神官はこっそり準備に勤しむ。
珍しくデブハゲ以外の上級神官に連れられて部屋に入れられた先で、思わぬ再会を果たした。
ひ、姫さまだー!!
上級神官と後輩とは部屋の外で別れたのでさっさとベールを外して走り寄る私に、姫さまは以前と同様な態度で接してくれる。
彼女の旅をしていた際と変わらない態度に、結婚式に呼んでもらえなかったのは本当に剣士さんが再婚相手に遠慮して連れ子を呼ばなかったんじゃないかっていう結論に達した。
まあ、どこの世界でも継母継子の関係は繊細で微妙だよね、白雪姫とか。
結婚に対するお祝いの言葉をいった直後に告げられたまさかの妊娠報告に、一瞬にして日数を計算してしまった私は悪くない。
えっ、旅の間に作ったの剣士さん。手が早くない!?
…そう思ったけど、単純に私の勘違いだった。
自分で大神殿監禁生活がずいぶん長いと思ってたのに、実際に旅の終わりからの月日を聞いて思わず遠い目になっちゃったよ。
さて、『はい、よろこんでー!』以外の返事は認めないといわんばかりの姫さまの笑顔にビビりつつ、私は彼女の頼みを受け入れた。
と、いうか姫さまってヤンデレという人種だったんだね…。
魔法ですら、自分以外の術者が剣士さんにかけるのを厭うんだよ?
しかも、自分が死ぬことで剣士さんの心に傷を残したいなんて捨て身のヤンデレを発揮してるし…ハイライトの消えた姫さまの目がチビりそうなくらいコワかった。
イっちゃった目をした美少女妊婦さんの断れない『お願い』を受けたその日から、それからはもう『ひまだ』っていってぐてーんとしている暇がない程にすごいスピードで日々が過ぎていったよ…。
偽名を使って定期的に大神殿に通って来る姫さまから血をもらって、それに浸けて色付けした糸でひざ掛けと座布団を作って剣士さんに贈ってもらう。
直接剣士さんに私が神聖魔法を使えないから、糸でこっそり術式を縫い込んだんだ。
座布団なんて厚みがあるから、特に術式を隠すのに便利だよね。
旅しているときには考えもしなかったけど、今は王さまになるために机に齧り付いているからこそ出来る贈り物だ。
ちなみに、何故に糸を染めるのに姫さまの血を使ったかというと、姫さまを介しておなかの子どもの血を術の媒介にしたかったから。
大神殿の禁書棚を青髪くんにこっそり開けてもらって調べたら、本来であれば対象になる相手の血が必要だったんだけど、バレちゃうから勝手に剣士さんから血をもらうわけにはいかない。
頭を悩ませて更に禁書を探して考えた結果、対象者の最も近い血縁者でもいいんじゃないかって結論に達した。
まあ、まだ生まれてないけど。
胎児はお母さんとヘソの緒が繋がってるから、多少は姫さまに子どもの成分が流れ込んでるって前提でこの方法を提示したら、成分が薄い分を補うために彼女は笑顔で毎回大量の血液をくれるようになった。
美少女の笑顔がこんなに怖いとは、思いもしなかったよ…。
血液に含まれる成分が子ども、姫さまと介しているから薄くて対象を特定するのに苦労しそうだけど、そこは術式を編み込んだひざ掛けと座布団が補うってくれる。
それでも足りない分は……うん、私が頑張るよ。
と、いうか姫さま。
魔王が剣士さんに術を施したのが許せないのに、私がしてもいいの?
あれ?これって巻き込まれ死亡ふら………いやいや、なんでもないよ。
こうして、万全の準備を終えて、あと数時間でいざ決行となった日。
私は王宮へと呼び出された。
大神殿に弱みを見せたくないらしい王宮側の急な要請に首を傾げつつ、いつも通りのベールと鎖のセットを強制的に身に付けさせられた私は後輩に手を引かれて向かった先で。
「ひひひひひ、姫さまが産気付いたーっ!?」
予想外の事態に、絶叫することとなったのだった。




