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モブ、スタンピートに立ち向かう。

前話が前編なら、今話は中編です。

後編は近い内に投稿します。

「エド!」

 その声に振り返った俺はようやく魔術師の派遣がされたかと安堵した。これで少しは安心できる状況へと変わったと無意識に息を吐いた。

「オズか」

 友人の一人であるオズがここに到着したようだ。あの情報が魔術師の派遣を決定付けたのだろう。

「今の現状は聞いた。それでアルトはどこにいるの?先遣隊として派遣されたと聞いたのに、どこにも見当たらないんだけど」

 強張った顔で問いかけて来たオズはもうアルトが今どこにいるのか察しているのだろう。

「オズ。アルトはここにはいない。避難誘導後、村で最終確認をしているところまでは確認できている」

「その後は!?」

 必死な顔のオズに俺は頭を横に振るしかない。それ以上の情報を俺は持っていないし、他の人間もそうだろう。

「今、あいつがどこでどうしているのか全くわかってない」

「嘘だ!」

 信じたくないと思いから叫んだオズは身を翻した。

「どこに行くつもりだ」

 オズが何を思って、どう動くつもりかわかっていた。自分だって同じことを思っている。だけど、今の状況が、立場がそれを許されない。

「友人の安否を確かめに行くんだよ」

 当たり前じゃないかと言ったオズを俺は引き留める。例え、実力行使で止めることになっても。

「ダメだ。お前は今、自由に動ける立場じゃない」

「エドは心配じゃないの!?」

 ここまで必死な顔をしたオズは初めて見たなと思いながらも俺は冷静に声をかける。

「心配だ。だが、ここで無暗に動けばどうなるかわかっているはずだ。それをあいつが望むと思うか?」

 自分のせいで被害が拡大したなんてことをあいつは絶対に望まないだろう。それをオズも理解しているはず。だから、まだここに留まっている。まだ状況を冷静に判断できている。

「何で……」

 オズは俯いてどうしようもない現状に拳を強く握り込んだ。

「タイミングが悪かったとしか言えないな」

 ただそれだけに尽きる。

 その時だった。鳥の形をした式神が舞い降りて来たのは。それは一度だけ見たことがある。あの騒動の中で呼んだ式神、アルトはクラマと呼んでいた真っ黒な鳥がそこにいた。

「えっ……?アルトのだ!」

 すぐさま反応したオズを見た鳥はその腕に降り立ち、驚くべき情報を持って来た。


「鞍馬はちゃんと行ったな」

 式神である鳥とは魔力のパスが繋がっている。向こうに情報が届いたことを確認した俺はこれからどうするか考える。まず、真っ正面から立ち向かうのは論外だ。普通に勝てる訳がない。メイジがいないなら何とかできたかもしれないが、残念ながら索敵した際に確認した限りではこちらを追う部隊にメイジはいた。

「羽虫のような俺にご苦労なことで」

 忌々しいことに向こうはこちらを軽んじてはくれなかった。いや、例え羽虫でも完膚なきまでに叩き潰すつもりなのかもしれない。距離はだんだんとこちらに近づきつつある。向こうはこちらの居場所を把握しているようだ。人間より身体能力も五感も鋭いのがモンスターだ。ゴブリンとは言え、侮れない。

「どうする。いや、それよりも向こうはどうなっているのか。魔術師の派遣はどうなった?方針は変更してないのか」

 判断するには情報が少ない。向こうと足並みを揃えることは考えず、こちらだけで対処した方がいいのかもしれない。

 その時だった。

「アルト!聞こえてる!?」

 いきなりの大音量が森に響き渡り、俺はそれはもうびっくりした。しかも、よく知っている友人の声だ。

「何だ?」

 この声の主がオズということは魔術師が派遣されたのかと一安心した俺だったが、上を見上げて更に驚く。オズが森の上空に浮いていたからだ。

「は?」

 人って魔法で飛べるのかと場違いな感想が浮かぶ。そんなことが可能なんだなと非現実的な光景に思考が横に逸れた。

「ぶっ飛ばすから避けてね~!」

 はて?ぶっ飛ばす?避ける?オズの言っている意味がわからない。いや、まさかそんな……。

 ある憶測が浮かぶもないない、あり得ないと否定した俺は上空に浮かぶ巨大な魔法陣を見て思わず顔が引きつった。魔法陣の構成を理解してしまった俺は唖然とする。

「嘘だろ?いや、マジでか!?そんな無茶苦茶な!?」

 まさかここら一帯を強大な魔法を一掃するなんてそんなバカな……と思いたかったが、現実はいつも非情である。そのまさかが実行されようとしていた。

「はぁ!?マジでか!?本当ふざけんなよ!お前、マジで生き残ったら覚えておけよ!」

 俺は魔法陣から射程を推測し、あらゆる魔法を行使して射程圏外へと必死に向かった。強力な魔法で膨れ上がった数を減らすのはわかる。作戦として正しい。正しいが、ここに俺がいることを知ってもぶっ飛ばそうとする精神がおかしいだろう!?

「あぁー、もう!あいつ、マジで覚えとけよ!」

 叫ばなきゃやってられない。というか、さっきの命の危険を感じてビビった視線の比ではない。死ぬ死ぬ死ぬー!マジで死ぬわ!と本気で命の危険を感じた俺は必死に走った。ビンビンに危険信号が鳴っている。まさかゴブリンではなく、味方に殺されそうになるとは人生ってわからないものであるマル。

 思考がバグったアルトはもう人生でこれ以上ないくらいに必死に走り、魔法が発射される寸前に何とか射程圏外へと踊り出た。


「はぁ、はぁ、はぁ……。本当に……、あり得、ない、だろう。味方、ごと、撃つ、奴が、あるか……!本当……、バカじゃ、ない、のか!?もう……、死ぬかと、思ったし……。絶対、寿命が、縮んだ……」

 過呼吸になる寸前の呼吸のせいで言葉が途切れ途切れになる。ようやく呼吸が落ち着いた俺は大の字の体に倒れ込んでいた体を起こした。

「あぁ~、もう無理。もう立てない。疲労困憊」

 後ろに手を付いた俺は起こした上半身を傾け、上を向く。思わず片言になるぐらいにはしんどい。空が青いな~とぼんやりと眺めていたが、残り少ない魔力で自分を追って来ていた部隊がもういないことを再度確認した。ついでに大群の方も探る。

「結構、数が減っているな。これだけの数なら今いる冒険者と騎士団でどうにかなるか?」

 気になるのはあの視線の奴だ。嫌な予感がする。

「とは言え、ここから先はもう俺ではどうにもできないしな」

 偵察に先程の逃走で体の疲労はピークに達していた。魔力もさっきのでもうほぼなくなった。もう限界だ。

「これ、明日筋肉痛になるな」

 明日のことを思い、憂鬱になった。


 ちょうどその頃、特大の魔法を撃ったことですっきりした顔のオズが空中から地面へと降り立ったのを見た俺は気になったことを問いかけた。

「アルトは?」

「大丈夫。ちゃんと当たらないように勿論避けたし、アルトも射程圏外へと逃げてたから問題ないよ」

 あの鳥のパスを辿り、アルトの居場所を把握したオズは侵攻して来た大群の数を強力な魔法で減らす作戦を立案した。アルトの居場所がわかれば当たらないようにできると豪語したオズに不安を覚えないでもなかったが、あの大群であれば、オズの作戦に反対など当然起きるはずがなかった。ただ当たらないようにするという言葉は俺以外にもあまり信用されていなかったが。

「流石アルト。魔法陣を見てすぐに反応したよ」

 我が事のように自慢するオズは後でアルトから怒られるだろうと思う。俺がアルトと同じ立場なら激怒する。作戦中のため、言わないが、流石のアルトもキレるに違いない。

「ここからは冒険者の出番だな」

「本隊はまだ到着してないから仕方ないよ。本当にどこまで時間かけるんだろうね」

 嘲笑ったオズの顔は整っているが故に迫力があった。気持ちはわかるが、あまり表に出さないでほしい。

 そう、オズの言う通り、肝心の騎士団はまだ到着してなかった。編成に時間がかかっているらしいが、どうせろくな理由じゃないだろう。誰が功績を得るかで争っているに違いない。こちらは民の命と生活がかかっているのに面倒なことだ。


 冒険者の健闘により、状況は拮抗していた。だが、今回のスタンピードは前回よりも最悪だった。それは歴史の中でも稀に生まれる存在。イレギュラーなモンスターが生まれてしまっていた。ユニーク個体の名前持ち(ネームド)だけではない。それは能力(アビリティ)持ちだったのだ。そう、それは災厄となるまでに時間はかからない。おまけに王都の近くで起きたことで早急に対応しなければいけないものだったが、その事実は現場にいる者も王宮の人間も知らない。アルトの嫌な予感は当たっていたのだ。そして、本来なら国に大きなダメージを与えるはずだった出来事はそうはならずに終わる。中央騎士団の団長アルフリード自らが来たことによって。

次でスタンピード編は終わります。

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― 新着の感想 ―
[一言] エドの活躍があるかと思いきや、オズの活躍しかも、アルトがちゃんと逃げると信じて、大魔法打つなんて、思わぬ展開でした。アルトは、逃げるのに魔法使ってしまったので、次回は活躍出来ませんね。でも、…
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