神官と旅立ちの日。
RPGで、旅立ってすぐの草原で、レベルをすごく上げてからイベントに挑むタイプだった。
イベントのボスを、あっという間に倒して悦に浸る性格悪いタイプです、はい。
だけど、現実にやりたいかといえば、そうじゃない。
出来ることなら傷ひとつ受けることないモンスター相手に、のんびりと時間を掛けてレベル上げをしたい。
何せ、非力な支援職の神官だからね。
だからうん、こんな状況望んでないよ。
「行かすかー!!」
「ひいぃぃぃっ」
振り下ろされた剣は、別の剣が弾いてバランスを崩した相手の胸を蹴り付けて仰向けに倒す。
「まっ、ぐはっ!」
「ごめんなさい〜」
進行方向へと倒れたので、謝りながらもその上を走る。
「ここは通さないぞっ!!」
「ひやああぁぁぁっ」
横から襲って来る剣は、毛に覆われた足が鍔だか手を狙って蹴り上げ、相手が怯んだ隙に得物を奪って遠くに放り投げた。
「ひきょっ、ぎゃっ!」
「ごめんなさい〜」
相手の顔が怖くて、思わず先生からもらった杖で殴り付ける。
「おいてけ〜おいてけ〜、姫をおいてけ〜」
「いやあぁぁぁっ!!」
数人の男たちが、それぞれ武器を持ってゆらゆら揺れてる姿は不気味の一言だ。
剣士さんともふもふさんは私たちの横を駆け抜け、男たちに肉薄する。
二人とも、一度に数人相手にしてるが、数が多過ぎて 次第に押されつつあった。
「おいてけ〜」
「ぴいぃぃぃっ!」
亡霊みたいな男に腕を捕まれ、姫さまと引き離されそうになった。
「おいて、ぐへっ、ぐほっ」
「やだっ、やだあぁぁっ!!」
杖を何度も男に振り下ろすが、手を外してくれない。
必死に更に何度か振り下ろし、それで何とか逃れることが出来た。
「世界を知る者に!『この人たちいやあぁぁぁっ!!』」
混乱の余り、呪文が中途半端になったが、無事に発動した。
現れた光輝く巨大な玉を、剣士さんともふもふさんの方に転がして、姫さまとそれを追い掛けるように走る。
「おいて、ぎゃー!!」
逸早く大玉に気付いた剣士さんともふもふさんは素早く避けて無事だったが、男たちは正面からぶち当たった。
物理的要素を弾くシールドの変形だから、大玉にぶち当たった男たちはボーリングのピンのように吹っ飛んでいく。
「ごめんなさい〜」
尾を引く悲鳴を聞きながら、私は謝りつつ走り続けた。
普通、旅の初期はケモノ型モンスター相手で、後半にヒトガタになって主人公たちは葛藤するもんじゃないの?
なんで私たちは、旅立ち日にヒトガタモンスター…じゃなくて、人間を相手に戦わなくちゃいけないわけ!?
「もうっ、ひどいよっ!」
「あぁ、本当にひどいな…」
後ろを振り返りつつ走るもふもふさんの声は、先程までの男たちとの戦闘のせいか震えていた。