神官は夜の店に連れ込まれる。
私は、ある大きな街でのある騒動のことを思い出していた。
どっかの純白もふもふな男のヒトが、キレイな顔立ちのエロい下着のオンナの人に矢で射られていたときのことだ。
あの直後、男のヒトを回収するため残った剣士さんとは別に帰ったので、獣人さんはあの場に私がいたことは知らないはずだ。
騒動を治めて夜遅くに戻って来た二人を、真っ黒い笑顔と嫌悪感丸出しのひどい表情をそれぞれ浮かべて出迎えた姫さまとエルフくんの後ろで何食わぬ顔で立っていたので。
姫さまから剣士さんへの愛の前では、アルコールもあっさり敗北したみたいだ。
完全に素面な姫さまに笑顔での質問責め(※not攻め)を受け、エルフくんからは汚いものを見るような視線を浴びせられた二人の男の人は意気消沈してた。
剣士さんはとばっちりのような気もしないでもないけど、私が一緒じゃなくてついでに修羅場がなかったらどこかの可愛い子と仲良く過ごしていただろうから、フォローする気が起きない。
姫さまの気持ちも考えてほしいものだよ、ぷんぷん。
そういうわけで、男共の夜中の徘徊は出来なくなったのだが。
いや、出来なくなったはずなのに……なんでこんなことにっ!?
「うふふっ、固まっちゃって可愛いわね」
「ひょわっ」
耳に息を吹き掛けられて、私は飛び上がった。
うっ、腕にさりげなく押し当てられるおっぱいが柔らかい!
あと、良い匂いするんですけど、どこの香水使ってますかっ。
「あんま、からかってやんなよ」
「あら、『社会勉強させてやってくれ』って頼んで来たのはあなたでしょう?」
混乱してなんか良くわからないことを考えている私の斜め上で、獣人さんがなにやら女のヒトと話している。
理解出来ないっ、理解出来ないよ、獣人さん!
なんで私が、夜のお店に連れて来られてんだー!?
「獣人さん、獣人さん!獣人さんのおっぱいと違って柔らかいよ!!」
「よかっ………オレのは胸板だっていってんだろっ!?」
前世でも備わっていなかった大きくてふわふわとした柔らかさに慄いていると、獣人さんに怒鳴られた。
理不尽……。
『ぶふーっ』って、意外に豪快に噴き出しているこの店のママさんは、ポンポンと頭を撫でてくれる。
あっ、獣人さんより人間寄りな外見だけどぴくぴく動くケモ耳は彼と同じだ。
「ふふふ、ニンゲンと仲良くなるなんて…昔のあなたからしたら考えられないことねぇ」
上品なママさんは、そういってやっぱり姿に見合う上品な笑みを浮かべる。
色っぽい流し目に、くっきりとしたルージュの妖しさが、二人の間柄を否応なしに桃色方面へと連想させた。
元カノとか、そういうものなのかな……。
おなかがむにょむにょする感覚がムカついて、私はムッと唇を尖らせた。
「獣人さんの親友は人間です!二人はとっても仲が良くて——て、どうして大爆笑するんですかぁっ!?」
いくら昔を知っていても、今のことは知らないだろうと教えてあげてるのに、ママさんは噴き出すだけじゃなくておなかまで抱えてる。
小刻みに震える肩は苦しそうだけど、それ絶対笑い過ぎが原因だよねっ!?
人間の剣士さんが親友だってことの、どこに笑う要素があるんだよ!?
獣人さんを見上げれば、彼も何故か唇の端をぷるぷるさせていて、私は思わず冷たい目を向けてしまった。
「何なんだよ!なんなんだよ~~!!」
「悪い悪い」
わきの下に差し入れられた手で持ち上げられて着地したのは、獣人さんの膝の上だった。
しかも、何故か向かい合わせ。
なので、至近距離で完全に笑ってる獣人さんの顔を見る羽目になった。
「キィィィィッ!!こんなんで絆されるとでもっ!?」
いや、お尻の下にもふもふがあるのは素直にうれしい。
自分専用もふもふソファと思えば、かなりおいしい状況だ。
だけど、楽しそうに突き出したままの唇を摘まんで来られて、私の機嫌はまたただ下がりした。
「ぶりゅりゅりゅりゅ!ふりゅりゅりゅりゅ!!」
「悪い。何いってんのかわからん」
だったら、手を離せ!!
笑うな!楽しむな!噛むぞ!!
アヒル口にされている私が、獣人さんの手を離した隙に噛み付くタイミングを狩人の目で探っていると、笑いの渦から無事に生還したママさんが呆れた様子で溜息を吐いた。
「あなたのそれ、もう手遅れじゃないの?」
「は………?」
ぽかーんとして手を離した獣人さんの手に私は噛み付いた。
もっとホモホモしい雰囲気を出したかったのですが、無自覚な二人のせいでこんな有様に……。




