神官は最後の戦いに挑む。
野生の魔王が現れた!
回り込まれて逃げれない!
RPGの主人公たちって、どんな気持ちで最終局面に臨んだのだろう。
そして、『お約束』な展開をどんな気持ちで迎えたのだろうか。
ゲーム画面から、彼らのセリフを見ていた私は本当の意味では主人公たちに同調していなかったんだと今はわかっている。
うん、そんなことわからなくてもよかったよ☆
「おおおおおお約束展開かんべんしてぇぇぇぇっ!!」
私の悲鳴は、間近で上がった轟音と気合の声でかき消された。
最終局面、つまり魔王戦に挑んでいるんだよ!意味が判らない!!
いや、わかってる。私たちが魔王討伐の旅に出てるんだから、最終目的は魔王と戦うことだってことは!!
そうじゃなくて、なんで薄暗いダンジョンの奥深くじゃなくて、ただっぴろいだけの荒野で戦闘が開始された意味が理解出来ないの!!
「ひ、姫さまとエルフくんは私の後ろに!!」
二人が私の陰に入ったことを確認する余裕なんてものはない。
無意識に呪文を紡ぐ口とは別に、冷や汗が止まらない私は恐怖のあまり目を逸らすことが出来ずに目の前の光景に釘付けになっていた。
薄い膜のようなシールドが実は頑丈であるのはすでに何度も体験しているから知っているのに、紫がかった毒ブレスが直撃して震えるため、はじめて強度に不安を抱く。
どんだけ強いの!?いや、魔王だからなの!?
どこからともなく現れて挑んで来たヒト型の魔王は、ズタボロになってからお約束な第二形態のドラゴンとなってもまだまだ楽しそうに戦い続けている。
戦闘前の口上?での内容から、彼は戦闘狂いという生物なのはわかっているけど、『どうぞ自分と同じ趣味のヒトと仲良くヤリ合って下さい!』と土下座したい気分に駆られる私は悪くないはずだ。
最前線にいる剣士さんと獣人さんも私と同じ気分のはずだ、たぶん。
「ぐ、ぐぅぅぅぅっ!はぁ………はぁ………」
踏ん張ってシールドを維持し続けた私は、やっとブレスが逸れたために一息つく。
といっても、荒い息を吐くだけだ。
だって、ブレスを逸らすためにドラゴンに単身殴りかかってくれた獣人さんが今度の標的になってるからのんびりなんてしてられない。
そう思ってまだ荒い息で神聖魔法を紡ごうとする私より先に、後ろから轟音と共に炎の玉が生まれて打ち込まれた。
無事にシールドに護られていたらしい、姫さまの魔法だ。
「ぎゃあぁぁぁっ!?」
「あ、あれ———!?」
魔王ドラゴンじゃなくて、獣人さんの野太い悲鳴が響き渡る。
あ、あれだ、チートな魔法使いの姫さまでも、魔王戦という緊張と疲れで狙いが外れたんだよね、きっと。
ぷすぷす音を立てている獣人さんがポロっとドラゴンから落ちる様を見ていた私は、ブルブル震えた。
「よそ見するな!!」
「なめんじゃねーぞ!!」
エルフくんの放つ魔法が込められた矢が雨のように魔王ドラゴンに降り注ぎ、剣士さんの大きな剣が巨大な羽根をぶった切る。
魔王ドラゴンの意識がこげこげ獣人さんから逸らされたのを確認して、私は彼の元へと駆け寄った。
剣士さんとエルフくんが作ってくれた機会をムダにするわけにはいかない!!
「じゅうじ…くさっ!?焦げくさ!!」
「ひでぇ」
「今から神聖魔法使って、治すからそれまで耐えて!!」
「ほんと、ひでぇな」
こんがり焼けているから相当熱かったみたいで、意識が混濁しているみたいだ。
私、クサイナンテ失礼ナコトイッテナイヨ?
きっと、獣人さんの意識が混濁しているから聞き違いだよ!
「もういい」
半分も身体が治っていないのに、獣人さんは私を止める。
「でも!ちゃんと治ってない!!」
「お前の法力だって、もうほとんど残ってねーだろうが」
獣人さんの指摘に私はグッと詰まる。
彼のいうとおりだ。
「でも、それはみんな一緒で…」
「いいから!!」
「獣人さん!?」
剣士さんと獣人さんは体力、姫さまとエルフくんは魔力、それぞれ消耗している。
だから私だけじゃないといい募ろうしたのに、それも聞かずに獣人さんは飛び出していってしまった。
彼はそのまま、剣士さんが魔王ドラゴンの爪と力比べをしているところに乱入する。
「神官!!」
「ふへっ……?ふぐぅぅぅぅぅっ!!」
「チビ神官!?」
エルフくんの切羽詰まった声に振り返ろうとする直前、前方から迫り来るものに意識が向かなかった。
シールドを張る余裕なんて私にはなく、直撃した勢いのまま魔王ドラゴンの尻尾に吹っ飛ばされる。
私の悲鳴に獣人さんはこちらに向かって来ようと足を踏み出そうとしていたけど、飛び退こうとする剣士さんに首を掴まれていた。
あっ、獣人さんの立ってた場所に姫さまの最大火力での魔法が噴き出してる。
まるで噴水のように噴き出すそれは、マグマだった。
さすがの魔王ドラゴンも、地面が震えるほどの絶叫を上げるだけある攻撃だね。
思わず、現実逃避。
いや、だってさ、無事に済むとは思えないし!?
遺跡?みたいのがボロボロの状態で残ってて、それに勢い良くぶち当たったら見事、私が魔王戦の第一脱落者になるよ!?
「神官っ!!」
「え、エルフくんっ!?」
そう思ってたら、弓を投げ捨てたエルフくんが私に飛び付いて、勢いを殺そうと足を踏ん張る。
だけど、あまりにも私の勢いがすごすぎるのと、背後にあった瓦礫が近すぎたので、彼は私を庇った状態でそこに激突した!!
凄まじい激突音とは反対に、エルフくんの悲鳴は低くて短く、でもさすがの彼もただではすまなかったみたいだ。
叩き付けられたまま、ガクリと首を落とす。
し…いや、気を失っただけだ。
気を失ったことで弛緩した腕から出て、エルフくんの身体を見下ろして私は呻いた。
激突音がすご過ぎてあまり聞こえなかったけど、彼の身体からは折れた骨が飛び出ている。
真っ白な骨が場違いな程キレイで見惚れそうになったけど、だいぶスプラッターだよね、これ。
なんかみんなと旅している間に、感覚が壊れ気味な私はよろよろしながら彼に神聖魔法を使おうと手を伸ばしたのだけど。
「残念だ」
魅惑的な美声が間近で聞こえ、怖気が走る。
別に性的に感じてるんじゃないよ!鳥肌立ってるんだから!!
…生命の危機に瀕してると現実逃避したくなるんだね、きっと。
「本当に、残念だ」
いや、二回いわなくても聞こえてますって魔王さま。
つか、いつの間にヒト型になったんですか、同族の姿だと戦いづらいのでやめてもらえませんか?
「本当に残念だ。これほどまでの遣い手を、ここで失うとは」
えーと、惜しんでるのは私ですよね?
チートな私を失うのを惜しんでるんならその手をどけて下さい。
思わず敬語になっちゃってるけど、大ピンチだよ!
いつの間にやらヒト型になってすぐそばに立っていた魔王が、ボロボロの身体で腕や羽根が欠けた状態なのにも気に留めず、私の首を鷲掴んで来る。
く、くるじいっ。
力が入っているから気道が縮まって苦しいし、そのまま持ち上げられているから自重が掛かって大分痛い。
しかも、首の骨がみしみしいってるからへし折られるのが先か、窒息死が先かまったくわからないよ!
「どこかで埋もれているのであれば、探し出す楽しみもあったものを……もう少し育っていれば、楽しい死闘を演じてくれただろうに」
育っててもイヤだってば!!
うああ、あたまががんがんしてくるんだけど、てをはなしてよ、くるしくてめのまえがちかちかしてる。
あれ?あそこでたおれてるのって、ひめさま?
まえにたってたとこより、ひめさまがとおくでたおれたんだけど、もしかしてわたしみたいにふっとばされた?
けんしさんは?じゅうじんさんは、どこ?
みしみしとしまるくび、が
ざくっ!
「ほぅ…?まだ、動けるのか」
「げほっ!ぐほ、かふっ!」
べちゃっと地面に不時着する羽目になった私だけど、まだ息してるよ!危なかったー!!
額だけじゃなくて全身と口元と鼻からも汁…じゃなくて、水分をたくさん放出しつつ咳き込む私を助けてくれたのはエルフくんだ。
さっきは一瞬気を失っていただけみたいで、這いつくばりながら近付いて残っていた矢を逆手に持って、魔王の足にそれを突き刺して救ってくれたみたい。
注意を逸らしてくれたエルフくんは満身創痍だけど、その目からはまだ闘志が消えていなかった。
「しんか、んにげ」
だけど、全部いい終える前に彼は魔王の一蹴りで吹っ飛ばされてしまった。
エルフくんがひ弱なんじゃない、同じく満身創痍な魔王の蹴りがすさまじいだけだ!
「え、えるふく」
吹っ飛ばされたまま動かない彼の元へと向かおうとする私を、もう一度釣り上げて来る魔王。
腕一本で釣り上げられている私はぷらぷら揺れながら、痛々しい姿のクセに楽しそうに笑うドМ魔王を睨み付ける。
お前、ドМなのかドSなのかはっきりしろやー!!
「チビ神官!」
「獣人さん!!」
魔王にぷらぷらされている私の元に、やっぱり満身創痍な獣人さんが…って、なんで焦げてんの!?
魔王ドラゴンは毒ブレスしか吐いてなかったと思うけど、さっき治したときより焦げ焦げしている獣人さんに目が点になる。
助けに来てくれたっていうのに、そこが気になって仕方ない。
炎系の魔法はもしかして、魔王の奥の手というやつ?それに攻撃されちゃったの?
だったら、燃えやすそうな毛皮の獣人さんは危険じゃんか!?
「じゅ、じゅうじんさんっ。にげて!!」
だから、逃げてっていってんじゃん!!
私がぷらぷらされて苦しい息の中でそういってんのに、獣人さんは一歩も引く気がないらしい。
獣人さんはオカーサンだから、私のピンチをほっとけないんだと思うけど、ここはいったん引いてよ!
そう私が目で必死に訴えてのに、獣人さんは魔王と対峙する。
あぁ、魔王の目が獣人さんを捉えて離さない。危険なフォーリンラブ!?うあ、やめてー!!
「挑むのか、その状態で」
「こんなもん、ハンディだ」
うそうそうそ、やめて獣人さん!!
どこからか現れた大剣を振り下ろす魔王の方が、懐に飛び込んで私を奪還しようとする獣人さんよりも速かった。
吹っ飛ばされる真っ白な身体と、飛び散る真紅。
「うわああああああああぁぁぁぁあぁぁぁ!!」
獣のような声は祈りとは程遠く、それでも神さまというのは暇なのか、私の声に答えて力を貸してくれる。
光が集結して、今までにない威力の神聖魔法を放とうとする私に、氷の彫刻のように凍えた美貌の魔王は目を向けて本当に本当に残念そうに溜息を吐いた。
「あぁ、本当に残念だ」
三度目の言葉と共に、私の練った神聖魔法は炸裂…しなかった。
ごぼっと濁った音と共に、口と鼻から大量の血を吐いた私は、信じられない気持ちで自分のおなかを見る。
たった一発の腹パンチで、私史上最大の神聖魔法は放たれることなく消えちゃった。
しかもこれ、内臓破れてない?ヤバいよね。
「仕方ない、次のを探しに行くとしよう」
ぽいっと無造作に私を放り出して興味を失った魔王は、大剣を引き摺り歩き出す。
もう、魔王以外動く者がいないから次の獲物を探しに行くつもりみたいだ。
あんなにボロボロで、腕も羽根も片方ないのに、ヒト型からドラゴン、そしてまたヒト型になった魔王を追い詰めたのに、私たちはこれで終わりなの…?
閉まりかけた視界の中、魔王の後ろ姿を見ていた私の前に誰かの足が見えた。
あのブーツは、剣士さん…?
「まだ、まだ終わりじゃねーよ!」
振り下ろされる剣士さんの大剣と、声に気付いて迎え撃つ魔王。
その戦いの行方を見ることなく、私の意識は闇に沈んでいった。




