モブ、スタンピードに備える。
ここ数日で書き上げたので更新します。
この波に乗るべきという声に従っただけです。
いや、思った以上の反響に執筆意欲が上がり、勢いで書き上げた訳ではないですよ?
後、先に謝っておきます。
何これ。別人が書いたの?と思われるかもしれませんが、ちゃんと作者が書きました。
4年の年月はとても長いってことですよ。
まず、スタンピードが起こった場合にすることは冒険者ギルドと情報を共有することだ。モンスター討伐のスペシャリストである冒険者の方が色々と情報を持っているからだ。俺達が着く前に準備を用意し始めているだろうから情報を共有し、方針を話し合わなければならない。どこから発生し、どれだけの規模で、レアやユニーク個体の有無、またどこに向かうのか、その行き先次第では避難を促さなければならない。それらの話し合いに立ち会い、話が終わる頃には体に疲労を感じた。話し合いだけでかなり疲れる。大まかな方針が決まれば、俺達のような下っ端は動き出し、先遣隊の隊長はギルドマスターと文官と更に話を詰める。
今回のスタンピートでの一番の問題は王都に程近い場所で発生したことだ。だから、騎士団にすぐ情報が届き、動いたとも言える。特に十年前に起こったスタンピードの例もあるため、街の空気もピリピリしていた。
「とりあえず、どんな感じか見て来るか」
隊長から偵察を任された俺は森に向かった。
騎士団と冒険者ギルドは足並みは揃えるとは言え、それぞれで対処することになる。騎士と冒険者はその性質が違うため、同じようには動けない。また冒険者ギルドの情報を信用していないという訳ではなく、組織が違えば常識や価値観が違う。つまり重要視する情報も変わってくるのだ。なので騎士団側でも偵察し、把握する必要がある。そこで白羽の矢が立ったのが元冒険者の俺である。先遣隊の中では俺が適任であったため、反論もできず、行く羽目になった。
「見つけた」
俺の視線の先に今回のスタンピードで発生したゴブリンだろう集団がいる。ゴブリンは俺の存在には気づいてない。魔法で存在感を薄くし、また風下にいるため、見つけるのも困難だろう。それでも油断はできないが。
「集団で動いているとなれば、リーダーがいるのか?」
集団を指揮する者がいるかどうかで動きが変わるため、討伐の作戦に大きな影響がある。
「あれ、偵察っぽいしな~」
剣士と弓士、それと魔法使いっぽいゴブリン。まるで冒険者パーティーのようなメンバーだ。
「ゴブリンメイジがいるとなれば話が変わるぞ。レアかユニーク個体がいる可能性も高くなる」
ヒーラーもいるのだろうか?回復役は今回見つけた中にはいなかったが、拠点にいるかもしれない。また上位種の有無も確認した方がいいだろう。メイジがいるなら他のもいる可能性が高い。
見つからないようにかなり慎重にゴブリンの拠点に向かう。見つかれば俺程度の実力では終わる。数体なら何とかできても囲まれて応援を呼ばれたら流石に死ぬ。
そしてようやく疲労困憊になりながらもゴブリンの拠点を見つけた俺は驚愕した。
「冒険者ギルドで聞いた話と違うぞ」
嘘を吐いた訳でも間違えた訳でもないだろう。ただ最新の情報じゃなかっただけで。
「思ったよりスピードが速い。上位種がいるのは確定。ジェネラルか、もしくはキングか?」
十年前のスタンピードを思い出す。あの時はキングがいた。それもユニーク個体の名前持ちという災厄が。あの時の恐怖を、後悔を思い出した俺の体は震えていた。
「まだだ。まだ何とかなる。侵攻は開始してないのだから。とりあえず、この情報を持ち帰らないと」
そうして俺は元来た道を行きよりも更に慎重に引き返した。
持ち帰った情報に驚愕した隊長やギルドマスターを横目に俺は休むことを伝えて冒険者ギルドの仮眠室にて死んだように寝た。やはり、自分で思っていたよりも気を張っていたのだろう。一休みし、回復した俺は隊長の所に行った。
「ここら一帯を避難させるとなれば時間との戦いですね」
「こちらの想定以上の規模であることが確認されたからな。冒険者ギルド側も確認が取れた。偵察部隊に死者はいないそうだが、負傷者はいるそうだ」
そう言った隊長は呆れた顔で俺を見た。
「何故、呆れた顔で俺を見るんですか?」
「無傷で帰って来たお前に呆れてるんだよ」
解せぬ。無傷ならいいじゃないか。
「だから気に入られるんだな」
誰にだろうか?隊長の呟きの意味がよくわからなかった俺は隊長に聞くも答えてもらえず、避難誘導を手伝いに行けと言われて俺は馬で村や町に向かった。上官の命令は絶対なのだ。
友人であるアルトがたった一人で偵察に行き、持ち帰った情報はその場にいた者に例の最悪を思い起させた。十年前のスタンピードである。あれは災厄と言っても過言ではなかった。
文官である俺は王宮との連絡を密に取り合っていたため、その空気を肌で感じていた。アルトの情報では上位種がいることは確定だろうと。ジェネラルかキングか。想定よりも規模の拡大が早い。もしレアやユニークがいるなら魔術師の派遣が必須である。
十年前の事件当時は子供だったため、又聞きでしか知らない。ただその被害は凄まじかったとだけ子供ながらに覚えている。何しろ、国にとってもかなりの大ダメージを負った。復興は終わっても、目に見えない傷はまだ癒えてないのだと今回のことでよくわかった。彼らの記憶に強く刻まれているのを見るとまだ過去ではなく、最近の出来事なのだ。
アルトは大丈夫だろうか。あいつはあの事件の数少ない生き残りである。スタンピードの恐怖を、そしてその脅威を身を持って知っている。在学中に冒険者をして学費を払っていたあいつに尋ねたことがある。その時に両親はスタンピードで亡くなって孤児であると知った。俺は初めてその事件の当事者に会った。当時の話を聞いてはいたが、俺は遠い世界のように思っていた。確かに生活に影響はあったが、知り合いで亡くなった人がいなかったからだ。それがどれだけの被害を、また傷を残したのかを俺は全然わかっていなかった。全てを失ってもそこから這い上がる人というのはこんなにも美しいのだとアルトを見て思った。アルトの話を聞いた俺は漠然と安定した職業である文官に何となくなろうと思っていた自分が恥ずかしくなった。俺はこの時、ようやく本気で文官になろうと決意した。
町や村での避難誘導では多少の混乱はあったが、素早く確実に全員が避難を終えた。最後の村で俺はちゃんと村人が避難できたかの最終確認をしていた時だった。それはまるで地震のようだった。元日本人である俺には馴染み深いもの。だが、今の俺は地震を経験したことはなかったはずだ。そしてようやく気付く。これは地震ではない。地響きだと。
そう認識した俺はすぐさま索敵の魔法を行使した。向こうに居場所がバレるとか今はどうでも良かった。それよりも現状把握が大事だ。村人の避難が終えていたのが幸いだった。
「動き出したのか」
大群が侵攻を開始したのが手に取るようにわかる。そして、索敵の魔法越しにこちらへと視線が向けられたのを肌で感じた俺はぞっと悪寒が走った。こちらを勘づかれたのがわかった俺は急いでその場から離れるも全然安心できなかった。
やばい、やばい、やばい!
頭の中で逃走経路を考えつつ、俺はこれまでの人生の中でこれ以上ない程に焦っていた。
こちらが一人だと向こうも把握したはず。なら放っておかれるか?ただ、もしもこちらへと一部隊を派遣されたら俺一人では難しいかもしれない。最悪の予想が頭を過った。大丈夫だろうと楽観も過信もできない。敵を引き連れて安易に仲間と合流はできない。まず、俺のことを追いかけている敵の有無、また数と編成を把握しないといけない。でも、さっきの視線が索敵の魔法を行使するのを躊躇わせる。あの視線はやばい奴だと本能的に感じた。俺程度なら歯牙にもかけないだろうが、それでも体が震えてしまう。逃げろと、立ち向かうなと本能が言っているのを俺は近くにあった木に拳を叩き付けることで無理矢理抑えつけた。
「俺は騎士だ。あの悲劇を繰り返さないために今まで頑張ってきたんだろ。逃げるな、立ち向かえ」
実力が足りないなんていつものことだ。それをどうにかする方法を考えろ。これまでと同じことだ。そうだ、考えろ。考え続けろ。思考を止めるな!
いつの間にか体の震えが止まっていた。そして一度、深呼吸する。いつもの自分だと冷静に自覚した俺は侵攻を開始したことと今の自分の状態を仲間の元へと情報を使い魔を召喚して送った。そして索敵の魔法を行使。一部隊がこちらに向かっている。それを知覚した俺は冷静に動き出した。




