神官、獣人の盾になる。
理不尽な神官と、不憫な獣人、そして力関係を垣間見てしまった弓遣いの話。
精霊国にいた際、姫さまのお世話係になっていた女の子のことは何回も目にした。
瞳の色は姫さまの深い森の色よりやや明るくて、髪だけじゃなく肌の色も全体的に淡い色合いを持った、尖った耳の楚々とした美人さん。
まさにRPGに出て来る人外の定番、王道エルフちゃんな彼女はきっと、大きくなったら清楚系美女として引く手あまただなーなんて思っていた女の子とそっくりな男の子が、私の前で仁王立ちしていた。
腕を組んで厳めしい顔付きのエルフくんは、決して友好的とは思えない態度でこちらを睨み付けて来る。
「私は人間が嫌いだ。馴れ合うつもりはない!私の前から消え失せろっ」
森の中で矢を射て剣士さんを狙っていたのは彼だ。
どうやら姫さまを敬愛するあまりやや暴走してしまったみたいだけど、彼女が関わらなければ非常に優秀な弓遣いとして活躍してくれる。
いきり立って剣士さんに食って掛かっていたのを姫さまが何事かを話したらそれも鎮火し、だけど獣人さんをやたらと警戒しつつ旅に加わったエルフくんは敵愾心も露わにしていた。
その姿に、あくる日の宿屋のおっさんが重なる。
「獣人さんをいじめるヒトは、この私が相手になる!!」
バッと前に飛び出して、私は獣人さんの盾になる。
ファイティングポーズを取って、シュッシュッと拳を前に着き出そうとしてリズムが狂って足を捻りそうになった。
なんてことだっ!?
たたらを踏む私を後ろから支えてくれる腕がなかったら、魔王討伐という重要な旅の途中でありながらへんなところでケガをするところだったよ。
ホッとした私が獣人さんを見上げれば、彼は呆れと疲れを滲ませた顔で見詰め返して来た。
「おい待て。こいつはお前にいってんだぞ?『おい人間!お前、姫さまと同室になろうなんて考えてないだろうな』って、最初にいってただろ!お前、自分でオレのこと『獣人さん』って呼んでおいて、種族忘れてんのか!?オレは獣人だから、お前にいってんだよ!!」
「…そうなの?」
「そうだよ!なぁっ!!」
「あ、ああ……」
あー、もう!
獣人さんのせいで、エルフくんが引き気味だよ。
仲良くなりたいのに、獣人さんが怒鳴ったせいで怯えちゃったじゃんか。
目をまん丸に見開いてる姿はなんか可愛いけど、捻った半身が一歩引いちゃってる。
「獣人さんが怒鳴ったせいで、エルフくんが怯えて引いちゃったじゃん!どうしてくれんのさ!!」
「え…?そこはオレが怒られんのか……?」
唖然とする獣人さんは、そのあと立派な体格を小さくしてボソボソと力なく何かを呟く。
「オレをいじめてんの、お前じゃんか………」
悲し気に伏せたケモ耳としゅんとした尻尾に、私は絆されたりしないんだからね!ぷんぷん!
その頃、姫さまは剣士さんとラブラブデート(剣士さんの認識では買い出し)中だったそうです。