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暗殺者はかく語る。

後輩こと、シイナ・レレーニア視点。

BでLな話しで、こんにちはヤンデレさんな回。

白髪に銀の瞳は不吉なしるし。

【停止する時間ときと死を司る男神】の色。

だからシイナは親に捨てられた。


捨てられた場所が大神殿の前で、そして【生命と誕生を司る女神】から膨大な法力を借りられる存在だったから殺されずに済んだのであって、そうではなければとうの昔に死んでいただろう。

そのことが成長にするにつれて自覚出来るようになっていたシイナは、『死神』と呼ばれて疎まれ避けられ、大神殿内での汚れ仕事をさせられながも平然と生活していた。


「わー、まっしろー。ふわっふわっ!」


「え……?」


そういって飛び付いて来た小さなあの方に出逢うまで、シイナの世界は無機質で乾き切っていた。


小さなあの方は、無垢で無邪気で無知だ。

だからこそ、あからさまに疎まれているシイナとも関われるのだろう。

理由は違えど同じように他から弾かれてしまっている青い髪の少年とだって、平然と関われるその図太さにひたすら感心する毎日だ。

そして夜、崩れ落ちた小さな部屋で過ごすあの穏やかで楽しい時間が、最初から壊れているシイナをニンゲンにしてくれた。


なのに、彼は殺された。

『先輩』などという他にも呼ぶ対象がいる名称ではなく、唯一絶対の『あの方』と呼ぶ、シイナにとって神にも等しい存在が殺された。

『大切な仲間』だとあの方が笑顔で話していた、剣士と姫君。

己の欲望のためにシイナの唯一を物のように扱った、あの姫が呪いを肩代わりさせたからだ。


それなのに、呪いを自分に移したあの方は決して弱い姿をシイナには見せなかった。

王宮の外で待っていたシイナの元に辿り付いたとき、あの方を侵す呪いは顔にまで及んでいた。

どう見ても呪いだとわかるその姿は、末期の状態を指す。

それでも泣き言をいわず、よろめきながらも自分で歩こうとする姿にシイナの方が泣きながら縋り付きたい気持ちになった。


同胞である青い髪の青年の元へ行こうと、あの方を抱えて急いで大神殿に戻ったシイナだったが、それを阻まれて奪い盗られてしまう。

虚ろな目をしたあの方を取り戻そうと、奪った上位神官を殺そうと殺意を飛ばすシイナを数人の聖騎士たちが取り押さえ、あの小さな姿は閉ざされた扉の向こう側へと押し込められた。

中から時折聞こえる絶叫に、釘が打ち付けられ聖水を掛けられたその扉をこじ開けようとするシイナ。

あんなもので呪詛が防げるなんて、視えない奴らはバカだと本気で思っていたのに、今のシイナを阻むのはそんなバカな奴らだった。

そして、絶叫が聞こえなくなり、不気味な程静まり返った部屋の中で唯一の存在が儚くなったことに気付いたとき、シイナは再びニンゲンではなくなったのだ。


「おまえ!誰がここまでお前を重宝してやったとおもぐきゃっ!」


「申し訳ありません、父上。聞こえませんでした。もう一度おっしゃって下さいませんか?」


優雅に腰を下ろしているのは、この大神殿…ひいては全ての神殿と神官たちの頂点に君臨する法王のみが座ることを許された場所。

そこに青い髪の同胞が腰を下ろして蠱惑的な笑みを浮かべている。


母親譲りの美貌で父を操り上位神官の手から手へと渡り歩いていた彼は、ついに本懐を遂げた。

同性であっても思わずむしゃぶり付きたくなるらしい、そんな魅力を持つ彼は多くの支持を得て法王の座へと就いたのだ。

同じ志を持つ彼の、敵を蹴散らし、ときには葬り去るのを厭わない苛烈な部分を近くで見て来たシイナには、同胞の血縁上の父親が何故ああも自分が権力を得たと勘違いして喜んでいるのか全く理解出来ない。

もっといえば、同胞が己の命令を聞くと思い込んでいる姿が滑稽で仕方がなかった。


「父上…何も用件がないのでしたら、ここから退出して頂けませんでしょうか。私はこれでも忙しい身の上でして」


「おまえ、おまえ……そのしにがみをつかえるからとかんちがいすがぎゃっ!?」


「………シイナ」


「ごめんね?」


呆れた顔を向けて来る同胞に、面倒事をさっさと片付けるのを邪魔したことを謝る。

しかし、薄汚い血液の付いたナイフを仕舞うことも、痛みにのたうち回る法王となった同胞の血縁上の父親の側から離れる気はない。

それについては特にどうでもいいらしい。

指摘されないのをいいことに、そのまま薄汚い血を垂れ流してひぃひぃ鳴いている肉塊を見下ろす場所で同胞の八つ当たりを見守ることにした。


「勘違い…ですか?あぁ、大丈夫ですよ。私は自分が優れているとも慈愛に満ちているとも、…ましてや魔王を倒した英雄だとも思ってはおりませんよ」


同胞の唇がつり上がる。

彼がどれ程嘆き、苦しんだか近くで見ていたシイナは知っていた。

唯一絶対の存在を崇め奉るシイナとは違う感情をあの方に向けているらしい彼は、自分がその功績を奪ったことを存在を失った後も未だにひたすら憂いている。

あの穢れを知らない黒みがかった紫色の瞳に自分だけを映し、誰の目にも触れないところに隠しておきたいという気持ちを持ちながらも、あの方は皆に称賛されて当然だとも思っているらしい。

だからこそ、正当に評価されずに良いように使っていた己の血縁上の父親と、計画上断ることの出来ない自分に怒りを抱いていた。

…俗世に暮らす者たちの薄汚い視線から隠しておきたい気持ちは同意するが、同胞はどうも面倒な性格をしているようだ。

矛盾する思いを抱えている同胞をこっそりめんどくさそうな顔で見詰めるシイナは、長々と口上を述べる彼が満足するまであの方と過ごした日々を思い出すことにする。


あの方が魔王討伐の旅に出掛ける前の穏やかな日々。

仕事を知る神官たちから避けられていたシイナに、ごく当たり前に触れた小さな手。

先輩風を吹かせて胸を張る可愛いらしい姿。

質素な食事でも気にしないで頬張る幸せそうな笑み。

夜、知らない知識を授けてくれる意外な博識さ。


討伐後、閉ざされた部屋での退屈そうな顔。

質素な食事を唯一の幸せだといわんばかりに口いっぱいに頬張って浮かべる笑み。

部屋を出るたびにシイナに延ばされる小さな手の平。

どんどん弱り、更に儚さを増す細い輪郭と真っ白な肌。

同性とは思えない、華奢な肢体。

心細そうに揺れる、美しい瞳。


明るいところも奔放なところも掴みどころのないところも子どもっぽいところも適当なところも無知なところも変に博識なところも優しいところも無垢なところも無邪気なところも、自分以外の人間ですらない男に思いを寄せるところも。

全て、シイナは愛していた。


「シイナ、もういい」


「…ちっ」


「………お前なぁ」


舌打ちしたところを咎めたのではなく、仕事中にあの方を思い出していたことに対しての反応だろう。

自分の知らないあの方の姿を見ている嫉妬も混じっている、そんな同胞の視線を知らんぷりして流す。

せっかく、美しい記憶を思い出していたのに汚らしい現実に戻されたのだから舌打ちぐらいしても【生命と誕生を司る女神】も許してくれるはずだとシイナは自分を正当化した。


「始末してくれ」

「はーい」


軽い返事をしてナイフを振るうシイナは、肉塊をひたすら切り刻んだ。

本当は汚い断末魔なんて聞きたくないのに、やはりシイナも内心はこの肉塊を憎んでいたのかもしれない。

ニンゲンらしさなど、あの方が儚くなってから亡くしたと思っていたシイナはまだ自分に残っていた感情に笑みを浮かべた。


「さて、後片付けを終えたら」


「やっと、あの部屋を開けることが出来るんだねぇ」


「あぁ…。待たせてすまないな」


その謝罪は、シイナへのものではないのだろう。

きっと、力及ばず死してもなお、部屋に閉じ込められているあの方への謝罪だ。


シイナは黒い呪詛の証が這いずり回る、華奢な身体を思い出す。

あの方の姿を見た者たちは皆、口をそろえて『汚らわしい』といっていた。

しかし、シイナにとってはあの方のどんな姿も尊いものでしかない。


ただ、生前のあの方が手紙を書く、便せんに向かって相手しか考えていないあの瞬間だけがどうしても好きになれなかった。

思わず、丹精込めてあの方が書き上げたものを握り潰してしまう程に。

しかし今では、もうシイナの記憶の中にしかない便せんに向かっている姿すらも愛おしく感じられた。

後輩の中での神官は、穢れないものであり穢しちゃいけない存在。美化しすぎでコワい。そして、届かない手紙の行方。

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