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ゲームの主人公にイラついてしょうがない件に関して

ゲームの主人公にイラついてしょうがない件に関して

作者: ランドセル

俺はどうやら、転生したらしい。

えーと、確か題名は“タンポポとクローバー”だったかな、そんな感じの学園恋愛シュミレーションRPGゲームだ。

因みに、男女の性別は選べるし、バラやユリもできる。出てくるキャラクターはモブ(攻略不可能キャラ)ですら美女、美男ばかり。


まあ、ここまで言えばわかるだろう。

中世ヨーロッパ風のゲーム、しかも剣、魔法、モンスター付きの奴だ。


そして、俺はその中でゴーマンというとんでもない外れキャラを、って本当にどうしてこうなった……



カッポカッポ、と馬車が進む中、13歳になった俺は、期待に胸を膨らませられる訳もない。

ゴーマンは典型的な腐った貴族だ。平民を見下し、主人公にちょっかいをかけ、金に物を言わせる小物だ。

最期、敵に懐柔され、主人公達に殺されるところまで小物である。


けれど、ゲームの中でゴーマン君は決してモブキャラではなかった。

攻略キャラでは(ある意味当然)ないのだが、まあ、人には何かしら一つくらいいいところがあり、負けず嫌いで成績は優秀(上手にゲームをしていても主人公とタメをはる)、シスコンでありブラコン(これは利点か?)、そして、国への忠義が誰よりも篤いのだ。

その忠義の厚さを利用され、彼は国を憂い、主人公達に弟妹と国の未来を託しながら死んでいく。

彼の最期の台詞、“絶対、だかんな……絶対、いい国に……”に心酔した元友人は、暫く使いまくっていた。


その言葉とともに使われた命を懸けた魔法は、主人公パーティーの潜在能力を引き出させ、主人公達はそれを糧に国を滅亡させようとするクローバー国の黒幕を倒しに行くのだ。


まあ、そんな設定はいい。元ゴーマンなんて忘れて、ヒャッハーやろう。


そんな甘い考えには、どうしても俺は至れない……


実はこのゲーム。RPG特有のボス戦(逃げれない戦闘を含む。ただし、連続の場合は一回とする)が4年の間に20回くらいあるのだが、その内、四割くらいはゴーマン君との闘いで、その戦闘が主人公達を強くしていくのだ。


当然、ゴーマン君の自業自得のケースがほとんど。回避しようと思えば回避できるのだが……


結論から言っちゃえば、ゴーマン君との戦闘中に、


このままじゃ勝てない→くそ、力が欲しい→覚醒


となる重要技がいくつもあるんだよ☆

いや、主人公どれだけゴーマン君を意識してんだよ☆

むしろ、製作者☆ゴーマン君をどこまで負けさせたいんだよ☆


なーんて僕、思ってないよ~ははは☆


まあ、死にたくはないから、最後のイベントは回避する。

国に忠誠なんてないから、起こりもしないだろうけど。

けれど、途中(てか最後の一歩前)までは起こしておかないと、リアルに滅亡する。


タンポポ国は滅び、国民は奴隷にされ、ヒロインは汚され、ヒーローは殺される。


……なお、ゴーマン君の弟妹も殺される。


おっと。そんなことを言っているうちにイベントだ。

なんか豪勢な馬車の外から罵る声が聞こえる。


「おらぁ!てめぇ、貴族様の馬車の前にたってんじゃねぇぞ、おらぁ!」


彼の名前はフィリップ。ゲーム時代じゃ知るよしもなかった、ゴーマン君の下僕で同い年だ。

何か、ゲーム終盤人体実験されて、彼を元に作られた劣化コピーがフィールドモンスターとして襲って来ていた。ゲームでゴーマン君以上に酷い扱いを受ける男だ。


ようは、運命共同体だね☆


実は彼は攻略キャ……何でもない。

やつがラブコメ出来るわけがないじゃないか!(切実)


さて、俺様の登場。台詞は……


(あれ、このシーン、原作では)


台詞まで描かれてません。

いつの間にか喧嘩していた→とめに入るだったよね。


(どうしよ…………)


如何、不自然すぎる!フィリップもヒロイン(女子番では親友)もこっちを?、って感じで見ている。

え、えーい!


「あいや待たれい!」


なんでだよ!?

どうしてこのチョイスにした!!

周りもポカーンとしているし……いや、もしかしたら、まくし立てるチャンスかも!

ゴホン、と咳払いして仕切り直す。


「これだから、君みたいな……は…………礼儀、ってわかる?

つまりね、……でもわかりやすく言ってしまえば」

「声が小さくて聞こえないんですが……」


ヘタレとか言わないでね?

悪役の吐く台詞ほど言いにくいの、ってないと思うんだ。

だから、僕は悪くない!はず。

というか、今、原作とほぼ同じように言ったんだけど、相手の台詞が入った時点で原作と違うくなっている。

まあ、でも次の台詞の途中で主人公介入するだろうから、問題はない。


「どうやら、……しい……な……平民にお……」

「ゴーマン様?」

「とにかく、決闘だ!」


さあ、途中の云々かんぬんの台詞を言った後、何とか締めくくった!

やった、 やりきった?


けれど、あれ?なんか違うかも?

千里の道も……しゃなくて、なんで主人公が介入して……


あ!


致命的なミスに気付いた。さっきの行動選択できる奴だったわ。


“立ち向かう”か“無視する”、を


なんと!主人公は最初の選択肢で無視するを選んだのだ。


って、馬鹿野郎!ヘタレ!常人じゃ考えつかない選択肢を選ぶのが主人公だろっ!


慌てて男子を見るが……いない。

まさか、主人公はいないのか、とそこで、校門の前に一人の女子がいるのに気付いた。


黒い紙をボブカットにした、素朴な少女。

決して作中には美少女としては描かれないが、その容姿は息を呑むほどに可愛い。


リラ。それが“タンポポとクローバー”における女主人公の名前だ。




……因みに、プレイヤーキャラが男子か女子かで大幅にこのイベントは変わってくる。

男子だった場合はこのイベントで、ば、バカな、光属性だとぅ、的な感じになり、女子だった場合は……


「貴婦女を朝から暴行とは……男子の神風にも置けぬ奴め!」


どのみち、無茶イケメンの先輩にボコられるのだ☆ギャア★




このゲームの基本を語るとなると、四年間の週末の主人公の行動を操って行くゲーム、ということになるだろう。

当然、週内にもイベントが発生したりするのだが、プレイヤーは大体200回くらい行動を操り、主人公を強化できる。

ただ、ゲームには禁断のことと言うか、突っ込んではいけないことがあり、何故週末以外は能力をあげることが出来ないのか、とそれもその内の一つだろう。


まあ、答えは予想通り。


「……であるからして……魔法は……わかるかね、ゴーマン」

「ッチ、目立とうとしやがって」


一人として授業を聞いてないからだよ!

本日26回目の指名に笑顔で応える。その度に舌打ち(名も無きモブキャラからというのだけが救い)を喰らっている。

そういえばイベントでも、いつもゴーマンが教師の質問に答えてたわ。


ごめんね。ゴーマン君。俺、時たま主人公よりスペックの高いチート野郎wとか、馬鹿にしていた時期あった。


でも考えてみれば、レベル9も上のくせに初めの戦闘でどう足掻いても、主人公に勝てる能力じゃなかったね、君。


俺、現実世界帰ったらゴーマン君が幸せになる二次創作書くよ。


授業を聞いている唯一の生徒、ゴーマン。

対して、夢の世界に旅行中のリラ&ヒロイン&ヒーロー&モブタンズ。


世界を託すとしたら、何故だろう。ゴーマン君一択の気がする。



せめて、主人公パーティーくらい授業の恩恵を受けさせよう、と放課中にノートを全て写す。

こんな風に奉仕するのは彼のキャラではないし、俺のキャラでもない。でも、不安しか浮かばないのだ。


即ち、彼等が本当に世界を救えるのか、について。



放課後になり、自由時間に入る。俺は一人外で走ることにする。


この世界はゲームだ。もし、俺が自分を鍛えず、主人公達とイベントを起こしたら。

多分、主人公は覚醒しないに違いない。

そして、この国は滅びる。


だから、せめて、ゴーマン君と同じくらいの能力にはなっておこう。


攻撃力が圧倒的に低いが、脅威の打たれ強さを持つ、彼と同じくらいには。


どのくらい防御に特化されていたか。

二年目くらいのイベントでドラゴンが学園を襲ってくるのだが、そいつを一人で2時間、主人公達が来るまでおさえていた。


回復薬も持ってきていないから、もう限界だ!くそったれ!……頼む、国を守ってくれ……

とは彼の弁だが、ドラゴンの攻撃は一撃でその時の男主人公のHPを4分の3も持っていった。


それにしても……春先とはいえ、夕暮れは少し寒いな。


なお、他に生徒は影もなく、フィリップが腕立てをやり始めた時は、ちょっと嬉しくて泣いた。



夜、女子寮に忍び込む。

というのは、少々語弊があって、ゴーマン君はクラス委員であり、クラスメートを確認して回る義務があるのだ。


なお、主人公が女子だと、ゴーマン君は意外と優しく、時にはヒーローの攻略ヒントまで出す。

男子だと、ゴーマン君ではないモブタンが委員になるので反応はわかんない。


とにかく、あと残すは女主人公、リラの部屋だけになる。


原作では、嫌みを言って別れるだけなのだが、今回は違う。

少しでもゴーマン君、というか俺の負担を減らすため、ノートを渡すのだ。


「平民、いるか?」


返事はない。

いやいや。原作でも部屋にいるはずなのだ。

もう一度ノックする。

「平民」

「ふぁ~、ミラ?」


……いや、待て。


「平民」

「って、ゴーマン。こんな時間に何の用?」


…………………………………………

こいつは寝癖を作って、よだれを垂らして、何をしていた?部屋も暗いし、いや今つけたからいいというわけでは無い。大体なんだ、その部屋の隅に積まれた縛られた本の数々は。大体、授業6時間中実に5時間も爆睡していなかったか?起きている間は常に美少女共といちゃいちゃして、ああ、これにイケメンが加わっていくんだな、って冷静に見てたけど納得いかねぇ。せめて、平日の午後くらい勉強、いや、せめて教科書の整理、最低でもって起きていようぜ。まあ、それはおいておく。でも、主人公名乗るなら努力しろ。というより、ゴーマン君不憫でならない。君が主人公であるべきだったよ。


「点呼だ」

「ふーん。あんたが?」

「……そうだ」


落ち着け、怒るな。


「じゃ、もういいでしょ。私寝るから」

「………………待て。これ今日の授業ノートだ」

「ありがと。でも、まだ」

「シャラップ!」


うん。我慢の限界★


「フィリップ!」

「はい、なんでございやすか?」

「え、え?今どこから……」

「この女を奥へ運べ。そして、机にくくりつけろ」

「へぇ。手足は?」

「動くようにしておけ」

「ギャッ、キャーー!」


そうして、部屋の奥へ!


「さあ、フィリップ。リラに今日習ったことを教えるのだ」

「無理です」

「……授業参加してたよな。付き人として」

「寝てやした」

「…………」

「あ、付き人もテストがあるらしいので、こんどゴーマン様のノートを写させていただけると、」

「…………………………」


こうして、俺の女主人公&フィリップへの夜間学校が開校されたのである。


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[良い点] 読みやすかったです [一言] 続きは書かれないのですか?
[良い点] とっても読みやすく 面白かった [気になる点] 短編の終わりかたではないと思う
[良い点] 文体が平明で読みやすい。 [気になる点] 見当たりません。 [一言] 読んでいくうちに、何故か及川光博の声が脳内に響き渡りました。彼に朗読してもらったら、絶妙な間で大笑いしてしまうかもしれ…
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