」
「はい!大丈夫です」
思わず上擦った声が出て俺は更に焦り出す。もう一度出直して来てもらうことって可能なんだろうか?いや、時間を作って会いに来たんだぞ。言えるはずがない。でも、臭うなとか思われたら精神的に死ぬ!
「ただの筋肉痛でして。お恥ずかしい」
あはははと笑うも自分でも大分テンションがおかしいことは自覚している。いや、何だその口調。もっと平静にクールな感じでいけないのか、俺。
「あっ、これフルーツと、暇だろうと思って本を数冊持って来ました」
この気遣い、オズに見習わせたい。あいつ、手土産なしで来たんだぞ。いや、見舞いに来るだけでも凄いことなんだが。いやいや、違うぞ俺。これが普通、スタンダード。エドに団長、副団長だってちゃんと持って来ていただろう。
「私のおすすめなんですけど、アルトもきっと気に入ると思って」
アリスが持って来た本を受け取り、題名に目を通す。確かに俺好みだ。アリスとは本の好みが近いから期待できるな。
「ありがとうございます。読ませてもらいますね」
読むのが楽しみだな。自然と顔に笑みが浮かぶ。
「フルーツ食べますか?」
アリスは持って来たフルーツの盛り合わせに手を伸ばしながら問いかけて来たが、俺はその意味を深く考えずに頷いていた。
「えっ、はい。頂きます」
そして俺はアリスがナイフでフルーツの皮を切る姿をビクビクして見ていた。だって、手付きが怖い。お願いだから指を切り落とさないでくれと思う程度には危ない。生粋のお嬢様育ちのアリスはこういうことに慣れてないのだろう。サンドイッチを作るのとフルーツの皮を切るのでは難易度が全然違う。心臓に悪すぎて見てられなくなった俺は思わず口を出した。
その数分後、綺麗に切られたフルーツがいくつか出来上がっていた。
「お上手ですね」
感心した様子のアリスが見ているのは俺の手元である。こういうことには慣れているため、お手の物だ。
「あははは、大したことじゃないですよ」
「でも、私全然できませんでしたし」
落ち込んだアリスに言葉のチョイスを間違えたことを悟る。いや、そんなことはないと慰めようとする前に決意に満ちたアリスが顔を上げた。
「練習してもっと上手くできるようにしますね!」
「へっ?」
練習?あの危なっかしいのをまたやるの!?心臓に悪いナイフ捌きをか!?それはダメだ!
「もし、またアルトが倒れた時にできるように」
頑張ります!と笑顔で言われたらもう何も言えなかった。そうだ、俺が倒れなければいいんだ。もっと体を鍛え直そうと決意したのだった。




