神官、慣れぬ旅に落ち込む。
短いです。
何故か起こった人間たちによる襲撃を躱して、私たちは王都を出て本格的な旅をし出す。
RPGだったらモンスターを倒す、ドロップアイテムを取るをエンドレスで繰り返して、ある程度HPが減るか特定のレベルに達するか、それとも単純に夕飯でゲームを止めざるをえないかによって町の宿屋でセーブしたりするんだけど……ここは現実だった。
「ううっ………」
「今度はどうした?靴擦れか?ションベンか?腹減ったのか?喉乾いたのか?」
「しょ…っ!?セクハラです!!」
「へーへー。すみませんねぇ、育ちが悪いもので」
鼻を鳴らすもふもふさんは、やっぱり太陽の下でももふもふだった。
いや、現実逃避している場合じゃない。
ぷるぷる震える私は、辛抱出来ずに叫んだ。
「ふ、ふくらはぎが痛いです――!!」
所謂、筋肉痛だった。
若さ故か、私のふくらはぎの痛みはお昼ご飯から少ししてから現れ出したのだ。
「では、休憩しますか?」
「出来ればもうちょっと行きたかったんだが、しかたねーか」
リーダーである剣士さんの号令で、みんなが自分のやるべきことをやりはじめる。
分担を話し合ったわけでもないのに、三人共それぞれ声を掛け合うことなく行動していて私はオロオロと落ち着きなく見ているだけだ。
こうしている間に、お茶とドライフルーツの準備が終わって、かなり早いお茶の時間となった。
「ふくらはぎですか…氷魔法で冷やしてみましょうか?」
「うーん、ここで魔法に頼るのもなぁ…」
剣士さんは姫さまの提案に、良い顔をしない。
私の神聖魔法での癒しだって、大けがでもない限りは使わないって宣言しているくらいだ。
魔法も神聖魔法も使えない彼が嫉妬して使わないわけじゃなくて、本来は神聖魔法って限られた人たちしか神官に掛けてもらうことが出来ないから、普通はめったなことじゃ使わないんだってさ。
そういう風に生活してきた剣士さんは神聖魔法での癒しばかり使ってて、いざ大けがをしたときにまったく効果がなくなってしまったという例を戦場で何回も見ていたから、いざというときに取っときたいそうだ。
最後の切り札ってやつだね。
それにしても、神聖魔法に回数制限があるなんて知らなかったな。
いや、それとも免疫とかの問題かな?
神聖魔法に身体が慣れちゃって効きが悪くなっちゃったのかもしれないし、うーん。
大神殿で教わらなかったせいで、よくわからないや。
それにしても、剣士さんは戦場に出てたんだね。
まじまじと剣士さんを見ていたら、姫さまと話していた彼は私に気が付いて促してくれる。
「えーと、戦争に出てたんですか?」
前世において、私がいた国は幸いなことに戦争はしていなかった。
世界中、どこかでは確かに戦場になっていた地域があったけど、どこか遠く感じて現実だとは思えなかったな。
だけど、剣士さんは戦場に出てて、私は戦災孤児というやつだ。
身近に、あったことなんだね……。
「あぁ、そうだな。オレも相棒も、姫さんも三人共参加してた」
「えっ…姫さまも、ですか?」
目を向けると、そこにいるのは妖精と見まう程の美貌を持つお姫さま。
身に付けているのはお姫さまドレスじゃなくて、動きやすいシンプルだけどどこか上品なワンピースと、フード付きのローブだ。
まさに魔法使いといった服装をしている姫さまだったけど、それがコスプレ的な雰囲気じゃなくて、しっくりと彼女に馴染んでいた。
よく考えてみれば、お城で大切に育てられたお姫さまがこんな旅に付いて来れること自体、すごいことなんだ。
だって彼女が剣士さんたちに遅れることはないし、準備も手慣れた様子で身体だってどこか痛めた風でもない。
きっと、私と違って慣れてんだねー、はぁ…。
「私もはじめの頃は、慣れませんでしたよ」
「そうそう。オレだってそうだった。だから、そんなに焦ることはないって!」
「お気遣い、ありがとうございます」
取り敢えず、笑って二人にお礼をいっとこう。
笑ってれば、万事うまくいく。
気を遣ってくれてそういってくれる二人だけど、どう見ても私は足手まといだ。
大神殿での生活でいろいろ仕事をしていたとはいえ、そのときに培った体力とか諸々は、どう考えても今使えないものだった。
チートだからって、旅の手段が徒歩だってことを全く考えてなかったよ、トホホ……。




