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誰が為に力を求むるか





『ぬ………ぐぉ……おぉお…』


『?!』



 ケイオスは生きていた。上半身の一部と右腕、頭のみが残っており、他の部分は全て黒焦げの消し炭になっている。末期のような息遣いをしながらもケイオスは龍斗を睨みつけ挑発した



『ぬおぉ……フハハ……まだだ……この世界はまだまだ混沌が満ちている……世界は私を殺すにはまだまだ早いそうだぞ? フハハ……』


『そのザマで何が出来る』



 もはや龍斗にとってケイオスは敵としてしか見れなかった。普段より数倍きつい目線でケイオスを睨みつける



『今の私には何もできまい……だが……癒す時間があればどうという事はない……』






 刹那、その場にいる全ての人物を凄まじい頭痛が襲った。頭蓋骨の中から鉄パイプで殴りつけられているような、衝撃にも似た頭痛。龍斗も思わずその痛みに膝を突く。目線をケイオスに向けることすらできない


 そしていつの間にか上空にヘリが飛んできていた。そこから人影がパラシュートも何もなしに飛び降りる。優雅に着地し、ケイオスを担ぎ上げ話しかける。



「間に合いましたか、重畳重畳。ずいぶんと派手にやられましたねぇ」


『さすがに分が悪かった……質の悪い下僕は所詮ゴミだな』


「まぁ、目覚めそこないとはいえ龍祖がほぼそろい踏みですからなぁ。引き上げましょう」


『待て………!!』



 人影はケイオスを担いだままノーモ-ションでヘリへとジャンプ、そしてヘリは飛び去っていった。痛みが引き、ヘリが飛んでいった方向を睨む龍斗。



『…………ケイオス…』







 場面変わってここは異世界に飛ばされたソロモン。



『あぁ……いかないでください……わたしは…、わたしはぁ!!』


『……………』



 先ほどとはうって変わって、余裕のない声色ですがるように喋る女性。対照的にソロモンは無言だった。女性はさめざめと泣き崩れ、ソロモンは遠く地平線を見ていた。ほんの数十分前の事










『一応名乗っておきましょうか、この世界でのあなたは私のことを思い出せてはいないようなので』



 そう言って濃紺のローブをはためかせ、うやうやしくコウベをたれる女性。濃紺の長髪が流れ落ちる水のように下へと垂れた



『私の名前はレヴィアタン。貴方様は私のことを親しみを込めてレヴィアと呼んでおられましたわ』



 にこりと微笑みながら顔を上げるレヴィアタンと名乗る女性。レヴィアタンというのは、七つの大罪である嫉妬を司る海の怪物であり悪魔だ。その嫉妬の権化がなぜソロモンのことを知っているのだろうか



「いきなりこんな場所に拉致されて連れてこられたのだ、私からは名乗る必要はないな。貴様を倒し、ここから脱出させてもらう」



 ソロモンが趣味の悪いアロハシャツをばさりと脱ぎ捨てると、一瞬にしていつもの黒衣の戦闘服へと変わっていた。


ジャキリと両手の拳銃を構えなおすソロモン。そんな殺気だったソロモンの様子に介さず、ころころと愉快そうに笑うレヴィアタン。挙動の一つ一つが絵になるが、ソロモンには奥底で何かドス黒い欲望が蠢いているように見えた



『ウフフフ、連れませんわねぇ。そういうところも嫌いじゃありませんわ……ハァ……ハァ……………ッ                 ふぅ……』



 頬を朱に染めながら息を荒げるレヴィアタン。ドス黒い欲望、というよりショッキングピンクな欲望のようだ。色々とヤバい、ソロモンは思った。いろんな意味でヤられる、と



「オイお前なにをしているのだ?!」


『ヤダ、ナニだなんて、積極的ですわね……ウフフふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふふ』



 内股をすり合わせるような動作をしながらうっとりと恍惚の表情を浮かべるレヴィア。正直いろんな意味で手の振るえが止まらないソロモン。気を緩めたら泣いてしまいそうだ。必死に歯を食いしばって耐えるソロモン



『なぜ貴方様は私を置いていったのですか……こんなにも貴方様を愛しているというのに………挙句貴方様は愛し合った記憶まで棄てて、粗末な人として生きている始末……』



 以前の私はおそらくこいつの愛が重すぎて逃げ出したんだろうな……確信を持って思えた



『貴方様が私たちの元から去り、行方をくらましたとき……私は泣きましたわ……悲しくて、哀しくて、一日中泣いて……気がついて周りを見たら私たちの世界が水没していましたわ……』



 失恋で世界が一つ滅んだというのか。間接的とはいえ原因が自分、複雑な心境にソロモンは陥る



「なぜ私に固執する? 私は、お前の何だったのだ?」


『思い出させてあげますわ』



 突如、世界が揺らめいた。ゴボゴボという水の音がそこらじゅうで聞こえる。空と海を反転させたような世界が一瞬にして真っ赤な色に変わり、嫌な揺らめき方をはじめた



『貴方の魂を縛っているのはその人間としての身体……小さすぎる器ゆえ大切なものがたくさん貴方という器から零れ落ちました。ならばどうすればいいのか? その小さな器を破棄し、以前の大きな器に魂を入れなおせば貴方は元に戻るのです。そう、イタダキの存在へと』



 レヴィアの右上の水がせり下がり、巨大なクリスタルのようなものが現れた。そのなかにあるもの、それは






「私の…………身体?!」




 無意識に口をついて出た言葉。ソロモンが別世界で生きていたときの身体、ベルゼブブとしての身体が巨大な結晶に閉じ込められていた。昆虫のような複眼に外骨格、頭には巨大な角。体中に生えた刺、肩などに埋め込まれた怪しく煌く巨大なクリスタル。


身体だけにしてその存在感と内包された力は、この世界を軋ませるほど巨大。先ほどからの不自然な世界の揺らぎはこれのせいだったのだ



『私の力で十重二十重トエハタエにやっと封じ込めてもここまでしか抑えられません。この器に貴方が入り、あなた自身が抑えるほかないのです。……貴方の大きすぎる力は人間の世界では巨大な厄災になります。貴方は私と同じ世界で生きるしかないのです』


「…………私は…」








 元々私は神だった。時として人々を助け信仰を集め、時として厄災として人々を苦しめる事もあった。それは神として当たり前のこと。人々もそれをわかっていた。だが、ある日を境に私は、文字通り地獄へ墜とされた。



 気がつけば私は真っ暗闇の中で一人倒れ伏していた。そして暗がりから襲い来る無数の化け物。私は必死に戦い、逃げ続けてきた。自分の身を守るためどんなことでも受け入れ、環境に体を適応させていった。そうしているうち、私の体は神とは思えぬほど禍々しい姿に変わっていった



 神の座に戻る事は諦めた。私は生きることだけを考えて闘い続けてきた。そうしているうちに、気がつけばそこでトップレベルの実力を身につけていた。その頃だったか、レヴィアと出会ったのは









「私は…………まだ私は自分の罪を拭いきれていない。私は、今の私であの子達を守る事で自分の罪を拭いたい。故に、お前の誘いを受けるわけにはいかないのだ。すまない」



 頭を下げるソロモン。そしてこう告げた



「いつの日か、私が私の罪にケジメを着けれたと思ったら。そのときは、お前を迎えにいく。約束だ」



『な、あ、え………』



 突然の告白まがいの言葉に驚きを隠せないレヴィア。今までは正直レヴィアが一方的に好意を向けてきた。そのたびソロモンが冷たい反応で返すというのが常だった。脳の処理が追いつかない



「これは……私の体は返してもらう。今まで手間をかけてすまなかったな」



 クリスタルに近づき、手を伸ばすソロモン。ハッと我に返ったレヴィアはその手を止めようと走り寄る



『だ、ダメ!』



 構わずソロモンはクリスタルに右手を触れた。びきりとクリスタルにヒビが入り、どんどん崩れていく。内側から外に出ようとする力に耐え切れず、弾けるようにして結晶は粉々に砕けた



「『おかえり、私。おかえり、鎧蟲皇ガイチュウオウベルゼブブ』」




 右手をかざしたまま体に触れる。すると、一瞬にして体が砕け、黒い粒子となってソロモンの体へと吸収された。




『私はまだなすべきことがある。まだ私は私の幸せを許せんのだ。全てを裏切ってここに逃げてきた、せめて私はこの世界での私の責任を全うしたい。全ての責任を全うしたら、そのときは………』



 凄まじい力の本流があふれ出し、レヴィアの世界を軋ませる。ソロモンが手をかざすと、空間がねじれて穴が開いた。レヴィアの目には無自覚に涙が溢れていた




『あぁ……いかないでください……わたしは…、わたしはぁ!!』


『……………また会おう』



 ソロモンは穴へと入っていった。残されたレヴィアは呆然と立ち尽くしていた。


さて、チートがまた一人目覚めちゃいました。おもにヤンデレのせいで。

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