法王はかく語る。
青髪くんことアイン・アフローデ視点。
BとLな話しで、こんにちはヤンデレさん第2弾。
にこやかに微笑むアインに、大して美しいわけでもない女は笑い返した。
女の後ろにいる同胞が抱える包の中は、母親が限りなく騒音に近い声でしゃべっても健やかな寝息を立てているようだ。
そういう図太いところが永遠に失ってしまった彼を思い出されて…アインの笑顔にひびが入り掛けた。
大神殿で彼の側にいるために飲んだ交換条件とはいえ、父親含み男たちに身体を弄られオンナとして扱われ続けたアインは男が嫌いだ。
そして、人数は少ないが貴族の身持ちの悪い女たちを相手にしたこともあるため、女も同様に嫌っているアインだったが、それとは別の意味で目の前の女を嫌っている。
いや…『嫌っている』なんて生ぬるい、『憎んでいる』のが正しいだろう。
何故なら、失った彼の子を産んだと主張するのだからそれも当然である。
「名乗られたときにおっしゃっていましたが、あなたは貴族の血を引いていらっしゃる。当時のあの方はまだ一介の神官でしたのに、何故?」
神殿での身分の提示は基本的にしていない。
過去には表面上だけであったが、アインが法王に就いてからは王族であろうと名を明かすことは許していない。
それは貴賤関係なく神殿を開くという崇高な理由ではなく、王族を優先した結果に彼を失ってしまったことを教訓にしているのに他ならない。
しかしまあ、それが浸透するのはまだ先なようで、当たり前に身分を笠に着る目の前の女のようなものも未だにいるのだから笑ってしまう。
むしろ、家名どころか名前すら聞く価値のない女だが、訪れた理由が理由なだけにこうして対面しているのだ。
つまり逆をいえば、魔王を討伐した英雄の一人で、没した今聖人として名を残すこととなった彼の子を抱えて途方に暮れていると懇願して来なければ、決して自分から会うことなどない種類の女である。
「いいえ、当時は確かに一介の神官さまでしたが、旅の途中に当家に立ち寄られた際にお目に掛かり……」
アインに流し目を送りつつ、女は言葉を垂れ流す。
長々と語っているが、集約すると魔王討伐の旅の途中に立ち寄った幼い彼のすばらしさに惹かれ、結ばれたというらしい。
正直、失笑ものの話だったが、頬を赤く染めた女はそれはかくも悲しい恋物語にしたいようだ。
自分を女主人公にして美しい恋物語として演出しているようだが、女が話すことが本当であれば幼い彼もまた、アインと同じように権力を笠に関係を迫られたとも考えられる。
何せ、女は貴族であり、幼い彼は当時とても幼く、しかも魔王討伐のために派遣されたとはいえ、権力を持たないだたの神官だったのだ。
第一、魅力の全く見られない女よりも、彼自身の方がよほど可愛らしく魅力に溢れた人間だったとアインはずっと昔から知っていた。
尤も、この短い時間で女の自己顕示欲の強さを看破していたアインは、容姿が可愛らしいだけの一介の神官に手を出すような人物には思えなかったので、死人に口なしとばかりに狂言をでっち上げたとあっさり見抜いていたが。
まあ、確かに未婚であり浮いた話のない神官で、しかもすでにこの世にいない相手であれば好き勝手出来るだろう。
英雄にして、聖人の子の母親というだけで箔も付くだろうし、引く手あまただろう。
神官はすでにこの世になく、なおかつ聖職者とは婚姻を結べないのだから、未婚で子を産んだことを咎められないかもしれない。
…そんな、浅はかな計算をその軽い頭でしていることが丸わかりである。
普通に咎められるだろうし、傷物な女は貴族社会ではろくな婚姻を望めないだろうに、自分の脚本だか自分の演技だかに酔いしれているらしい女はアインの冷ややかな目に気付いてはいなかった。
「シイナ」
「はーい」
いやに間延びした返事をした後輩であり同胞である青年は、アインの無言の指示を静かに実行した。
すやすやと図太く眠り続けている子どもの小さな指の先にナイフを当てると、その柔い皮膚から赤い雫が盛り上がる。
ナイフで血を出させた同胞は、それをじっと銀色の目でその赤い雫を見下ろしていた。
彼の【停止する時間と死を司る男神】と同色の瞳は特別だ。
アインには視えない何かが視えるらしく、今は亡き幼い彼にまとわりつく何かが【停止する時間と死を司る男神】の執着を表していると教えてくれたのもあの瞳のおかげだった。
そして今はその瞳を使い、過去に彼が教示した血による親子関係を調べてくれている。
親子関係を血によって調べるなどと、おもしろいことを教えてくれたのは、もしかしたらこの日のためだったのかとアインはあの夜を思い出していた。
孤児院にいた頃は自分よりも小さな子どもたちの世話に追われていた彼の時間は、夜ですら小さな子どものためのものである。
しかし、王都の大神殿では信頼する相手の少なさから、それとも寂しさを紛らわせるためか、身を寄せ合うように幼く華奢な身体をアインに寄せて来ていた。
あの時間がどれ程まで尊く、そして愛しいものだったかアインだけが覚えていればいいと思う。
まるで戴冠式のように、花で出来た冠を青い髪に乗せて微笑んだ顔もアインだけのものだ。
「終わったよー」
薄暗い部屋の、崩れかけた屋根から降り注ぐ星々の光に照らされた、幼く愛らしい顔立ちを思い出していたアインを現実に戻したのは同胞の暢気な声だった。
こいつはアインにとっては同じ志を持つ頼れる同胞であるが、同時に彼を巡るライバルである。
自分とは別の意味で周囲から弾かれていた同胞を、いつの間にやら懐に入れて可愛がっていた彼。
眠そうな顔立ちとは裏腹に、幼い彼の懐に入るそのすばやさとアイン以外が気付かなかった彼のすばらしさを理解しているところは称賛してもいいが、二人っきりの時間を邪魔し続けたことだけは許していない。
夜は呼出が多く、アインが勉強会に出られないときも一緒にいたことを許していないし、ついでに魔王討伐後にいつの間にか勝手に世話係になっていたことも同様に、だ。
孤児院の小さな子どもたち、先生の舎弟たちと切り離し、彼宛ての手紙を握り潰して独占するつもりが、思わぬ強敵を作ってしまったのはアインの誤算であった。
大浴場があるのに、何故わざわざタオルで幼い彼の身体を拭いてやってる。
同性なんだから、トイレは付き添いだけでいいのに何故尿瓶なんて使って排尿させようとしていたんだ。うらやましい。
まあ、魔王討伐という濃密な時間を過ごした仲間や物欲しげな顔で幼い彼を見ていた大神殿の神官共から隔離したことや、あの華奢な肢体によく似合う美しい鎖を用意したアインを絶賛してくれたことだけはさすが同胞、なかなか見どころがあると褒めてやってもいいとは思っているが。
嫉妬のあまりギリギリしたい気持ちを抑え、アインは『法王』という地位とその顔立ちにうっとりとこちらを見ている女に目を向ける。
結果は知れているが、それでもあの彼との子どもが指の先だろうが目の前で傷付けられたというのに、そんなことも気にしないで目の前の有能な男に魅入っている女に嫌悪感しか抱けなかった。
もし、万が一にも彼の子どもがどこかに存在するのであれば、アインはどんな場所にでも自ら赴いて、そしてどんな害悪からも護り、永遠に失ってしまった彼の分まで愛して慈しむというのに、目の前の女の恥知らずな態度。
到底、見逃せるものではなかった。
今後、彼の名を貶めようとする者たちが沸くことを考えれば、ここで何かしておこうと自分の嫉妬による八つ当たりを正当化したアインは、頷き一つして同胞へ合図を送る。
始末しよう、そうしよう。
出来るだけ派手に、そして今後誰も同じ手を使わないように、徹底してこの『聖人の子を孕んだ』とよりによって大神殿で嘘の告白をした女を叩き潰そう。
アインは視線だけで同胞を動かし、女の退路をこっそり断ちながらどうしてやろうか頭の片隅で考えた。
アインは男だし、彼もまた同性だったのだから、どんなに焦がれても、例え嘘でも二人の間には子など出来ようがない。
だからこそ、女というだけで彼の子どもを産んだという狂言を展開出来る目の前の愚か者に嫉妬しているのだ。
認めよう、アインは嫉妬している。
だから、苛烈な処刑法が次から次へと思い浮かぶのだ。
もし、彼が女という性を持っていたらきっと自分はあの無垢な人を組み敷いていただろうことは想像が付いた。
男も女も汚らしいと嫌悪していたのに、そんな衝動はアインにとってははじめてのことである。
いや、彼であったら女だろうと同性で子が作れなくても衝動のまま好き勝手に触れてしまうことは想像に難くない。
自分の容姿を最大限に使い、身体を使って多くの支持者を得ていたアインは快楽というものが根強くその相手の精神に影響を与えることをよく知っているため、いっそのことあの無垢な彼を貶めて穢し、堕落させたいとすら思っていた。
どうせ、心は別の人間ですらない相手に向かっているのだから、快楽を与える存在として執着されたいと考えるくらいいいだろうと思っているのだが、そこだけは同胞とは意見が合わず、ちょいちょい邪魔に入られていたのだ。
女の背後にいるため、どうしても視界に入ってしまう眠そうな目を見てついつい過去のことを思い出してしまい、処刑法がどんどん過激になっていくことにアインは気付かなかった。
孤児院からの大量の手紙についてと、英雄唯一隠し子疑惑のあった神官の話。あと、鎖の送り主が発覚。
アインがどろぐちゃに穢した後、ガラス玉のような目をした神官を清めて良い子良い子するシイナっていい組み合わせ!とか考えてじりじりと距離を詰めようとする二人を想像したけど、天然悪魔(小悪魔ではない)にしてヤンデレブレイカーな神官の無自覚無双が発生して断念した。




