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路上のルーカス  作者: 安芸咲良


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 ずっと憧れていた。

 それだけでは叶わないと、気付きながらも――。


   *


 私は大通りを一人歩いていた。塾の帰りだ。

 二年生になって少しずつ進路のことを考える時期になってきた。うちは結構な進学校で、ぼんやり私も大学進学かな、なんて考えていた。やりたいことなんてまだ分からないけど。

 大体たかが十六年生きてきた中で将来のことを決めろだなんて無理な話だと思う。昔の人はそんなことも言っていられなかったかもしれないけど、少なくとも私には無理だ。そんなことを考えながらも今日も塾に通っていた。

 だからかもしれない。その出会いがあったのは。


「そこのおねーさん、ちょっと寄ってかない?」

通りを歩く私に声をかけてきた人がいた。

 振り向いて、私は振り向いたことを後悔した。

 そこにいたのは金髪に濃いブルーのサングラス、所々に絵の具をつけたダボダボの服を着た男の子だった。声からして男の子だろう。鉛筆で私の方を指していた。

「いえ結構です、急いでますから!」

 怪しさ全開の人物の元から足早に立ち去ろうとしたけれど、その人にがしっと腕をつかまれて、それは叶わなかった。

「まーまーそんなこと言わんと。ちょろーっとそこに座っとくだけでいいから」

 そのまま引きずるようにして、私を道端に置いてあった折りたたみ式の椅子に座らせた。そして自分は直接地面にあぐらをかく。

「なっ……なんなんですか!?」

 その男の子は傍らのかばんから何か取り出している。犯罪には巻き込まれたくない!

「ちょっと絵、描かせて? そんなに時間は取らせないから」

 絵? よく路上で絵を描いたり売ったりしているのと同じようなやつか? まだ不審顔の私に、スケッチブックを取り出した彼は続けた。

「あっ、ちなみにこっちからモデル依頼したからお金も取らないからねー」

 絵を描くだけらならまぁいいか……。タダだし、門限までまだ少しあるし。

 待つこと数分。スケッチブックと私と視線を行き来する彼に、私はなんだかドキドキしてしまった。濃いサングラスに阻まれて目は見えないんだけど。というか夜にあんなサングラスでちゃんと見えるのか?

「できた!」

 彼がスケッチブックを掲げた。おお、いったいどんなのができたんだ?

「ってへたくそ!」

 思わず言ってしまってから慌てて口を抑える。そっと彼のほうを見るとどよーんと落ち込んでいた。

「俺さー、人物画は下手なんだ……。風景画は得意なんだけど」

 ちらりと横に視線をやる。彼の隣に並べられた絵はどれも風景画で、確かにうまかった。どこまでも続く地平線。色付いた山々。高台から見下ろす町並み。そのどれもが美しかった。いや、美しいなんて言葉じゃ表し切れない。

「ニガテを克服したくてここで描いてたんだけど、ごめんねー。せっかくハッピーになってもらいたくて笑顔にしたのに……」

 スケッチブックの中の私は満面の笑みだった。

「ハッピーって」

 彼は柔らかく笑った。……気がした。なにしろサングラスで表情は分からない。

「なんか、いろいろ抱えて悩んでそうだったから」

 言われた瞬間、カっとなった。いろいろグルグル悩んでいたことがちょっと見の人物にも分かったなんて。

 お礼もそこそこに私は立ち上がった。帰ろうとする私に彼は慌しくその絵をちぎって渡した。そして私の背に声をかける。

「俺はルーカス! たまにここで描いてるからまたおいで!」

 これが私とルーカスの出会いだった。

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