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路上のルーカス  作者: 安芸咲良


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 結局家に着いたのは門限ギリギリだった。お母さんにちょっと小言を言われたが、私はお風呂に入ってそのまま自分の部屋に入った。そしてベッドに腰掛けて、かばんからあの絵を出す。

 さっきはカッとなってちゃんと見なかったけど、確かにいい笑顔をしている。下手と言ってしまえば下手なんだけど、生き生きとしていると言うか……。あの短時間でよくここまで描けたな。絵心のない私でもそう思う。

 右下に“Lucas”と書いてあった。

塾は週に三回。明後日も彼に会えるのだろうか。


 この二日間、ちょっとワクワクしていた。友達に「真由、何かそわそわしてて気持ち悪いよ?」と言われるくらいに。でも実は不安も半分だ。

 私が悩んでいることはルーカスにはばれていたし、ちゃんと絵のお礼も言ってなかったし……。

 私はまたグルグル考えながら塾を出た。

「あ、来たねー」

この間と同じ場所にルーカスはいた。たまに、と言っていたからちょっと心配だったけど、良かった。

 今日は金髪の頭にニット帽を被って、黒いサングラスをかけていた。服はまた絵の具で汚れていて、傍にはこの前の椅子といろんな風景画がいくつも並べられていた。

「こないだちょっと様子が変だったから心配だったんだ。でも良かった」

ニっと笑って言う彼に私はちょっと戸惑った。

「……この間はごめんなさい。ちゃんと絵のお礼も言ってなくて。ありがとね」

ルーカスはちょっと照れたように笑ったまま「いーってことよ」と言っていた。

 そして私の背中を押して、この間と同じように折りたたみ式の椅子に座らせる。スケッチブックを取り出して、私の絵を描き始めた。

「こないだも思ったけどなんで制服?」

「あぁ、塾帰りなのよ。月水金で駅前の塾に通ってるの」

「えー! そうなの!? その制服って兎谷高でしょ? 頭いいのにすげー」

 ルーカスの言葉に私は苦笑した。

 確かにうちの高校は県内でも上の方だ。そして私も割かしいい成績を維持している。その上で塾に行っているのだ。私の心の中がまた少しグルグルしだした。

 その間もルーカスは鉛筆を動かしていた。

「ねぇ名前なんて言うの?」

「本庄真由。ルーカスって本名じゃないよね?」

「まぁ本名じゃないけど、絵描いてるときはルーカス。なんか画家っぽいでしょ?」

 そんな理由でルーカスだったんだ……。

「ルーカスは画家を目指してるの?」

「うん。でもねー見ての通り人物画が下手でねー」

 ルーカスは鉛筆を動かしながら苦笑いを浮かべる。

「俺さ、苦手なものがあるのが嫌なんだ。俺の絵を見てハッピーになる人がいるなら、もっともっとハッピーにしてあげたい」

 そうしてルーカスはトンっとスケッチブックを私のほうに向ける。

「そのために、描く」

 その瞳に少しドキっとした。

「どう? 真由さんどう? この前よりも良くない?」

 ルーカスが真剣な表情をパッと変えて、キラキラした目で尋ねてくる。今の私には彼は少し眩しいかも知れない。

「この前よりはいいかもねっ」

 私は心の中を見透かされたくなくてぶっきらぼうに答えた。

 ルーカスはちぇーとか呟いている。

「さて、と。時間大丈夫?」

「あ、そろそろ帰らないとやばいかも。うち門限十時なんだ」

「そっか。月水金は塾なんだよね? その日はここにいるようにするからまたおいでよ。そんでまた描かせて?」

 彼の言葉にうん、と頷く。

「そして日増しにうまくなってく俺に驚くといい!」

 ルーカスがそう言って、鉛筆で私を指した。

「あははっ! なんじゃそりゃ! うん、でも楽しみにしてる。じゃあまたね!」

 ちょっと面食らって答えると、ルーカスも笑っていた。そして手を振って別れる。

 もやもやしていた毎日に少し光が差したかもしれない。

「初めて笑ってくれた……」

 その呟きを私は知らない。

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