神官は獣人の名を知る。
ホモっぽいやりとりをする神官と獣人さん。
「アハハッ」
「…っ!?」
自分の笑い声で目が覚めた。
見覚えのない天井をボンヤリ見ていた私は、ここが最後の町の宿屋だと思い出す。
…正確にいえば、ここを出てすぐに魔王と遭遇したから『魔王戦前に最後に寄った町』なんだけどね。
「…なんか、前世の夢を見た気がする」
よく覚えてないけど、久し振りに前世の夢を見た。
孤児院にいた頃はかなりの頻度で見てたけど、最近はずいぶんとご無沙汰だ。
あれかな、私もここに馴染んだってことだね。
「ふふふ~…うん?どうしたのエルフくん?ゴキでも出た?」
「……出てない」
ツンとした対応をしたエルフくんが、イスの上でしていた体操座りを崩す。
足を床に着かないようにして、身を縮めてたからてっきり黒い悪魔が床に出たかと思ったんだけど、違うのか。
「エルフくん、獣人さんは?」
ツン対応でもきちんと答えてくれるエルフくんが無言で指差した先を目指して、私は出掛けることにした。
「ふふふ服ぐらい着替えろーっ!!」
「わわっ、ごめんねー」
着替えをきちんとして、エルフくんの前でくるくる回ってオッケーをもらった私はてくてく歩いて町の端っこまでやって来た。
…魔王討伐が終わって、みんな精神的に楽になったからか、過保護さに磨きが掛かってない?
獣人さんはオカーサンだから最初から過保護だけど、エルフくんも最近は加わってくる。
まさかの過保護な兄(エルフ種)までゲットとか?
すごいな、異世界。
異世界のすごさを再確認した私は、町の端っこで昼間なのに黄昏ている真っ白なヒトの背中を見付けて走り寄った。
何となく、ほっとけない気分になる背中をしてるから、私は全力疾走しながら彼に声を掛ける。
「あっ!獣人さーん!!」
「あぁ、チビしんかぐはっ!?」
あっ、ヤバいヤバい、力加減失敗しちゃった☆
笑って誤魔化せ!
「てへぺろ☆」
「お、お前という奴は…」
おろ?
全力でぶつかったのは腰なのに、なんで鼻を押さえてんの?
魔王戦中の私みたいに、内臓破れた?
「気にすんな。で、どうした?コワい夢でも見たのか」
「獣人さん、私をいくつだと?」
なでなでしても、許しませんよ、獣人さん。
子ども扱い禁止!
ぺしっ!と手を払い除けるけど、獣人さんはニコニコするだけだ。
マゾか…?
「元気だな」
「おかげさまでね!」
魔王戦で腹パンチを食らった私は、やっぱり内臓が破れていたらしい。
エルフくんは瓦礫に激突したときと魔王に蹴られたときに折れた骨と、それが突き破ったせいで裂けた身体と出血。
獣人さんは全身の火傷。
剣士さんは全身の裂傷。
姫さまは切り傷。
全員が全員、満身創痍だったらしい。
姫さまだけ軽症だったみたいだけど、魔法使いだからその程度で済んだみたいでよかったよ。
回復役の私と遠距離攻撃担当のエルフくんがやたらと重症なのは、魔王と直接対決したせいだからしかたないよね。
もうダメだと思ったのに、気付いたら最後の町に戻っていて驚いたのはつい一週間前のことだ。
心配そうに私をそれぞれのベットの上で見下ろしていたのは、獣人さんとエルフくん。
それぞれ全身に包帯を巻き、痛みがあって動けない状態なのに私が起きたことにホッと安堵の息を吐いた二人は本当に過保護で優しい。
そんな二人が、寝ぼけてぼんやりしている私に顛末を話してくれた。
魔王は倒された。
…うん、あっさりしてる。
と、いうのも、二人だってその場面を見たわけではないから仕方ないよね。
目を覚ましてすぐ虫の息の私を抱きかかえ、エルフくんも回収した獣人さんが見たのは魔王の残骸に剣を突き立てた剣士さんだったそうだ。
彼も全身血まみれで、けっして無事とはいいがたい姿だったそうだけど、死闘の末に魔王を倒したらしい。
疲れ切った顔で溜息を吐いた剣士さんはそれだけいって、倒れ伏していた姫さまをだっこして魔王の残骸をそのままに二人で町へと帰還したそうだ。
残骸がそのままでも、剣で真っ二つになった魔王の核を持って来たから討伐成功の証拠になるみたいだ。
…残骸って何?
意外に苛烈だったらしい剣士さんが、あのムダに整った顔立ちの魔王をどうしたのかは聞かないことにした。
魔王が放った最後の攻撃が不発だったから勝てたらしいけど、一人で魔王を討伐しちゃった剣士さん、意外にもチートだったんだね…。
町に着いた途端、安心してばたんきゅ~しちゃった剣士さんと獣人さん、そして彼らに抱えられたいた私たちはあんまりにもひどい状態だということで町の神官のおじーちゃんに癒してもらって無事、生還出来たのだった。
とはいえ、神官のおじーちゃんの神聖魔法では生命力を底上げするのが精一杯だったから、せめて私の法力が回復して、みんなを完全に癒せるようになるまで滞在することになったのだ。
本当は早く国に帰って、魔王がいなくなったって報告して安心させたいだろうけど、姫さまも剣士さんも誰もが私を急かすことなくのんびりと過ごすようにいってくれたので、お言葉に甘えてこうして過ごしていた。
「と、いうわけで!」
「どういうわけだよ」
いつも通りのツッコミを入れる獣人さん。
呆れた顔と声、そして鋭いツッコミはキレがある。
だからもう、大丈夫だね。
「帰ろう」
みんなのところへ。
私たちが暮らしていた、あの国へ帰ろう。
一週間掛けて、みんなを癒しつつ私は法力を回復させた。
ゲームみたいに魔王を倒したら『めでたしめでたし』って感じでスタッフロールが流れるわけじゃないから、これから行きと同様の時間を掛けて帰んなきゃいけないんだよね。
だからみんなの回復はもちろん、私の法力の回復も必要不可欠だったんだ。
ゲームみたいにワープ出来ればいいのに…姫さま、いつか魔王みたいにワープの魔法を覚えて下さいね?
「大丈夫か?」
そんな心配そうな顔をしないでよ、オカーサン。
からかおうとすれば、その気配を察したオカーサンは憮然とした表情を浮かべた。
「お前、あんな状態だっただろうが」
「それ、みんなそうだったよ」
「それでもだ」
むしろ、エルフくんが一番ひどかったと思うけど…。
エルフくんも気にしなかったから良いものの、魔王戦後目覚めてすぐに私を回収してくれた獣人さんってやっぱり過保護だと思う!
いや、単純に回復役だから真っ先に確認されただけだと思うけど、あの時の私は法力が枯渇してたから誰も治せなかったけどね。
ムッとした顔をしてこっちを見る獣人さんに、私はくふくふ笑う。
だってさ、うれしかったんだよ。
過保護でもこんなに心配してくれるヒトがいるんだってね。
「もう、大丈夫だよ!だから、もう帰ろうよ」
「帰る……か」
ありゃ?なんか遠い目をしてるよ。
獣人さんの視線の先には真っ青な空しか見えないけど、どうしたんだろう?
視線の先にあったサバみたいな形の雲を一緒に見上げていた私は、なんかしんみり?しょんぼり?してる獣人さんを元気付けようと明るい声を出す。
「帰るまでが遠足…じゃなくて、魔王退治だよ!」
「あ、あぁ、そうだな?」
何、その疑問形。
そして何故、噴き出すの。
解せぬ。
でもまあ、もくろみ通りにいつも通りの雰囲気になった獣人さんは頭をぽんぽんしてくれたので、心の広い私は許してあげることにする。
「なぁ、チビ神官」
「なーにー?」
未だに『チビ神官』呼びもまた解せないけど、私は普通に返事をする。
すると、お天気なのに私の上に出来る影。
「え………?」
驚いて見上げると、そこにはちょー至近距離に獣人さんの顔があった。
ちょ、ちょっとこれ、ちゅー出来る距離だよ、息当たってるよ獣人さん!
ところで私、息臭くないよね!?
あわあわする私なんか気にも留めない獣人さんは、さすがおねぃさんやガチムチ兄貴たちに追い掛けられ慣れているだけあってこの距離でも平然としている。チッ。
いや、今『フッ』っていってたから、どうせ前世込みでモテなくてこんな状態に慌てる私を笑ったんですよねーリア充爆発しろ!!
「お前、可愛いな」
「ううううううっせぇ!」
「その口の悪さは、オレらのせいか?」
甘い声出しても、許さないんだからな!!
ちくしょー、女慣れしてる獣人さんに太刀打ち出来ないよ!
つーか、どういう状態なの今!欲求不満なの、獣人さん!
このまま私、獣人さんとちゅーしちゃ……
「これからいうことは、誰にもいうなよ?」
「ひゃん」
「……オレにとって、獣人っていう種にとって大事なものだから、お前の心に留めておいてほしい」
みみみ耳元で囁かないで!
わかったから!ちゅーじゃなくて、内緒話だからこんなに接近してるんだよね!
もう勘違いしないからやめて!すぐにこの拷問を終わらせて!
そんな思いを込めてぶんぶん頭がもげるほどの勢いで頷く私に、獣人さんの視線が突き刺さる。
でも、離れる気配はない。
あっ、耳元の空気が震えてるから笑ってるな、この野郎!!
「じゅうじんさん!」
「悪い悪い。あのな」
うひゃっ、内緒話って耳に唇くっつけながらするもんだっけか?
異世界こわい…。
流し込まれる、低くて甘い声がこわいです!
「聞こえたか?聞こえないなら、もう一度」
「きききききこえました!」
『もう一度』って、もう一度これすんの!?
慌てて返事すると、やっと獣人さんは離れてくれた。
って!やっぱり笑ってやがる!!
「きぃ~~~!!」
「落ち着け、おサル。それはな、オレの名前だ」
「落ち着いてられ…えっ、名前!?」
獣人さんが頷く。
あれ?今更、何でこんなところで名乗ってくれたの?
「えーと、ら」
「呼ばないでくれ」
じゃあ、何で名乗ったの!?
ムッとすると、獣人さんは笑う。
笑ったばっかだな、このヒト。
「普段は呼ばないでくれ。でも、知ってほしかった」
「はぁ……」
よくわかんないけど、獣人さんは満足そうだ。
なんだろう、よくある真の名を知られるとマズいのかな?呪われちゃうとか?
「この旅が終わる前に、お前に教えられてよかった」
「そう…ありがとう?」
「ああ」
私の返事は疑問形なのに、やっぱりうれしそうな獣人さん。
よくわかんないけど、まあ獣人さんが喜んでるんならいいか。




