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第三話 日記

3000~5000文字程度(実質3000~4000くらい)を目安に更新していく予定です。

 その日記には、この体が一体何者なのか。そして、ここはどこなのか。一体どういう状況にあるのかが、事細かに記されていた。もちろん、本人には俺に教えるつもりなど全くなかったのだろうが、俺からするとここまで正確に現在の情報を知れたのは僥倖というほかない。


 まず、この体の――現在の俺の名前は、セシル・オルブライト。

 枕元に置いてあった鏡で確認したが、少し赤みを帯びたセミロングの髪の、ちょっと童顔な感じの女の子だった。

 女の子、と言っていいのか微妙なところだけど。女性というほど大人びているわけでもない。せいぜいが、見た目高校生といったところか。実年齢は日記には書いてなかった。そりゃあ、自分の年齢を日記に書くわけはないか。書かなくても分かる。


 そんな俺は、宇宙連合軍所属の新人軍人らしい。今回の任務が初任務で、それなりに準備も整えてやってきたとか。初任務の難易度じゃなかった気がするんだけど。

 ちなみに、任務区域はフラム星系という星系の近くらしい。今回の任務についてかかれていたのは、これだけだった。

 しかしながら、こやつただの軍人ではなく、軍の最高権力者の娘らしい。とはいえ、文面から察するにそこまで父を慕っていたわけではないっぽい。むしろ嫌ってたとさえ取れる文章だ。何かあったのかもしれない。

 その父経由のコネで、初任務にも関わらず小隊の隊長になれたそうだ。....あれ、小隊?ほかの船は見当たらなかったんだけど....もしかしてすでに逃げてた?


 とまあ、俺のことはこんな感じだ。

 胸が大きくならないことを気にしていたり、背があまり高くなく、年齢を小さく見られることをひそかに気に病んでいたことなどは見なかったことにした。忘れた。むしろそんな事実なかった。この体の中の人の尊厳を守るために。


 んで、けっこう重要なのが次の、この世界の情勢。この世界とは言ってもここ、俺の世界の未来らしい。地球とか月とかの表記が見られた。つまりは、俺が不老不死になっていたら普通にここに来ていたということだ。まあ、無いけど。

 現在、人間の勢力は大きな目で見れば一つだけだ。それが、宇宙連合軍。連合っていうだけあって、完全に一枚岩ってわけではないらしいけど、とりあえずのところは共通の敵と戦うために連合として一つになっているらしい。


 その共通の敵ってのが、ノウン。ノウンはある一定方向から湧いて出てきているということは分かっているが、はっきりとした出現場所はいまだ解明しておらず、どこを攻めればいいかもわかってはいない。

 そんな謎の敵だが、人類と似通ったような兵器を用いるということは判明している。

 未だノウンがなんのために人類を攻撃し、またどんな生命体なのかは知られてはいないが、研究者たちが必死に解明するために研究を繰り返しているらしい。


 とまあ、こんなところだろうか。

 現在俺は、人類の敵ノウンと戦うための軍に所属する船長。しかし一時的な小隊の長であるので、隊長殿といったところか。本来なら隊を持てるのは伍長以上なので、呼び名に困るらしい。船長が伍長よりしたって、なんとなく名前負けしてる気がする。

 船を個として見るのなら間違いではないのだろうけど。


 ちなみに、この任務が終わったらこの船以外は全て返還されるらしいので、小隊長の任は解かるらしい。日記によると、軍の決まりで船を持てるのは船長かららしい。そりゃそうだ。ちなみに、俺の前任者は新兵だけどコネで無理やり船長になったとか。

 親が嫌いなわりにコネは使いまくるのね、この子。

 本来は下級三等兵、中級三等兵、上級三等兵、下級二等兵、中級二等兵――とこんな感じで計十二もの階級を駆け上がってようやく船長になれるとのことなので、相当なずるをしていることになる。


 ちなみに連合軍の階級は、下が三等兵まであることと、三二一上等兵は下級、中級、上級に分けられているということ。あと、兵長ではなく船長であること以外には日本軍と違いがない。

 つまりは下から、船長、伍長、軍曹、曹長、准尉、少尉、中尉、大尉、少佐、中佐、大佐、少将、中将、大将だ。下級三等兵から上級上等兵まで入れると、全部で二十六もある。軍の階級はピラミッド型であることを考えれば、俺はまだまだ下っ端もいいところとも考えられる。


 とりあえず、日記から得られる情報を全て整理した俺は、ベッドに寝転んで目を瞑った。

 もうね、いろいろありすぎて疲れた。





 目が覚めると、ベッドのふちに座って頭がさえるのを待った。

 朝に弱い俺にとって、もはやこの行動は毎日の習慣だ。

 完全に目が覚めると、現在の状況を思い出した。

 ああ、そういえば俺、未来に来たんだっけ。


 立ち上がると、机の前の椅子に座った。

 一つだけの引き出しを開けると、そこには銀色の、細長い円柱形の棒が置いてあった。円柱の底面に当たる部分に、電源マークがついたボタンがあった。

 ....?

 なんだこれ。

 疑問に思ってボタンを押して電源を入れてみると、音もなく円柱の上側に画面が出現した。


 これ、もしかしてホログラムってやつじゃないか?

 机に置いてみると、九十度よりは少し角度をつけて、手前側にキーボードが出現した。


「おぉ」


 キーボードのキーは、パッと見たところ俺の知っているものと変わりはない。

 少し知らないキーもあるみたいだけど、使わなければいいだけの話だろう。

 見たことのない技術を目の前に、思わず少し前かがみになる。すると、それに合わせて画面の角度が変わった。俺が見やすいように。


「おお!」


 すげぇ!自動で画面の角度まで変わるとは、恐れ入った。

 とはいえ、このパソコン(たぶん)はロックされているようだ。そりゃそうか、司令官殿ともあろうものがパソコンにロックもかけていないはずがない。さすがに、同じ体とはいえパソコンのパスワードまでは分からない。

 画面のど真ん中に、正方形の入力欄がある。


 ....なんで入力欄が正方形?

 そういえば、入力欄の下にはシンプルな文字で『put』と書いてある。

 もしかして、という思いと共に右手人差し指で触れてみる。

 ポローン、という効果音と共に、ホーム画面が開く。


「マジか」


 まさか、ここまでパソコンが進化しているとは....。

 というか、直接機会に触れてるわけでもないのにどうやって指紋を確認しているのか分からない。目の前に認証装置があるならまだしも....どういう原理なのかさっぱり分からない。それを言うなら、完全なホログラムも未来人ならぬ過去人である俺からすれば謎技術の結晶なわけなんだけど。


 とまあ、そんな感じで謎技術に驚かされつつ、湧き上がる罪悪感を押し殺してパソコンの中を見ると――びっくりするほど何もなかった。

 もしかしたら予定表なんかがあったりしないかな?と少し期待していたのだが、それどころかほかのソフトもデータも何一つ入っていない。


 唯一見つかったのが、軍の個人用データベースにアクセスするショートカットだけ。

 それは網膜認証でログインすることができたが、いまいち何が書いてあるか分からなかった。なんかソシャゲのホーム画面チックな印象を受けるのは、この科学技術が発展した宇宙連合に失礼だろうか。

 右上にこれまたソシャゲっぽいヘルプマークがあるのだから、もはや狙ってるのではないかとさえ思う。まあ、ありがたく見るんだけどね――と、タップしようとした瞬間。


 チリーンと、どこからともなく音がした。


「....?」


 手を止めて耳を澄ましてみるが、何も聞こえない。

 空耳だろうか?と画面に目を戻したところで、再びのチリーン。

 間違いない、実際になっている。


 なんのアクションも起こさない俺にイラついたかのように連続でなるチリーン。....ってこれ、チャイムじゃねえか!

 慌ててドアに扉に駆け寄ると、自動で開いた。開けようとした手前、少し驚いてしまう。

 そこにいたのは、今日(俺の主観で)一度も話していない男だった。


「す、すまない。少し寝ていた」

「チャイムにくらい反応してくれ。小隊長としてどうなんだ――と言っても、それももう終わりなわけなんだが」


 終わりって、どういうことだ?


「コロニーについた。船は軍の母港に入れとくから、俺たちはもう行くぞ」

「行く、とは?」

「はぁ?もともと今回だけの契約だっただろうが。船乗りがいないから乗ってくれと泣きついてきたのはそっちだろう」


 ああ、そういうことになっていたのか。

 日記にはそんなことは書いていなかったな....。そりゃあ、日記にだって書いていないことの一つや二つくらいあるだろう。いくら何でも一日にあったことすべてを書いておけるわけじゃないんだし。

 ということは....借り物隊の借りていた船はどこかへ逃げ出すし、自分の船の乗組員すらも雇っていただけ。つまり俺、ぼっち?なんの伝手もなく、ぼっち?船だけ持ってる感じ?

 確かに日記には、「一人でも船を運用できなくはないから、大丈夫!がんばれ私!(原文ママ)」って書いてたし。


 ......。

 そういえば俺、というかこの体って、独り言や日記では結構フランクな口調なのに対人になると途端に偉そうになるんだよな~....。

 この体の持ち主、キツい性格だったのかなぁ....俺の口調じゃないもん。


 げ、現実逃避なんてしてないし!

 

10/20 容姿に関する記述を追加。

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