元孤児は平和に生活する。
新しい章と新しいキャラの登場です。
あの、ある意味衝撃的な別れから少し経って…私はお城のある都――王都の大神殿にいた。
どんなことをさせられると思いきや、何の心配もない。
「おい、田舎もの!これを洗っとけ!」
「はいはい」
「そこの!インクを足しとけ」
「はいはい」
「これを配達所に持っていっておけ。…いいな、盗むなよ、貧乏人」
「はいはい」
「「「返事は一回だっ!!」」」
「はーい」
これである。
あれか?私が田舎から中央に急にやって来たチート持ちだから、やっかんでんの?
そう思うと有名税もとい天才税として不問にしてやろうって余裕な気分になるね!ふふん!!
まあ、みんな神殿から出ない引き籠もりなお坊ちゃんばかりだからいじめらしいいじめもないし、あの程度は悪口でもなんでもない。
孤児院の小さい子が反抗期になったときくらいの言葉だから、むしろ微笑ましいくらいだ。
やることもだいたい、孤児院で先生や自称・舎弟さんたちの手伝いと対して変わらないし、そもそも私は一人じゃない。
「先輩」
私の周りを取り囲んでいたお坊ちゃんたちが、眠そうなその声が聞こえた途端にすごい早さで私から離れてくれたから彼は邪魔されることなく私のところまでやって来る。
ぽてぽてとのんびり歩いて来るのは私のはじめての後輩…ただし、年齢的なもので、神殿での在籍歴はあちらが圧倒的に上――な男の子だ。
くりんくりんとした髪の毛は真っ白で、瞳は銀色というやっぱりファンタジーな色彩を持っている彼は、私の腕が持ち物でこんもりしているのを不思議そうに見て、こてんと首を傾げる。
垂れ目なのとその仕草のせいでやたらと眠そうに見えるけど…もう起床時間からだいぶ経ってるから、寝ないでね?
「どうしたの?」
「お仕事だよ!」
「ふ~ん」
フリーダムな反応!?
いつものことだけどさ、もうちょっとなんかないの…
「手伝う」
「ありがとう!!」
なーんて、文句はいわないよ。
だってこうして手伝ってくれてるし!
どっかの誰かとは大違いだよ!まったく。
「あっ…」
「その…」
「ん~?」
後輩に荷物預けている最中、ずいぶん離れて壁に懐いていた人たちは何ともいえない表情をみんな浮かべている。
自分が頼んだものを後輩に持たれた人なんか、真っ青になっていて、今にも倒れそうだ。
私には偉そうに押し付けても、後輩がそれをやろうとすればみんな真っ青になる。
それを見て、私は確信した。
後輩は実は、結構エラい人の子どもなんだってね!!
「ねーねー」
「なに、先輩?」
「ずっと一緒にいてね?」
「…っ!うん、うん!先輩が望むなら」
後輩はならなかキレイな顔立ちをしてるから、そのセリフは胸にグッと来た。
イケメンに『あなたが望むなら』って、いわれてみ?
ほら、グッと来るでしょ?
…恨むことは、私の下に余計なものが付いてることだね。
まあ、後輩は良い子だから天才故にぼっちな私の傍にいてくれるだけだけど。
と、取り敢えず、後輩の傍にいればエラい人の目に留まりやすくなったということでっ!
ふへへ、チートデビューの後は改革だよね~やっぱり、エラい人の後ろ盾はあって損はないよ。
私を連れて来たデブはどーでもいいです!
「洗い場と備品倉庫と配達所でしょー…そうだ、この間見付けた抜け道を使えば近道になるね」
「うん、そうだね先輩」
そうと決まれば、善は急げ!と、走り出そうとした私だったけど、襟がつり上がってぐえっとなった。
「ぐえっ!?」
「おいこら、待て」
なんだよ!せっかく、やる気満々なのにー…と思って振り返ったら、奴がいた。
長くて艶やかな青い髪と、ネコみたいなつり目の男の子。
そう、彼は孤児院で一緒だった…
「ド○えもん!!」
「だから、どこの男と間違えているんだっ!?」
なんかぎゃーぎゃー『お前とどんな関係だ』とか『ボクより優れた男か』だとか小うるさいことを聞いてくるけど、スルーする。
キミこそ、どこのお母さんだ?
「あー…、はいはい。で、何?私たち、忙しいんだけど?」
「またはぐらかすのか…っ!まぁ、ボクの方が優れているはずだから、もういい」
「あっそ。じゃあ、私たちは行こうか」
「はい、先輩」
「ちょっと待て!!」
もー、なんだよ。
孤児院から一人でやって来たばっかなときは、すぐ後にやって来た彼の存在はうれしかった。
でも、彼はちょいちょい父親に呼ばれるため、いつも傍にいてくれたのは後輩だった。
なので、じゃっかん彼への態度がキツくなる。
孤児院時代には、いじめられてたからね!
「ぼ、ボクも手伝ってやっても、いい…ぞ」
「そんなエラそうな態度なら、けっこうですぅ~」
「…うっ!ててて、手伝います」
「わーい!お願いしまーす」
…とは思ってたけど、彼も寂しいみたい。
父親ってのは、私を連れて来たデブらしいんだけどさ、どーいうわけか一緒に暮らせないみたいなんだよね。
しかも、せっかく会えたという思ったら自分じゃなくて私を連れてくし、彼としては複雑なんだろう。
だから、こうしていじめてた私のことに渋々やって来ては一緒にいるんだろうね。
彼の心境を思うと、お姉さんも悲しいよ。
だから毎晩こっそり、デブへハゲの呪いを掛けておく。
デブでハゲなんて二重苦に、苦しむが良い!!
そのうち、体臭もクサくなる呪いも追加してやるからな!