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第四話 船を強化しよう

ストック尽き。

 ほどなくして、ガチャン、という音が聞こえたかと思うと、「料金はクレジットから引き落としておくからな~」というさっきの男の声と共に、部屋に静寂が下りた。

 完全に静かになってみると、さっきまでは扉の向こうから喧騒が聞こえてきていたという事実がいまさらになって分かる。

 それさえもなくなったこの船は、完全な静寂。

 まさに、宇宙に揺蕩う――って、ほんとに宇宙にいるんだった。


 というわけで、やることもなくなった俺は仕方なく、さっき途中で打ち切られていたパソコンの中の個人用データベースを調べてみることにした。

 本当は....今の自分の体について調べたほうがいいんだろうけど、自分で冷静になったと思ってても実は冷静になれてないことって結構ある。そしてたぶん、今がその時だ。

 今確認すると、確実に狂乱する自信がある。今日彼女に振られたんだけど、結局童貞だったしね、俺。女性の裸も見たことがないのに自分が女性になるのはちと難易度が高すぎる。


 というわけで、パソコンの前に座る。


 データベースを開くと、メールが入っていた。タッチして、それを開く。

 もし日記にも記されていない俺の知らない人からのメールだったらたまったもんじゃないぞ....なんて震えながら開けると(既読機能がないことを祈ろう)、そもそもメールは無名だった。名前を入れるらしき場所はあるから、たぶん非通知でメールしたんだろう。メールに非通知があるのかは知らんが。


 そこには簡潔に一言。


『困ったら言え。また雇われてやらんでも無い。一同より』


 とだけ。

 一瞬頭の中に「?」マークを浮かべるが....意味を悟った瞬間、泣きそうになった。割とマジで。


「な、なんていい人らなんや....」


 普段使わないエセ関西弁が出るくらいには感動した。

 わけも分からず宇宙に放り出されて傷心で小心な俺の心に、ぐっと来た。その優しさが心に染みる。

 何あのごつい男たち、めっちゃいい人なんだけど。なんだけど!

 また、困ったことがあれば頼ろう。正直、日記によれば船は一人でも扱えなくはないと書いてあったけど、それはノウハウがある人間が乗れば、ということだ。いくらこの体の人にノウハウがあっても、俺自身は宇宙船を乗り回すことに関しては全く自信がない。というかゲームでしかやったことがない。正直無理。なので、操縦はあの男たちに任せる....ことにしよう。迷惑にならない程度に。


 というか、なんで仮にも船長の位である俺にお付きの部下が一人もいないんだよ!

 いや、それも日記に書いてあったから分かるんだけどさ....。

 どうもこの軍、自分の部下は自分で雇え、がスタンスらしい。つまり、自分の船に乗せる乗組員なら軍の外部から引っ張ってきてもいいということだ。今回の俺が、それにあたる。

 それでも一定以上の階級になってくると、守秘義務が課せられる任務も多くなってくるので、正式に許可された部下――基本的には下級三等兵から上級上等兵までを部下につけることになっている。


 例外的に、外部から雇った人と仲良くなった時とかには許可がもらえるらしい。

 やっぱりそれには相応の働きがないと駄目みたいだけど。


 おっと、今はそんなことを考えている場合じゃなかったか。


 メールに『ありがとうございます!次の機会があれば、よろしくお願いします!』と返信して、ウィンドウをタップで閉じる。....っていうかこれ、使わないときはキーボード閉じたりできないの?文明の利器も思ったより大したことな――


 ばしゅっ!って音が聞こえてきそうなくらい高速で消えた。

 俺の思考を呼んで、対抗してきた!?と思ったけど、たぶん普通に思考命令によるものだと思う。そういう系統の研究も進められてきてたけど....かぶるやつもなしにできるのか。

 うん、ただそう言う機能があるだけだよね....?


 キーボードがなくなったパソコン改めタブレットの右上に表示された、ヘルプマークを押した。


 それによると、ここでは任務を達成したり、民間からの依頼を達成することによって得られるクレジット、と呼ばれるものを消費して、簡単に船の修理や装備の増強などができるらしい。

 他にも、クレジットを使用して休暇を買ったり、クレジットを使用して美味しいご飯を食べたり、クレジットを使用して家を買ったり、クレジットを使用して船を買ったり――


 とにかく、クレジットとは軍内部で使用される仮想通貨らしかった。

 そんな便利な仮想通貨を船の強化、つまりは仕事に当てるやつなんているの?って思ったが、よく考えれば軍人なんて下手をすればすぐに死んじゃう職業だし、船が立派になれば受けられる任務や依頼も増えてクレジットがもっともらえるという好循環ジャン。

 むしろ船の強化に当てないやつっているの?って感じだった。


 まあ、そこまで聞いてこの個人用データベースを何に使うのかは大体わかったんだけど――


「ゲームかよ!?」


 魂からの叫びであったという。






 そのあまりのゲームっぽいシステムに絶叫を上げつつも、何とか自分を律する。

 うん、そりゃあ企業によって業務形態が違うのはままあることだし、むしろ時間軸がすっごく違うんだからこれくらいの違いはあって然るべきだし、むしろこれが人類がたどり着いた効率の最終形態なのかもしれない....って納得できるかぁ!!


 まあ、納得できなくてもこのシステムに従わないと始まらないんですけどね。

 宇宙連合軍がどういった思想かは分からないが、下っ端なのに調子に乗って軍上層部に「ゲームっぽいんでやめてください」って掛け合う勇気は俺にはない。


 

 取り敢えずは、自分の持ちクレジットを確認する。どうやらクレジットは今回の任務の報酬をあわせて全部で3000ちょいある。

 わざわざ全部使い果たすこともないだろうし、余裕を見て2500くらいあるとして考えよう。

 買える品を見てみるが....やはり、軍需品や艦の装備なんかは高いようだ。

 最高級ステーキセット一食が5クレジットなのに対して、一番安い装備である『1J規格対空レーザー砲』が500クレジットである。

 なんともまあ....そりゃあ、兵器がステーキと同じ値段だったらそれもそれで泣くけど。

 いち早く装備を整えて安全を確保したい俺といたしましては、是非とも兵器を安くして欲しいんだけども。


 無理か。


 それにしても、たくさんの種類の武器があるな....。

 『100J規格艦対艦レーザー砲』、『乱数軌道炸裂式魚雷』、『散布式金属劣化ガス』、『個人用レーザーライフル』、果ては『試作展開型転移式集束レーザー』とか言う明らかヤバげな武器まで売ってある。

 試作型なんて軍用にしていいのかよと思わないでもないが、実際売ってるしいいんだろう。

 というか、欲しいな、あれ。試作展開型転移式集約レーザー。名前的に強そう。

 値段も安い。

 え、何々.....『本製品によるいかなる事故につきましても、本社は責任を負いかねます』....ま、まあ最終兵器として一つくらい買ってもイインジャナイカナ?

 

 うん、検討しとこう。


 つーか、種類が多すぎる。

 あまりに。ええあまりに。

 というわけで、まずは自分の艦に見合った装備を買おう。

 それには、現在の艦の状態を見なければいけない。


 そう思い、自分の艦の状態をパソコンから見てみる。

 このパソコン、どうやら自分の艦と接続して艦の状態を見ることができるらしい。というわけで、さっそく接続して確認する。

 接続には声紋認証を求められたが――確かに、こういうのはパスワードなんかよりもよっぽど安心できるけど、なんか罪悪感。実際問題、別人である俺にすぱすぱ抜かれてるしね、セキュリティ。別人なのは中身だけだけど。

 で、艦の状態は――


『第三世代型フリゲート艦「 」

 右舷5J規格艦対艦小型レーザー砲大破、損傷率93%

 右舷装甲小破、損傷率16%

 左舷装甲小破、損傷率10%

 正面装甲小破、損傷率7%

 後方装甲小破、損傷率19%

 シールド発生装置中破、損傷率42%

 シールドバッテリー大破、損傷率100%』


 ....とりあえず、艦を直すところから始めないといけなさそうだ。

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