神官、剣士を父にもふもふを母に持つことになる。
「へー、オレがもう少しいたら一緒に生活してたかもな!」
この一言は、剣士さんから出た一言だった。
町から出て、次の目的地を姫さまのもう片方の血筋である❝森の貴人❞たちが暮らす森に定めた私たち一行は、野営中だ。
もふもふさんに用意してもらった新品の靴を眺めてにやにやしていた私に姫さまが、『どういった生活を送っていのですか?』と問い掛けられ、大神殿での話から遡って今は孤児院での生活の話をしている。
姫さまは前世で読んでたようなラノベに出て来る高飛車な王侯貴族っぽくないし、こういう機会に下々の生活を聞いておきたいみたい。
私の話が彼女が今後、王族として暮らすときに何かの役に立てばうれしいと思ってだいぶいろいろ話してたんだけど、その中で驚きの事実が発覚!
なんと、剣士さんと私の出身孤児院が一緒だったのだ!!
「先生の前の先生はムカつくから、出てって正解だと思うけど!でも、お兄ちゃんかぁ~」
私たちを育ててくれた先生の前の先生はひどい人だったらしいから、剣士さんが仲間を連れて出て行くのは仕方ない。
だって、ヘタしたら餓死しちゃうし人身売買とかしてたらしいから、身の危険が迫ってたんだし。
…でも、彼がまだ孤児院にいたとしたら、私たちの『お兄ちゃん』になってくれたと思えば、ちょっと惜しい気もするけど。
本心からそういえば、私を見てもふもふさんを見てから剣士さんはにやりと笑った。
なんか、企んでるな。
「いや~、こんなおっさんが兄貴なんてイヤだろ?そうだな、オレは『お父さん』でいいよ!」
いや、剣士さんは若いと思う。
彼自身、自分の年齢を知らないらしいけどたぶんだいぶ若い。
彫の深い外人顔の剣士さんだから、私には年上に見えるけど絶対にそうだ。
…あれ、成人してなかったらお酒飲んじゃいけないような……。
「お、お父さん!!」
それはともかく、私は飛び上がってよろこんだ。
父親の顔なんて覚えていないから、『お父さん』という存在はとてもうれしかった。
前世の家族の記憶も薄れている今、たとえ血縁関係にないとはいえ頼れる存在である『お父さん』。
しかも、彼の人懐っこい笑顔が『無条件に甘えても良いよ』といっているようでそれもまたうれしかったんだ。
姫さまが期待に満ち溢れた表情で、剣士さんを無言で見ている。
『お父さん』といえば、次に出て来る役割はもちろん『お母さん』だ。
ままごとめいた役割分担だけど、私も期待の眼差しで剣士さんの次の言葉を待つ。
まぁ、姫さまは紅一点であり好意を寄せている剣士さんの、ままごととはいえ『妻』という立場になれることを期待しているんであって、私とは期待の意味合いが違うんだけど、固唾を飲んで二人で次の言葉を待った。
あっ、もふもふさんは興味なさそうに欠伸してる。
「んで、こいつが『お母さん』」
「あがっ!?」
大きく開けた口が、驚きのあまりうまく閉じられなかったらしい。
へんな声を立てたもふもふさんが、驚いた顔で剣士さんを見ていた。
そんなもふもふさんの反応に『してやったり』と笑う剣士さんは、本当に若い…というより、幼い印象のまま相棒である彼を『お母さん』に推薦した理由は話し出した。
「だってよ、オレは知ってんだぜ。こいつが火の番の時に、コツコツ靴の補強してたってこと」
「ぎゃあぁぁぁあぁっ、やめろおぉぉぉぉ!!」
すごい勢いで剣士さんに飛び付いて彼の口を塞ぐもふもふさんに、私の目は点になる。
もふもふさんの足は頑丈なのか、素足なのに険しい道でもぜんぜんへっちゃらだ。
だったら、誰の靴の補強をしていたかといえば……私の靴だろう。
一度寝付いちゃったらちょっとやそっとじゃ起きない私の足から、靴を脱がすのは楽だ。
そういえば、血と泥に汚れていたのは変わりないけど、だいぶ歩きやすくなってた。
…つまり、私の足がこれ以上痛くならないように、こっそり底の部分に何かしてくれてたんだね。
今はもう、新しい靴を履いてるけど、前の靴もまた準備してもらった荷物の中に入っている。
もふもふさんの反応から、隠しておきたかったみたいだけど後で良く見てみよう。
「もふもふさん」
「も、もふ……、な、なんだよ」
「ありがとう!靴を買ってくれただけじゃなくて、靴の補強までしてくれて、しかも移動中に抱えてくれて本当にありがとう!!」
「そーいやぁ、ずっとだっこしてたっけか。…過保護」
「うっせぇ!!」
へへっ、剣士さんには食って掛かってるけど照れてるんだね。
照れ屋なもふもふさんは、にやつく私に気が付いたのか剣士さんの胸ぐらを掴みながら私に突っ込んで来た。
「あのよ、その『もふもふさん』っていうの、やめねぇか?」
「えー?あっ、そうか!オカーサンだね!」
「お母さん!?…ひぃっ!?」
どっかを向いて怯えたような悲鳴を上げたもふもふさん改め、オカーサン。
えへへ、まさか魔王討伐に出掛けて『お父さん』と『オカーサン』を手に入れるとは思わなかったよ!
うれしくって満面の笑みを浮かべているであろう私は、二人の間に座って左右にある手を握り締めた。
剣を握る硬くて大きな手と、もふ毛に覆われた肉球…じゃなくて大きな手の平の温かさを感じて笑み崩れた私は、もふもふさんが大慌てしている意味がさっぱり理解出来ていなかった。
「獣人!種族からとって『獣人さん』でいいから!!」
「え~?」
「いいから、もうそれでいいから!ぎゃー!?」
「…………」
あれ?そういえば、さっきから姫さましゃべってないけど、飽きちゃったのかなぁ?
ま、いいか!
姫さまはこれ以降、さらに獣人さんに対する風当たりを強めましたとさ。