第十話 酔っ払い
現在俺は、第十五工廠の工廠長室――つまりはシリルに与えられた部屋にやってきていた。
そこで俺たちは図面が置かれた机をはさんで、向かい合わせに座っていた。俺たちの表情は、真剣そのもの。本気と書いてマジと読むレベルだった。
「やっぱりこう、駆逐艦の上にフリゲート艦が乗っかる感じっすよね?」
「ああ、それでいいだろう。デザインとしては、問題ない」
正直、時間がないので変形合体までは無理だ。だが、普通の合体だけでも十分ロマンに溢れている。今はこれで十分だ。変形合体のほうは後々考えるとしよう。
「二つの艦が合体することによって、全体の質量が増加し、普通なら撃てないようなレーザー砲を使えますが、どうしますか?」
「ふぅむ....そうだな、フリゲート艦のほうに搭載するか?」
「ですね。駆逐艦のほうは普通の装備を固めればいいでしょう」
「しかしだな、合体していない状態で装備を一つ遊ばせておくというのもな....」
「それなら安心してください。この第十五工廠特製の、一つの砲で弱と強二種類のレーザーを放てる砲があります。それを使うことによって、合体したときに駆逐艦の電力とフリゲート艦の電力を総動員して、強レーザーを放てます」
「なるほど、それはいいな」
「対外的には販売用として開発しましたが、実はこれのために作ったんですよ」
そういって、にやりと、新しいおもちゃを親に買ってもらうことに成功した子供のような笑みを浮かべた。なるほど、シリルは相当なロマン思考のようだ。俺と同じく。
「それでは次の部分に行きますか」
「そうだな――」
そうして俺たちは、夜時間になるまで計画を詰めていった――。
「じゃあ、駆逐艦のほうは僕が3000クレジット以内で購入しておきますね」
普通は端末からアクセスできる購入ページで艦や装備を購入するが、こういったツテがある場合にはそちらから購入することも可能だ。だが、信頼できる相手に任せなければ、金をぼったくられることもあるので、注意したほうがいいらしい。
シリルは、話している中で妙な友情が芽生えた。あいつは、ロマンを求める崇高な魂を持っている。子供が純粋な心を持ったまま成長したような奴だ。ぼったくられるようなことは、無いと思う。それに、今から騙す奴に「こういう詐欺の手口があるから気を付けてくださいね」なんて警告するわけがないだろう。
「ああ、よろしく頼む」
そう言って、俺たちは分かれた。
完成は、三日後になるよていだ。三十分弱でボコボコの船を直すような技術力があるなかで、三日というのは非常に長いらしい。
俺のフリゲート艦のほうは改造のために第十五工廠の一角に引き取ってもらっているため、今は使えない。なら、どこで寝泊まりするのかというと、実は連合軍に所属する軍人には一室だけ部屋が与えられる。位によってその大きさや質は違うが、そこを自由に使ってもいいのだ。今までは船があったからそこで寝泊まりしていたが、船を持たない上等兵以下の兵士たちは寮を使用することが多いらしい。
というわけで、俺は寮に向かった。データベースで、寮がどこにあるかは知っている。
しばらく歩く....。
寮に向かう道の途中で、そういえば俺ってまだ町に出たことがないな、と気づく。
せっかく未来の世界にやってきたんだから、街並みを見てもいいだろう。
そう考えて、寮への道を少し外れて、町に出てみることにした。
町へ出てみるが――
コロニーの中の町は、案外にも緑に溢れていた。むしろ、地球のほうが緑が少ないんじゃないかと思うほどだ。
公園の中を子供がきゃっきゃとはしゃぎ回り、それを少し離れたところから親がベンチに座って見守っている。公園のいたるところにベンチがあるが、別に宙に浮いているとかそういうことはない。コストの問題だろう。と思ったら、遊具は普通に浮いたりしていた。よく見れば、近くにソーラーパネルが設置されている。コストの問題じゃなくて、需要の問題だったか。浮く椅子なんて、確かに要らないな。
しばらく歩くと、商店街のようなところに出た。
急いでいるわけでもない人はゆっくりと歩いているが、ぽつぽつ急いでいるのか、小さな板のようなものに乗って素早く移動している人もいた。
もう夜時間に入ったからなのか、店は次々と閉まっていった。まだ開いているのは、居酒屋のような店だけだ。
う~ん、久々にちょっと飲むか。
ここに来る前も含め、最近あまり飲んでいない。
目が覚めると、知らない天井だった。
起きてみると、自分が大きなベッドに寝転んでいたことがわかる。
えっと....俺、寝る前に何してたんだっけ?
しばらくぼーっとする頭で考えていると、徐々に昨日の出来事を思い出す。
確か、一人で飲んでいるところに声をかけてきた人がいたんだ。普通のおじさんだった。話してみると結構話が合って、そのまま二人で何軒もはしごして。久々に飲んだ酒に、加減を忘れて飲みまくったんだった。
それで、そのあとは――なんだっけ?
と、その時、部屋に一つだけあったドアが開いた。
「お、セシルちゃん。起きた?」
そこから現れたのは、昨日のおっちゃん。アーノルドさんだ。俺は、あーさんと呼んでいた。考えてみれば、年齢的に失礼だったかもしれない。でも、あーさんが話しかけてきた時点で結構酔っていたし、仕方がないっちゃあ仕方がない。
ところどころ白髪が混じった少し長い髪を、後ろで無造作に縛っている。無邪気というかなんというか、どこか朗らかな顔つきの人で、その見た目に違わずなんとも明るい人だった。
年齢は、見た目でしか察することはできないが四、五十代に見える。
......。
........うん。
こんな事、考えてる場合じゃないよね。あーさんの見た目とか年齢とかどうでもいいよね。
とりあえず。
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
叫びました。
「昨日の晩は激しかったぞい」
「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「セシルちゃん、ベッドの上だと性格変わるのね」
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
ゴロゴロゴロゴロと転げまわる。
ない!記憶がない!全くない!覚えてないから否定できない!
俺が?男なのに?こいつと?あーさんと?
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!」
「いやぁ、結構遊んでるのだね、セシルちゃん」
「ううううううううううううううううう.....う?」
遊んでる....?
その言葉に、俺はぴたりと止まった。
「私は処女だ!馬鹿者ッ!」
「ははははは、面白かったぞい」
そういって、サムズアップするあーさん。俺は真逆でサムズダウンする。
「そういう悪質な冗談はやめてもらえないかッ」
「セシルちゃん、やっぱ処女なのか」
「そうだ、悪いかッ!」
え?なんで処女だってことを知ってるのかって?それはお風呂で――いやぁ、なんでだろうね?僕にもワカラナイナー。
深呼吸をして、いったん落ち着く。
「....これって、どういう状況なんだ?」
とりあえず、状況を確認する為にあーさんに質問する。まあ、大体何があったかは理解しているけど。
「まず、道で酔いつぶれて不良にお持ち帰りされそうになっているセシルちゃんを、助け出した。そしたらセシルちゃんが俺を好きになって、そのまま夜をともに――」
「だから、そういう冗談はやめろと言っているだろッ!」
はははは!と豪快に笑うあーさん。なんでこんなに軽いんだ。
まあ、それはともかく....
「悪かったな。迷惑をかけて。礼を言う」
「いやいや、こんな可愛い子と知り合いになれたんだ。文句は言わんさ」
なんともまあ....優しいんだか、意地悪なんだか。