やっぱり俺は優柔不断
「暁様、お待ちになって!」
さてこの台詞の主はだーれだ? 答えは……。
「ついてくんな」
「そんな、暁様のために昼食まで作ってきたというのに……」
めんどくさい女でした。
「急にどうしたってんだよ、昨日まではいけ好かないだのなんだの言ってたくせに」
「私過去は振り返らない主義ですの、それより一緒に昼食とりましょ?」
そういいながら腕を絡ませてくる、莉子。マジでめんどくさい。
「どうして俺がお前なんかと……」
「知ってましてよ、いつも一人で昼食をお取りになっているのでしょ? だったらいいではないですか!」
「何で知ってんだよ、ストーカーか」
「それは最初は打倒武蔵暁を目標につけていましたが、今では……ねぇ」
そういいながらウィンクを決めてくる。重いよこの女、付き合った奴は災難だろうな。
「ああ、もう勝手にしろ」
◇◆◇◆◇◆
「はい、あーん」
「いいよ、自分で食えるから」
結局屋上までついてきやがった莉子は俺の横に食事一式を展開する。見たところかなりの量だ。これを作ったとすればかなりの苦労があったに違いない。
「いいから、あーん」
ホント重い、朝からとんこつラーメン食うのより重い。
「あーん」
弁当箱から運ばれた卵焼きは俺の思っていた以上に絶妙な味を作り出している。塩加減と甘さの絶妙なバランス、卵本来の味との調和、今まで食べたどの卵焼きよりもうまい。け、やるじゃねぇか。
「お口に合いますか?」
「ま、まぁ……うまいんじゃねぇの?」
「ふふっ、ありがとうございます」
こうしてまじまじと見るとそう憎たらしい奴ではない。すこしばかし重いだけだ。
「じゃあ次はこれ、はいあーん」
「あ、あーん」
次に口に飛び込んできたウィンナーもこれまたすばらしい味を誇っている。時間がたち冷えているにもかかわらず、パリッとした表面とジュワっと口に広がるうまみは食欲を倍増させた。
「うまい」
「他にもありますので、どうぞたんまりとご賞味くださいませ」
「お、おう」
からあげもこれまたジューシーで、口の中で肉汁が弾けうまみが口いっぱいに広がる。添えてあったレタスも味付けは軽いにもかかわらず野菜本来の甘みを十二分に含んでいる。スーパーとかで売っているのではなかなか出せない味だ。
「このレタスってもしかして……」
「はい、朝収穫したばかりのものです。他にも家で取れるものは、なるべく新鮮なものをと思いまして」
「お前ん家って農家なの?」
「えぇ、恥ずかしながら」
「いや恥ずかしくなんてねぇよ、むしろすげぇと思う」
いつも食べているコンビ二弁当じゃとてもではないが出せない味は、あっという間にその弁当箱の中を空にさせた。その一つ一つが一工夫以上のものを散りばめられており、まるで宝石のようにも思えた。
「ありがとう、スゲーうまかった」
「そうですか、よろしかったらこれからも作ってきましょうか?」
「いいのか? これ作んのすごく時間掛かるんじゃ?」
「いいえ、暁様のことを思えばどうということありません」
なんだよ、いいやつじゃねぇか……。
「あら、口元にご飯粒が」
右頬に手を添えられ左手でそっと口元のご飯粒をとられる。その手は小さくてやわらかく暖かいものだった。その動き一つ一つが気品にあふれたもので思わず頬が熱くなる。そして数秒の間、莉子と見つめあう時間が訪れる。
「暁様……」
ゆっくりと莉子の唇が近づいてくる、しかしなぜか嫌な気はしなかった。うっすらと見える光沢はリップを塗っているのだろう。その弾力のありそうな唇に思わず見とれてしまう。
「莉子……」
体が熱くなっているのを感じる。その距離が5cmを切ったときだった。ばたりとドアが開く音が聞こえた。
「なにやってんの?」
そこにいたのは木偶の坊こと大和。
「ななな、なんでもねぇよ」
「そそそ、そうですわ」
二人そろってどぎまぎと反応してしまう。何あせってんだよ俺は……。
「きょ、今日はありがと。またな」
気まずくなり俺は立ち上がるとその場を後にしてしまう。
「もう……あと少しだったのに」
残された少女はただただ解せないという顔を覗かせるのみだった。
さてこの章が投稿されるころには
先日受けたであろう入試の合否が分かっている頃でしょう
受かっているのならいいのですが
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