メール
翌朝。
こんなに目覚めが最悪なのはいつぶりだろうかというぐらい、目覚めが悪かった。
理由は簡単で、夜更かしし過ぎたから、だろう。
家に帰ってからやっぱり気になるとメールをしようか散々迷い、電話をしようか散々迷った。
どっちも返されなかったり切られたりしてしまったら、肯定の意味になってしまうのが怖くて、自転車を引っ張り出し依子の家まで行ってしまった。
が、深夜だし、としばらくぼんやりと眺めてから帰った。
けれど、深夜というのはただの言い訳に過ぎず、ただ、怖かったんだ。
どっちにしても今日は俺の家に来るだろうと思ったのもある。
ぼんやりする頭と隙あらば閉じようとする瞼をシャワーを浴びて叩き起し、いつもより少し遅めの時間に出社する。
普段なら何も気にならない満員電車の女の香水や、オヤジの頭のフケが物凄く不愉快で会社の最寄り駅で逃げるように電車を降りた。
駅を出てから携帯を出し時刻とメールの有無を確認する。
時刻は始業20分前でまだ余裕だな、と思う。
それからメールが無い事にどこか安堵していた。
依子からメールが無い事が落ち着く、なんて、どうかしてる。
元々おはようというメールは俺からしかしなかった。
今朝は余裕も無くそれをしていない、だから、無いだけなのに。
次に来るメールは別れを告げる予兆を感じさせるものではないのだろうかと思っている事にそうやって歩きながら気付いた。
結局、依子へは自分からメールをし、コンビニで缶コーヒーと昼食用のパンをふたつとペットボトルの紅茶を買う頃にそれが返って来てえらく安心した俺が居る。
少なくとも、いつもより遅くなったいつものメールに返信をくれるくらいには俺の事を想ってくれているらしい。
コンビニを出て歩きながらそのメールに、そう、いつもの金曜日のようにメールをした。
『今夜、どうする?』
送信するその瞬間まで俺は、依子は何も変わらないとどこかで信じたくて仕方無かった。
リサとは違うんだ、俺を待ってくれたんだ、俺の事を好きなんだ。
そう、浅はかな程、単純に思いこんでいた。
だから、返信が来た瞬間。
目の前の横断歩道の信号は青だと言うのに立ち止まってしまった。
『ごめんなさい。明日宅配便が午前中に来て受け取らないといけないので、行けません』
点滅する青信号を渡りきろうと俺の横を、俺と同じような会社員や学生が走り抜ける中、それをただ呆然と見つめ動く事が出来なかった。
何か返さないと。
何か、何も気付いていないように、返さないと。
気付いて?
俺は依子の浮気を……疑ってる?
赤信号に変わったそこをたくさんの車が走り抜けて行く音を聞きながら指を動かしそれが変わるまでには返事を返す事が出来た。
『わかった。それが終わったら遊びにおいで』
このメールに点数を付けるなら90点くらいはいくだろう。
これだけなら、きっと気付かれないだろう。
どうか、明日。
何時でも良いから俺の所へ戻って来てくれますように。
どうか俺の浅はかな考えが、勘違いで、間違っていますように。