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メンドクサイ組み合わせ

「じゃあとりあえず乾杯ですね。ここはわたくし、笹川が音頭を取らせて頂きます!」


運ばれてきた生ビールの泡が消えないうちに、と、勝手に仕切るのは佐久間商事の社長でも副社長でも無く、初めて会ったちっちゃい子。


「かんぱーい!」

「かんぱーい」


声が二つそれに重なって慌てて、俺も、と、声を掛けグビグビ喉を鳴らす。それから自分が持っている物と同じ物を美味しそうに呑んでいるちっちゃい子を覗き見る。

いやいや、さっき依子と似てるって思ったけど、意外と違うタイプかもしれない。何て言うか、結構やんちゃ?


「あ、藤代さん、お皿どうぞ」


はいはい、と手渡された小皿を受け取りながら、うーん、と考える。こういう所はやっぱりちょっと似てるかも、っていうか、佐久間社長の恋人で秘書っていうからもっと大人しいかと思ってたのに、というか、第一印象は、こんなじゃなかったような。

賑わう店内の中、早々に酔っぱらった客を避けながら店員が、たこわさだのマグロのブツ切りだの、浅漬けの盛り合わせだのが運ばれてくれば、誰彼ともなく「いただきます」を言いながら、箸を伸ばす。

遅れをとらないようにと、箸を伸ばし、醤油を軽く付けてマグロのブツを口に入れれば、お、と声を上げた。


「意外とイケるだろ?」


へへっと笑うのは隣に座った元取引相手の、副社長。それにうんうんと頷いて見せれば、へへんっと子供のように笑う。

この人は変わらないなぁと思う。俺が取引に来てた時も、ずっとこんな感じだった。


そう、佐久間商事ってとこは、すごい変わった企業なんだ。

社長はほぼ同じ年とは思えないくらいに落ち着いていて、その親友で副社長は底抜けに明るくて怒りやすい。

何と言うか、間反対の二人がタッグを組んだって感じなんだ。

プラスとマイナスでゼロ、な感じ。


いつの間にか来ていた二杯目の生は、そのマイナスの方の秘書が先回りして頼んでくれていたようで、出来立てのふんわりとした泡が、口の中に苦味を届けてくれた。






んー……。

ビールのジョッキで顔をうまーく隠しながら藤代さんを観察する。観察っていう言葉を使うとちょっと失礼かもしれないけど、なんか、初対面と違うような気がする。

最初に見た時は、なんていうか……ちょっと遊び人っぽいなぁと思ったけど、こういう場を仕切る訳でもないし、意外と計算高い人なのかも知れない。

いや、これはとても本人には言えないんだけど……。

ちらっと隣に座る礼を見上げれば、私には分からない昔の話で、藤代さんを含めお兄ちゃんと盛り上がっている。

三人の手にあるジョッキがだいぶ減っていたので、話の合間に声を掛ける。


「三杯目、何にしますー?」


邪魔だから、と、私の背中に挟んで置いたメニューを礼に手渡せば、三人は話をだらだらと止めながら、メニューを開く。どれくらい経った?と腕時計を見れば、まだ、開始してから三十分くらいだ。

ちょっとピッチ速めだから、軽めのにしようかな、なんて思ったその時。


「ねぇ」


不意に呼ばれたような気がして顔を上げれば、もう顔を赤くしかけている藤代さんが正面でにっこりと笑ってる。


「はい」


つい、いつもの癖で、いつものように返事をすれば、それはそれは意外な顔をされ、観察してたのは私だけじゃなさそうだ、と思う。ただ、意外な顔は一瞬で引っ込み、さっきよりも人懐っこく笑みを浮かべた藤代さんは楽しそうに口を開く。


「笹川さん、強いでしょ? ロック行っちゃう?」


顔、赤くなってるし回っていたのかな、とちょっと安心しながらその言葉ににこっと笑んでから、首を横に振る。


「そんなに強くないですよ。若い時にちょっとやんちゃしたくらいです。……んー、せっかく海鮮のお店ですからね、ひやが良いかな。鶴か、菊か……」


メニューを取り出してパラパラ捲れば、けたけたと楽しそうに藤代さんが笑う。笑ってないのは、私の過去を知ってる礼と兄だけで、その冷たい視線を流しながら、鶴にしようと決めて店員を呼ぶ。若い学生のアルバイトの割にやる気のある可愛い女の子がオーダーを聞きに来てくれて、冷酒を三合とおちょこを四つ、肴が少なくなっていたので、ブリの刺しと冷奴、それにマグロのあら煮を頼む。空いた皿を下げて去っていくアルバイトさんを見ながら、楽しそうだなぁ、と思ってしまう。


「やんちゃ、ねぇ。そーなんだ。そんな風には見えないけどなぁ」


あははっともう一度笑いながら、藤代さんがジョッキを空け、当然のように私に差し出してきて、それをテーブルの端に置く。


「いやいや、やんちゃでしたよ。でも、藤代さんもその口だったんじゃないんですか?」


いや、まさか、同世代のオンナノコを監禁して輪姦してという意味じゃないけれど、この遊び人風の感じは絶対、大学時代遊んでいただろうと確信して聞けば、藤代さんは長い指で枝豆をつまみながら、にんまりと笑う。


「まーね。人並みに、ってとこかなぁ」

「だろーな」


藤代さんの言葉に間髪入れず突っ込んだのは他でもない兄、で。

私に少しお怒りの目線を送りながら、手を、しっしっと振る。

この先は、会話に入ってくんな、という意味なんだろう。

はいはい、と頷いて見せれば、隣に座った礼がぽんぽんと頭を撫でてくれる。


「やー、見せつけちゃいますね、社長。てか、ほんとーに、恋人なんだ。いーなぁ、俺もしたいですよ」


丁度運ばれてきた日本酒は透明な鉢にクラッシュされ細かくなった氷に埋められていて、お猪口を配ってからそれに注いでいく。

藤代さんはそれを誰よりも早く口につけ、ぐいっと空けてしまう。

もうビール、二、三杯呑んでるからゆっくりちびちびかと思ったのに、と驚きながら手を伸ばし、もう一度注げば、へらへらと笑う。


「いいじゃねぇか。やれば。例の長く付き合った彼女とかよ」


兄はちびちび派らしく、お猪口を傾けながら言い、藤代さんはその言葉に顔を顰めてから、じっと手元に持ったガラスの透明なお猪口を見つめ、しばらくそうしてからぐっと杯を空け、割れない程度にテーブルに叩きつけるように置いた。






おいおい、藤代ってこんな奴だった?と、その荒々しい動作を見ながら固まる。愛想良くってへらへらしてて、いや、でも、礼と同じであんまり感情を表に出さないと思ってたんだ。

涼は自分の役目をよく分かって居るようで、飲み会の序盤の盛り上げ役というか、藤代が三人にうまーく馴染めるように振舞ってくれた。

それに文句はねぇんだけど、よ。


「別れたよ、そんなのとっくに」


ぷはっと息を大きく吐きながら藤代が声を一段も二段も低くして言い放つ。ひやぁとした空気がテーブルを包み、礼をチラ見すれば、あちゃーって顔までしてる。礼がそういう顔を表に出すのもレアなんだけどよ、藤代も相当レアだ。


「……ま、マジか? だって、お前、相当長く付き合ってて……、確か……


プロポーズしたって言ったじゃねーか、を辛うじて飲み込んだ俺、偉い。でも、藤代には、んなもん意味が無くガラスのボウルから透明な徳利を取ると手酌でお猪口に注ぐ。


「はいはい、しましたよ、プロポーズ。でもね、黒井さん。俺、散々待たされて、全く会えなくて、そんで別れたの。わーかーれーたの」


はーあ、とため息を吐きながら言う藤代に、開いた口が塞がらなくなったのは俺と礼で、そんな俺達を尻目に、藤代はぐいぐい杯を空けていく。


「んー、でも」


そのひんやりとした空気の中、口をかるーく開いたのは妹で、斜め上を見るように考えてから、藤代に顔を向ける。

おいおい、何言い出すんだよ、っと言いたくなるのを我慢したのはやっぱり俺と礼で、そんな思いを知ってか知らずか、涼は俺と礼をちらっと見てからその続きを堂々と藤代に言い放った。


「さっき、礼が私の頭を撫でた時、『俺も欲しいです』じゃなく『俺もしたいです』だったんだから、新しいお相手がいらっしゃるんじゃないですか? 兄と取引されてたんだったら、その、何ていうか。言い方は悪いですけど、藤代さん、結構頭が良いんじゃないですかね。兄はバカは相手にしませんから」


涼、それはな、正論なんだけどよ、でもお前の隣の礼は石像みたいに固まってるぜ?

そう思いながら俺も何も言えなくなって、けれど、藤代だけ違った。

一瞬、鳩豆だった顔を、へらへらーっと歪ませると俺の方に真っ赤になった顔を向けて、ゲラゲラ笑いだす。


「ねぇ、黒井さん。この子面白いねぇ。……この子なら確かに佐久間さんが好きになるのもしょーがないかも。ほんっと、黒井さんそっくりだもん」


笑いながら言えば、満足したのか、藤代は涼の方に向き直り、箸でブリを取って腕を伸ばす。


「はい、笹川さん。あーん。……正解者に豪華賞品でーす」


その言葉に動じる事も無くにっこりと笑って口を開け、藤代の箸からブリを食べさせて貰った涼は、にこにこ笑って、咀嚼を繰り返した。



やばい、俺が思ってるより、この二人の組み合わせは面倒だ。

てか、二人ではなく、今日の藤代が面倒なのかも知んねぇ。

俺や礼が思ってるより長い夜になるかもしれないと、俺は楽しそうに雛に餌を与えるようにブリを次々食べさせている藤代を尻目に、出来たばっかりの嫁にメールをした。

すごーい久しぶりの、七篠りこ様原作「その手をとれば」の二次創作(作者様了承済み)の更新をしたのは決して、七篠様が「その手をとれば」のスピンオフ的短編を投稿されたからじゃありません。(と、言い訳をしてみる竹野きひめでした)

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