まさかそっちですか
夜勤やってるとなかなか小説が進みません…明日は休みなんでちょっと練ってきます
適当なところに降り立ち、羽を隠すなどの隠蔽工作のあと僕は適当に歩き出した。裏路地に下りたので陰気な空気が肌にまとわりつく。とっとと帰ろうと思った瞬間、その声は聞こえてきた。
「うへへへへへ、上玉じゃねえか!!てめえらよくやった!!」
出来ることなら聞きたくなかった。いかにもな雰囲気の下衆臭がするテンプレどおりのセリフ。よくよく耳をすませればさるぐつわをかまされた人のようなうめき声。おそらく被害者だろう。
「苦労したんですぜアニキ?終わったら俺たちにもマワしてくださいよ?」
下賎な笑い声が響いた。
「やれやれ、あんまりこういうことしたくなかったんだけどね。久々に沸点が最高点から降りてこないよ」
「んだこらぁ?!」
おい、それ死亡フラグだぞって忠告したかったが、ゴミにする忠告などない。
「龍気迫」
辺りの物質がひとつ残らず震えていた。まるで龍を目の前にしたちっぽけな羽虫のごとく。有機物無機物の関係なく、その場にいたもの全てが恐怖に慄いた。
「てめぇ…なななななにももも」
ここまで言えただけでもかなりの度胸である。
「貴様らがあまりにもチョーシ乗ってるみたいだからちょっと足元のアリを踏み潰す感覚で叩き潰しに来ただけだよ」
そのまま気を失ってしまった下衆共。身体中からあらゆる体液を流しながら、目を見開いたまま動かなくなってしまった。気迫を収めて囚われの人物に近づく。拘束具を全て跡形も無く破壊してから僕はその少年に口を開いた。
「ほら、立ちなよ。災難だったね」
「あ、ありがとうございます…」
「僕もちょっと驚いたよ。まさかこいつらがそっちのケだったとはね。とっととこんなとこから離れよう。いるだけで吐き気がもよおしてくる」
「大いに共感します…」
いつもの公園のベンチに座って僕と少年は談笑していた。
「そうか、君はこの近くに住んでるのか」
「はい、コンビニにおやつ買いに行ったら突然拉致されて…」
「挨拶も無しにか。外道にもほどがあるな。そういえば僕も一度そういう経験をしたことがある。もう5年も前の話だけどね」
「えっ…ってことは…」
「ああ違う違う。拉致られたってこと。誘拐事件に遭遇しちゃってさ。気が付いたらどこか知らない土地に倒れてた。もともと孤児だったから捜索願も出されなかったし、何より気になるのは…」
「な…なんです?」
「誘拐犯が何も僕にしなかったことだ。拉致されて、気がついたときにはほっぽりだされてた。孤児って知って金づるにならなかったからかもしれないけどね」
「よかったじゃないですか。そこであなたが生きていないと今俺はあなたに助けられることは無かっただろうし」
「釈然としない言い方だな」
「そういやあんたとは仲良くなれそうだ。俺の名前は黄泉川。黄泉川 堺人。この近くの高原高校の2年生だ」
「僕は赤羽龍斗。この近くの江流弩荘の専属ハウスキーパーだ。よろしくな、堺人」
二人は持っていたオレンジジュースとカフェオレで乾杯を交わす。
「じゃあな、堺人」
「さいなら、龍斗さん」
二人が帰路に着いたころ、辺りは夕焼けで真っ赤に染まっていた。二人の影の形が若干人のそれではないことを気づけるのは読者くらいだろう。本人たちも気づいてはいないのだから。
次の日。
「じゃあ私達は学校へ行ってきます」
「知らない女の人に付いて行っちゃダメよ~龍斗さん?」
「行ってらっしゃい」
軽く流して二人を見送る。春沙は部活があるとかで、ヒイロは学級委員の仕事。5時起きとかがんばってるなあとか思いつつ二人の朝食の後片付けに取り掛かる。
ここに住んでいる皆が快適に暮らせるようにがんばる、それが僕に与えられた仕事である。
「…………」
「うおぁあ?!いつの間に後ろに居たんですかマイナさん?!」
そこには生気のない目でぼんやりと佇むマイナさんがいた。最近、神出鬼没がデフォルトで備わるようになったマイナさんである。ヒイロが一度びっくりしすぎて腰を抜かしてしまったことがある。ヒイロの黒歴史である。
「…………」
「?…マイナさん?」
「…zzzz」
「(寝てるーーーー?!)」
鼻ちょうちんが息遣いにあわせて膨れたりしぼんだりしている。女の子としてそれはまずいんじゃないか?とりあえず爪楊枝で鼻ちょうちんを割ってみる。
パァン!!
「!!……zzz」
「起きろーーーーー!!」
朝から騒がしい。嫌いじゃない騒がしさだった。
そういや他の住民は?とか聞かないでください