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magus hunter 紐育魔術探偵事件簿  作者: ニコ・トスカーニ
『銃弾の行方』"A vigilante of Brooklyn"
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『銃弾の行方』"A vigilante of Brooklyn -3"

 ブラウンズビル。


 ニューヨークで起きる凶悪犯罪の多くはブロンクスかブルックリンで発生している。


 ここはそのブルックリン区でも最もデンジャラスなエリアで、

 犯罪者以外は決して積極的に近づこうとしない。


 エディの運転するSUVを降りて、現場まで歩く間、何度か明らかにヤクをやっている眼をしたブラザーたちから、悪意の籠った視線を向けられた。


 ここに第一の犯行現場があった。


「ガイシャのケネス・マクレモアは強盗と暴行の前科持ち、札付きの悪党だ」


 エディは淡々と被害者の基本情報を教えてくれた。


 そこは、ブラウンズビルの古ぼけたアパートの一室だった。

 現場検証はとっくに終わっており、部屋はほぼ片付いていたが、

 壁に残された弾痕と血痕がここで起きた凄惨な出来事を物語っていた。


「アンナ、どうだ?」


 父は部屋を見分しながら、私に言った。


 父はまだ歴史の浅い家系の魔術師で、魔力に関しては

名門だった母方の血を受け継ぐ私のほうがはるかに強い。


「エディ、現場検証はもう済んでるんだよね?」

「ああ」

「じゃあ部屋にあるものに触れても構わない?」

「勿論だ」


 私は魔力のアンテナを開き、部屋を歩き回った。


 微弱だが魔力の痕跡を感じる。

 痕跡の残った場所と、事件のあらましからして考えられるのは1つだ。


「物質化現象だね」

「ああ、そうだな。他に考えられん」

「物質化現象?」


 エディは魔力の物質化を知らなかった。


 魔術対策ユニットの捜査官は、捜査機関での経験がある魔力を持った人物がリクルートされる。

 魔力を持っていることが必要条件であり、術者として優秀かどうかは問題ではない。

 エディの術者としての能力はパトリックと同等か少し劣るというところだろうか。


「文字通り、魔力を使って物質を作り出す魔術だ。

すこしばかり珍しい能力だね」


 父が私の説明を引き継いだ。


「いいか、エディ。魔力っていうのは、一種の流体だ。

そのぐらいは知ってるよな?」

「ああ」

「そうだ。流体であるがゆえに金属なんかの無生物とは相性が悪い。

炎や水を魔術で作り出しやすいのは、炎や水が本来形を伴わないものだからだ。高度な術者ならば、体の欠損部分を魔術で補うことができるが、これは人体が常に新陳代謝で目に見えない変化を続けているからできることだ。

錬金術は魔力を触媒にして金属を編成させる魔術だが、金属を作り出すわけじゃない」


 更に続ける。

 むさくるしい外見と裏腹に、父のする話はいつも筋道が立っている。

 その道に明るくないに人間にはありがたいことだろう。


「だが、ごく稀に魔力で金属なんかの無生物を生成できる特殊な性質を持つ術者がいる。

もっとも、魔力で作った物質は長時間その形を保てないから、魔力を流すのを怠るとすぐに消えちまう。

発射残渣が残ってないのも当然だ。

マクレモアとかいうゲス野郎をぶち抜いた弾丸は、壁に弾痕を残した後、綺麗に消えちまったのさ。

ネヴァダの砂漠に放置したアイスクリームみたいにな」


 私は入り口に向かった。

 ここにも僅かに術を行使した痕跡がある。


「正面から堂々と入ってるね」

「確かに、押し入った痕跡はない。しかし、ピッキングの痕跡はなかったが?」

「それも魔力の物質化で解消できる。

鍵穴に魔力を流し込んで即席の合鍵を作ったんだ。

バイオメトリクス認証や、カードキーなんかのデジタルデータで開く鍵には効果ないけど、昔ながらの錠前には効果覿面の方法だね」

「エクトプラズムって聞いた事あるだろ?

あれは魔力による物質化の出来損ないだ。

攻撃にも防御にも使えんが見世物にはなるからな」

「すると、ジュリアス・プロファーは予想以上に厄介な相手のようだな。

稀有な術を使うことで、物的証拠を残さず、MPとして捜査の経験もある」

「そうだね。仮にプロファーを逮捕できるとしたら、

プロファーに張り付いて現行犯で抑えることだけだろうね。

魔力で作った武器でも術を行使した直後に抑えれば、消える前に確保できる。

裁判まで持たせるには魔力を流し続けなきゃならないけど

FBIの組織力ならばなんとかなるんじゃないかい?」

「それで私からお二人に頼みがある」


 またしても妙な雲ゆきになって来た。

 何を頼まれるのか予測がついているだけに余計に嫌な感じがする。


 私が、気の進まない予測を口にしかけたところで、父が先回りして言った。


「おれたちにプロファーを張り込んでくれっていうのか?」

「そうだ。私は一度プロファーに会い、奴から魔力を感知した。

私が気づいたということは当然向こうも私が感付いたことぐらい気づいているだろう。おまけに、私は面が割れている」


 父が苦笑して言った。


「お前さん、最初からそれが狙いだったろ?」

「回りくどい真似をして済まない」


 私も溜息をついて行った。


「まったく大した狸だね」

「その点は謝罪しよう。どうか改めて協力してほしい」


 私は父を見て言った。


「どうする?」

「お前は自分が善良な市民だと思うか?」

「思うよ。勿論」

「じゃあ、善良な市民の義務は果たさないとな」

書き溜めが尽きてしまったので、更新頻度が大幅ダウンします。

(多分、週1回か2回ぐらい)

数少ない読者の方々すいません。

連載自体はやめませんので時々覗きに来てください。

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