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magus hunter 紐育魔術探偵事件簿  作者: ニコ・トスカーニ
『銃弾の行方』"A vigilante of Brooklyn"
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『銃弾の行方』"A vigilante of Brooklyn -4"

 第一容疑者のプロファーを張り込みはじめて数日。


 プロファーの在宅中は向かいのアパートからその動向を観察し、

外出の際は父と2人でつかず離れずの距離を保ちながら追いかけ続ける日々が続いた。


 エディが睨んだ通り、下手人はプロファーで間違いなさそうだ。


 張り込みの前に、エディと一緒に今までに捜査官が収集した捜査資料を魔術的観点も含めて3人でつぶさに検証した。


 すべての現場に魔術を行使した痕跡があり、プロファーが罪を犯した決定的証拠こそないものの確実なアリバイもない。


 状況から考えて、プロファーが犯人ということで間違いがないだろう。


 ――だが、1件目の犯行がひっかかる。


 1件目の被害者であるケネス・マクレモアの死亡推定時刻、プロファーはマンハッタンのオフィスに残っていた。

 複数人の同僚が、一切の矛盾ない証言を残しており、オフィスの監視カメラにもペーパーワークに勤しむプロファーの姿が収められている。


 エディは魔術を使ったアリバイ工作の可能性を疑っていた。

 私と父も、プロファーが簡単には思いつかないような方法で何らかの魔術を巧みに行使してアリバイを作り上げたものと思った。


「私の魔術師としての能力はかなり心許無い。

二人で検証してもらいたい」


 エディはニューヨーク市警と協力し、魔術以外の側面からプロファーのアリバイを崩す方法を考えると私たちに伝え、FBIの手配したブルックリンハイツのアパートに私たちを残して去って行った。


 私と父は張り込みの傍ら、アリバイ崩しへの魔術的なセカンド・オピニオンを求め、ボストンにいる腕利きの魔術師にコンタクトを取った。


「複数人に存在を認識させ、監視カメラに姿を残しつつ、同じ時刻に街の反対側で殺人を犯す方法か。

僕にも即座に思い当る方法はないが、考えてみよう」


 以前のターゲットであり、今やきわめて好意的な友人となったクリストフ・フォン・シュタウフェンベルクは快く協力の意志を表明してくれた。


 私たちは張り込みを続けつつ、クリストフも交えて考えうる方法を方ッ端から挙げては演繹法的思考で1つずつ論証してみた。


 その結果、3人の間で1インチの違いもない結論が生まれた。


 ――そんなことは不可能だという結論が。


「すまない、力になれなくて」


 クリストフはskype越しに心底申し訳なさそうな表情を浮かべ、私たちに言った。その隣では、エーファがskypeのインターフェイスが映ったディスプレイをもの珍しそうに見ている。

隔離されたホーエンハイムの邸宅から出てまだ数か月。

インターネット回線を使った画面付きの電話は初めて見るらしい。


「すいません。アンナ、マシュー。私も手助けしたかったのですが」


 当初はクリストフと私たち親子で議論をしていたが、途中から本人の希望でエーファも議論に加わっていた。


 だが、生まれて1年と少しの彼女は、魔術の知識が著しく錬金術に偏っており、議論に新しい観点を持ち込むことはできなかった。


 だが、散々議論を重ねた末、私の頭の中では1つの回答が形を整え始めていた。


「いや、十分に役に立ったよ」


 私がそういうと、クリストフとエーファは不思議そうな顔をした。

 私は父と顔を見合わせた。

 表情で解る。

 父も私と同じことを考えているのだろう。


 父が続けた。


「クリストフ、エーファ。あんたたちみたいな腕利きの魔術師と、アンナみたいな天才が一緒に頭をひねって何日も考えたのに、アリバイ工作の方法は見つからなかった。

――ということは、俺たちは見当違いの方向を向いていたんだ」

「見当違いの方向?」

「アリバイ工作と魔術は無関係ってことだよ」


 私がそういうと、クリストフは少し表情を崩した。


「そうか、ということは君たちのお役に少しはたてたようだね」

「大いに役立った」

「そうか、では、手が必要ならまた連絡してくれ」


 そう言うと、クリストフはスイートルームの宿泊客に応対するウォルドルフ・アストリア・ホテルのコンシェルジュのように爽やかに笑った。


 ――まったくナイスガイだ。


 クリストフとエーファとの通信を切ると、私と父はもう1度資料を洗いなおした。


 私たちは確実に何かを見逃している。

 それも、根本的で基本的な何かを――


 2人でもう1度、最初の犯行を見直してみた。


 双眼鏡の先ではプロファーが娘と談笑している。

 ジュリアス・プロファーには一人娘がいる。


 一人娘のメアリー・プロファーはジュニアハイスクールに通う14歳のティーンエイジャーで、反抗期らしき言動もほとんど見えない、珍しいほどのいい子だ。


 私が張り込みで得たその感想を素直に言うと、父は言った。


「口が悪いのを除けば、お前も手のかからない、いい子だったぞ」


 最初の一言が余計だ。


 プロファーの姿を双眼鏡越しに視認しつつ、捜査資料に目を通しなおす。


 私が2本目のタバコを吸いつくしたところで、父が溜息をつき、頭を抱えた。

 私はその芝居がかった仕草を見て言った。


「頭痛かい、アスピリンいる?」


 父はもう1度大きく溜息を吐くと言った。


「アスピリンより、バカにつける薬が欲しいぜ。

俺たちはとんだ大バカ野郎だ」


 父が捜査資料の一か所を指さした。


 ――すぐに父の言いたいことは分かった。


 ――確かに私たちはとんでもないバカだった。

 どうしてこんなことに気付かなかったのだろうか?

 いや、意識の端では気づいていても認めたくなかったのかもしれない。


 この事実は決して幸福な事実ではない。

 或は気づかない方が良かったのかもしれない。

だいぶ間があいてしまいました。

プロットは作ってあるので完結はさせます。

あと2回ぐらいでこのエピソードは完結予定です。

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