『モリーを偲んで』―In Memorial of Molly -3―
まさかのコンバットもの展開に
モリーさんと旦那たちの乗った3台の車列は湖畔を周回し
ブナの木が生い茂った森の中に入っていた。
先頭車にはIdiotとPlonkerが
2台目の警護対象車にはAsshole、Scumbag、Boneheadとモリーさん
旦那は最後尾の車にDogと共に乗り合わせていた。
旦那の束の間の相棒は前日キラーニーのバスステーション近くに旦那を迎えに来た陰気な顔をした男だった。
「遮蔽物が多すぎる。視界が悪い」
ブリーフィングで経路について難色を示した旦那に対してリーダーのScumbagはこう言った。
「これは伝統だ。経路の変更は許されない。我々は皆が代々フィッツジェラルド家に仕えてきた魔術師だ。
遮蔽物程度で魔術戦で遅れをとるようなことはありえない。それとーー」
その高慢ちきな小男は旦那に近づいて来て、懐から愛用のコルトマーク4を取り上げると続けてこう言った。
「そのような野蛮な物の携帯は自重して欲しいな。
君も魔術師の端くれなら魔術で対処したまえ」
旦那はこう述懐する。
「魔法使いのババアが毒リンゴの木でも栽培してそうな気色悪い森だった。
俺は走行中ずっと気が気じゃなかった。
開けた草原が見えて来た時には心底ホッとしたぜ」
ところが、もう少しで森を抜けようというところで急に先頭車が止まった。
「おい、何故止まったんだ?」
旦那はハンドルを握る隣の男、Dogにそう質問した。
男は旦那の疑問に答える代わりに先頭車の先を指差した。
そこには羊の一群とそれらを連れる羊飼いの姿があった。
「羊は神の使いだ。無下にはできん。まあ、魔術の気配も一切せんし、問題はなかろう」
男はそうのんびりした口調で言った。
確かに魔術の気配は欠片たりともなかった。
だが、旦那は何か嫌な物がのど元からせり上がってくる感覚を覚えていた。
旦那の焦燥とは裏腹に羊たちはノロノロと進み発進できる見通しはまるでたたない。
羊の群れの最後尾が見えた頃羊飼いの男が羊の背から何かを取り出しそしてーー
男の掲げた物騒な物体から、高速の飛翔体が先頭車に向かって飛来するのが見えた。
「RPGだ!」
旦那が叫ぶのと同時に先頭車が炎を挙げて爆散するのが視界の端に入った。
護送対象車が急ブレーキをかける。
旦那の乗った車輛は前の車のカマを掘って急停止した。
旦那はとっさに床に伏せた。
次の瞬間、四方から銃弾がバラまかれ車体と隣の男Dogは
ハチの巣にされていた。
旦那は床に伏せたまま銃撃で床に落ちたバックミラーを拾うと
サイドブレーキを引き抜いてその先にミラーを魔術で起こした炎で溶接した。
即席のスコープを掲げて、前の車の様子を伺う。
飛び散った血の隙間から白いドレスが動くのが微かに見えた。
旦那はモリーさんが生きているわずかな可能性に賭け
銃撃の勢いが弱まると、その馬鹿力でドアを引っぺがして盾にし外に飛び出した。
飛び出すと後方に向かって密かに携帯していたワルサーPPK/Sを後方に乱射し
前の車輛にたどり着くと、後方のドアを引っぺがして中に乗り込んだ。
途中肩と側腹部に被弾したが痛がっている余裕はない。
中は血の海になっていた。
しかし、幸か不幸かScumbagとBoneheadの死体が肉の壁となりモリーさんは無事だった。
旦那は顔面蒼白で茫然自失としているモリーさんの体を引き寄せて
自分と一緒に床に伏せさせると、最大限の魔力で炎を拳にまとわせて車体の底にドでかい穴を空け、
地面が見えるとさらにパンチを繰り出して掘削を開始した。
下調べでこの道の地下には空洞があることがわかっていた。
こんなど田舎の道の下に下水道がある事は妙に思ったが今はその疑問を解明している時ではない。
尚も銃撃が続くなか、旦那はその作業に没頭する。
そして何発目かのパンチを地面にお見舞いすると地面にぶつかる手応えが無くなった。
「ちょいと荒っぽくなるが許せよ」
そう言うと旦那はモリーさんを抱えて穴から地下に向かってダイブした。
××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××××
落ちた先は広い空間だった。
旦那は失血で意識を失わないようアドレナリンを分泌させると周囲の状況を確認した。
暗闇に目が慣れると旦那は自分たちが石造りの回廊のような場所にいる事に気がついた。
「ここは城の周囲に張り巡らされた地下神殿です」
旦那に抱えられていたモリーさんがそう口にした。
旦那はモリーさんをそっと下ろすと聞いた。
「神殿?」
「はい。この中の通路は迷宮のように複雑に入り組んでいます。
1度入ったら抜け出す事はできません。ただしーー」
そこまで口にするとモリーさんは旦那の様子を見て何かに気が付き
1度言葉を切るとこう続けた。
「あなた、怪我を!?」
「ああ、幸いにも弾は貫通してる。こんなのは撃たれたうちに入らねえ」
旦那の精一杯の強がりに対してモリーさんはこう言った。
「私が治療をします。じっとしていて下さい」
旦那がその言葉に素直に従い腰を下ろすと、彼女は銃創を負った箇所にそっと手で触れた。
「柔らかくて、美しい手だった。誰かの手をあんなに美しいと思ったのは初めてだった」
当時の旦那にとって、女の手とは訓練と戦闘でゴツゴツした同業者の物か
もしくは自分を顎でつかう高慢ちきな依頼主のババア共のしわくちゃの物のどちらかだった。
モリーさんの心霊治療は効果覿面だった。
旦那の痛みはあっという間に引いて行った。
治療が終わっても旦那がじっと自分の手を見ている事に気が付き
彼女は不思議そうな顔で旦那を見た。
「あんたの手、奇麗だな。こんな手に触れてもらえるなら撃たれるのも悪くねえ」
その言葉にモリーさんは驚いた表情を浮かべると、次に赤面しこう言った。
「な、何を言うのですか! あなたは……」
その表情を浮かべた彼女は初めて見た時の何かを諦めたような顔の時とは違い年相応の少女に見えた。
「ところでだ。あんたさっき何か言いかけてたな。その……もう抜け出せねえとかいう物騒な情報の後に」
旦那の疑問にモリーさんは気を取り直して答える。
「ええ、この地下神殿の構造は本来正式に巫女となってから精霊によって伝えられます。
ですが、私は生前母から口承でここの構造を伝えられました」
そう言うと彼女は立ち上がり続けてこう言った。
「行きましょう。祭壇の部屋の隣に準備のための石室があります。
そこでなら横になって休むことぐらいは可能なはずです」
次回、まさかの萌えキャラ展開になります




