『銃弾の行方』"A vigilante of Brooklyn -5"
今回はすごく短いです。
真相は恐ろしく単純だった。
1件目の犯行が行われたその日時、ジュリアス・プロファーはマンハッタンのオフィスにいた。
ジュリアス・プロファーの娘、メアリー・プロファーは学校を欠席していた。
メアリーはジュリアスの魔術的性質を受け継いでいる。
動機があり、アリバイがなく、この特異な犯行を可能にする力を持っている。
そこから導きだされる結論は1つしかない。
1件目の犯行はメアリーの仕業だった。
恐らく、プロファーは娘が母の敵を討ったことを警察が駆け付けるよりも先に知り、現場に先回りした。
そして、娘から疑いの眼を逸らす方法を考えた。
その結果がこれだ。
プロファーは魔術師のロールシャッハになり、法で裁けなかった悪党たちを狩る自警団を演じている。
2件目以降の犯行は、悪党を狩る謎の断罪人という事実の辻褄合わせだ。
ヴァン・ビューレン捜査官がそのことに気づいているかどうかわからない
1件目の犯行を合理的に切り離して考えているのか
あるいは事件の特異性に固執し、あくまで5件の犯行すべてがプロファーの仕業との考えで何らかの方法で魔術によるアリバイ工作をしたと考えているのか。
私と父は協議を重ね、とりあえずの結論にたどり着いた。
下手をすると殺人罪に問われる可能性のある14歳の少女のことはさておき、
プロファーの次なるターゲットの確定と、現行犯で身柄を抑える。
娘が本来の下手人であることは、隠しもしないが積極的に報告もしない。
父は妻を若くして失った。私は幼くして母を失った。
正直に本音を言うと、少女に対する同情心があまりにも強すぎる。
それに、そもそも、本来の依頼はプロファーの監視だ。
本来の目的に集中するだけと思えばいい。
娘を守るためとはいえ、相手が極悪人とはいえ、やはりここは法治国家だ。
超えてはならない一線というものはある。
敵を捕えるには情報が必要だ。
張り込みと並行し、クリストフに頼んで、プロファーの来歴を調べてもらった。
事実上勘当された身とはいえ、クリストフは名門の出だ。
そういう人間のところには、噂話が舞い込んでくる。
魔術師はお互いに研究成果を盗みあうことにその生活の大半を費やしている。
どんな程度の低いゴシップでも何らかの攻撃材料になるのであれば、有力な情報として収集することを怠らない。
ハンターの中には、仕事をもらえるよう便宜を図ってもらう代わりに、あちこちに聞き耳を立てて情報を収集し売りとばす輩もいる。
そういう連中が仕入れた情報を持っていく先はクリストフのような名門の関係者のところだ。
「噂の出所は分からないが」
とクリストフはskype越しに言った。
「あるオランダの名家の当主は若いころ放蕩者だったらしい。
かなりの快楽主義者で、あちこちに落とし種を残していた。
一時キュラソーにも住んでいた時期があったと聞いた覚えがある」
プロファーはカリブ出身らしい浅黒い肌をしているが、恐らく白人の血が混ざっている。
その家系が恐らくプロファーの出自だろう。
そのオランダの名家ならば知っている。
その家系は、元々、交霊術を得意とする家系で、とりわけ物質化現象に
関する研究で知られている。
プロファーのかなり特殊な魔術的性質は、突然変異ではなく血によって受け継がれたものらしい。
だが、魔力を放出し、魔力自体を体から切り離して使う魔術は身体能力の強化のような戦闘寄りの魔術と相性が悪い。
元軍人のプロファーはかなり堂々とした体格の持ち主だが、生まれながらのバカ力と身体能力の強化を得意とする父には及ばないだろう。
急襲して接近戦に持ち込めば、魔力で銃を作る前にカタをつけられるはずだ。
勿論、張り込みも引き続き行った。
プロファー親子の生活は人畜無害な市民の者にしか見えない。
娘をジュニアハイスクールに送り届けると朝早くマンハッタンのオフィスに向かい、夕方にはまっすぐ帰宅して娘と食卓を共にする。
プロファーは注意深い性格らしい。
尾行がついたことに気づいているのか、あるいは魔力を持つものが近所にいることに気づいたのか決してルーティンワークを変えなかった。
留守の間に忍び込もうともしたが、探知結界が張られていた。
やはり魔力を探知されたらしい。
魔術に関しても中々悪くない腕を持っているようだ。
プロファーがオールドカレッジに在籍していた記録はなかったので、恐らく独学だろうが結界はなかなか大したものだった。
警備という物騒な仕事でも役に立っていることだろう。
数日、2人で尾行を続けたが、結局その間、プロファーは尻尾を出さなかった。
ならば次の手だ。
次回で多分、このエピソードは完結の予定です。
次回はかなり長くなると思います。




