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転生したら孤児の少年になってたんだけどっ!  作者: くろくろ
転生1回目・旅立ち→魔王討伐の旅終了
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女主人はかく語る。

ママさんこと、マーマシェリア視点。

「ママさん、おかわり!」


どん!と勢いよくカウンターテーブルに置かれたジョッキに、マーマシェリアはイヤな顔一つせずに先程と同じものを注いだ。

見た目はだいぶ装っているものの、気のかなり強い彼女が自分の城での無作法に、怒りを露わにしないのは実は大変珍しいことである。


「はい、どうぞ」

「ありがとうございます!」


ジョッキに並々と注がれたものを礼と共に煽る姿が、仕草が豪快でも見た目がひどく幼く愛らしいおかげだからかもしれないと、彼女は冷静に判断した。

もっとも、幼い彼を遠くから眺めている存在のせいで怒りが削がれているからかもしれないが。


「お、おい。あれって乳酒なのか?あいつは大丈夫なのか!?」


久し振りに開いた口から出たのが、この言葉である。

『アホか』と、マーマシェリアは内心思ったが口には出さなかった。


「お前、そんな可哀想なヤツを見る目をして…っ。あいつに何かあったらかわいそ」

「あれはミルクだから大丈夫よ。だいたい、あんなに幼い子にお酒なんてまだ早いでしょう」


「…誰かオレの言葉を遮らないヤツはいないのか」


耳と尻尾をしょんぼりと下げる姿は悲しそうで、かつて自分や幼い弟妹を守ってくれていた頼もしい姿とはまったく違っている。

正直、情けないことこの上ない。

マーマシェリアは幼い彼に対するときとは違い、遠慮なく噴き出してあげた。


「ぶふーっ。笑えるわね。あなたがこんなんになるなんて、他の子たちにも教えてあげたいくらいだわ」


「やめてくれ」


彼がげんなりしたのは、決してマーマシェリアの噴き出し方が残念だったからではない、たぶん。

今でこそ上品な店の女主人をしているマーマシェリアだが、大概育ちが悪かった。

そしてやはり、目の前で項垂れる情けない男にも似ているのだ。

まあ、そうでなければ、あんなに幼い彼に「女を教える」なんて依頼をいくら兄からの頼みでも引き受けたりはしないだろう。

まともに育ったヒトであれば躊躇するだろうことを、平然としようとするマーマシェリアはやっぱりどこかおかしいのだろうと自分自身でもわかっていた。


「もうすぐ、魔王が目撃された地点に着く。だからいつ、魔王との戦闘になるかわかんねぇ。いくら、あいつが優秀な神官でも、生き残れるか…。長く生きてるオレは未練なんてもんはないが、あいつはまだ幼い。やりたいことだって、まだまだたくさんあるだろうよ」

「それで、女と仲良くさせてやろうなんて慣れないお節介を焼こうとしたわけ?」


心の底から呆れ果てた声が出たマーマシェリアは悪くない。

悪いのは、居心地が悪そうにもぞもぞしている気持ちの悪い兄である。


「そんなこと、頼まれたの?」

「頼まれてなんてないが、男がほしがるもんなんてだいたい決まってるだろ?」

「うまい酒・大金・良い女って?」

「自分で良い女っていうなよ」


マーマシェリアは素早くカウンターから離れ、幼い彼から接近拒否されて樽の影から未練がましく見守っている兄の側へと近付いてど突いてあげた。

美しく育った妹からの愛情表現である。


「ぐわっ!?」


「自分の本能を偽ってでも、そんな不確かなことをなんてしてあげたいことなのかしら?」


ど突かれた箇所を抑えて呻く兄は、溜息交じりの妹の言葉に気付いていない。

久し振りに会ったマーマシェリアにだってわかったのに、どうしてこの兄は自分の本能をないがしろにしようとしているのだろうか。

生粋の獣人であるマーマシェリアには、全く理解出来ないことだ。


この兄のことを『うらやましい』と幼い頃に思ったことがあった。

唯一、母より名を贈られたこの純白の彼がうらやましくなかった他の兄姉弟妹はきっと、皆無だろう。

しかし現在、うらやましいと思える部分は全くない。


「長い間探し続けた番が、まさかニンゲンの神官で、しかも同性だなんて悲劇以外の何ものでもないわよね」


もしくは、喜劇だろうか。

マーマシェリアにとっては、そちらの方に比重が偏りそうだ。


壊れ、夢の中でしか生きられなくなったニンゲンの母をそれでも慈しむ父を見て育ったマーマシェリアは、自分の番という存在を夢見ていた。

それは多くの兄姉弟妹がそうだったはずだ。

夢叶い、長い時を経て出逢った己の番と心通わせ、子を育み、子孫に囲まれて、年老いて逝った番の彼を見送ったマーマシェリアは幸運である。

自分で、自分の番をそうと判断出来たこと自体もまた幸運なのだと、兄を見てマーマシェリアは思ったのだった。

そうではければ、命短いニンゲンが番だった場合は呆気なく失ってしまうのだから。


「……ところでよぅ。お前、いつの間に名前を教えたんだよ」

「教えてないわよ」


「愛称で呼ばれてるじゃねーか」


拗ねるくらいなら、自分のを教えればいいのに。

マーマシェリアは、鈍いくせに面倒な兄の額にもう一発ぶち込んでおいた。

精神が壊れても愛されていた母がうらやましかったのか、それとも番を愛せる父がうらやましかったのか。

どちらにしても、マーマシェリアの感性はズレている。

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