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黒幕・権現

さて、エラいもんが出てくるみたいですよ





空に太陽が二つ浮かんでいた。一つは言わずもがな恒星の太陽、そしてもう一つは生きた太陽。全ての源





 茶髪の髪は真っ赤に染まり目は金色。ほぼ全身を龍の甲殻が鎧のように覆い、広げた翼は空を包み込むがごとく雄大。新しく発生した白い背びれの刺はぼんやりと白く光り、優しく地を照らしている。


 その龍の鎧は白く輝き、所々燃え盛る炎のような赤い模様が入っている。赤い部分からは凄まじい熱気が発散しており、龍斗の周りは蜃気楼で歪んでいた。


 赤羽龍斗はもはや人とは言いがたい姿になってしまった。だが彼の心はもう龍に流されて歪んだりしない。己の貫く道を見出したから



『黒幕は誰だ』



 天魔を見下ろしながら、若干エコーのかかった声で龍斗は静かに問う。天魔は答えられない。龍斗が翼を羽ばたかせるたび、押しつぶされそうな重圧が天魔の心臓を鷲掴みにする。だが膝をつくことさえできない。少しでも体を動かせば次の瞬間殺される、絶対強者の重圧



『まぁ察しはつく。組織の上層部にあり隠れ蓑には事欠かず、己の狂気と波長の合う人間。それがその禍星の一族だったわけか。化け物殺しのためなら手段を選ばず、たとえそれが己が化け物になるということすら躊躇しない。いかにもお前と波長が合うな』



 赤羽の顔が曇る。悔しさと、情けなさと、悲しさと、後悔の念に満ちた表情だ。は今までにどれだけ苦しんできたのだろう。ヨワイ18とは思えない



『これも因果応報、彼の心の底まで見ていなかった僕の罪だ……そうだろう? 底の見えない混沌と濁流。始まりであり終わりである海と不定形の混沌を司るものよ』




 龍斗はゆっくりと地上に降り立ち、天魔を正面に捉える。そして戦いの体制をとる。破壊者ではなく、守護者として。何もかもを守るためにここに降り立った



『我は龍祖の一柱、無を司る龍祖なり。人にして龍を屠るものよ、覚悟を決めよ。最早我に負ける道理なし』


「イイ気になってんじゃねぇぞクソが!!」



 天魔が槍の柄の部分を前へと押し込むと、槍の形状が変化し、刺々しい螺旋を描いたドリル状の刃に変化した。代わりにバーニアは引っ込んだが、天魔が動力をかすとそれこそドリルのように回転を始めた。ドリル部はいくつか節に分かれており、それが左右反対に回ることでより相手の身を削る事に特化している。



「ポッと出の化け物風情が!! 今までこの地球上に君臨してきた人間様に勝てると思うなよ?!」


『たまたまいい環境に生まれ、たまたま繁栄しただけの幸運な種族、それだけだ』


「ほざけぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!」



 槍を突き出し人間離れしたスピードで砂浜を切り裂きながら突進する天魔。自分の存在を否定され、味わった事のない屈辱と怒りが天魔の潜在能力を限界以上に引き上げる。だが目の前の白い龍は動かない。



『だが生きようとするエネルギー、進化し続けようという心構え、欲望を満たすために努力を重ねる事。それは素晴らしい事だ。生まれつき恵まれ何もかもを与えられた僕たちとは違う。誇れ、人間よ』



 腰を落とし、右手を奥へと引き、目を閉じ龍斗はじっとその時を待つ。天魔の槍先が射程範囲に入った瞬間、限界まで引き絞っていた筋肉を一気に収縮、右の拳を槍先へと叩き込んだ。



ゴガァァァァァン!!



 耳をつんざく凄まじい衝突音。砂浜が爆発し砂が雨のように降り注ぐ。抉り取られた砂浜の底で二人は今だこう着状態だった。


 化け物殺しの祈りが込められた機構槍の槍先は確かに龍斗の右拳にぶち当たり、回転している。だが右拳を覆う龍の甲殻が内側にまでダメージを通さず、表面で食い止めていた。


槍を握る天魔の手からは血が滲み、口は歯を食いしばりすぎて血が口の端からたれている。対する龍斗は拳を放った状態から微動だにしていない。


 圧倒的だった



『実力差はわかったはずだ、だから早くその身体に取り込んだ龍を棄てろ!! お前の力は失うには惜しすぎる!!』


「なん……のハナシだ?!」



 槍を大きく振り、龍斗の拳を反らせてバックステップで距離をとる天魔。訳がわからないといった表情で龍斗を睨むが、龍斗は動じない。むしろ天魔を心配するような表情を浮かべている



『お前がその身体に宿しているのはかつて僕達龍祖の仲間だったものだ。だが彼はもう以前の彼ではない、龍祖と袂をわかち姿をくらませていたが、ここにいたのか。その身体から出て行け、龍祖の称号を棄てた者よ!!』



 天魔が口を開こうとしたそのとき、異変が起こった。




天魔が急に悶え苦しみ始めた。自慢の機構槍を取り落とし、抱くように手で自分の体を押さえ、血走った目からは血涙をこぼし、口は酸素を求めて顎が外れるまで大きく開かれる。



「やめろ……やめてくれ、まだ………おぐ……」


『やめろ!! やめろぉぉぉ!!』




 龍斗の脳裏に水龍の記憶がフラッシュバックする。駆け寄ろうと動いた時には遅かった。




 次の瞬間天魔の体中の皮膚が何か触手のようなものが這い回っているかのごとく蠢き始めた








「あ……あ゛あ゛………あぐ……え゛あ゛……おご………ッッ!!! あ゛ぁああぁっぁぁぁああぁぁぁぁぁああぁあぁぁぁぁ!!!」


『くそ………こんな形で再会はしたくなかったよ、マスター・ケイオス』



 ブチブチと天魔の皮膚を食い破って異形が姿を現した。



『私としては二度と貴様と会いたくはなかったのだがな』




 夜よりも暗くおぞましささえ感じる黒い鱗に覆われた表皮、全身から生えた鱗と粘液に包まれた吸盤のある無数の触手、背中から生えた同じく粘液まみれの蝙蝠のような翼、全身に走る青い血管のような筋。


 粘液がボタリと地面に落ちると地面が解けていく。それの周りから発せられる邪悪なオーラは空を染め、生き物の生命力を奪い殺していく。顔の部分はまだ天魔の顔が残っている。ただし表情はなく、能面のような無表情になっているが



『貴様の愚鈍さには感謝しているぞ、だからこそ私はこの世界でここまで現出できたのだから。ここに来たばかりのときは一時いっときそこのなりそこないよりも脆かったが、今では龍界に居たときのおおよそ半分にまで力が戻っている』



 天魔の体と命を食い破り姿を現した存在。マスター・ケイオス。偉大なる龍祖にして混沌と濁流を司る存在『だったもの』



『己に関わった罪もない人々を発狂死させ、食い殺しながらか?! 今までどれだけの命を己のために食ってきた?! 僕の龍の記憶が戻る今までどれだけの人間を苦しめてきたんだ?!』


 

 龍斗が吼える。だがそれを逆に愉しむかのように話すケイオス。



『知らんな。人間など吐いて棄てるほど、いや!! 吐いて棄てても際限なく勝手に増えてくれる!! 心を食いつぶされ自我を失っていく人間ほど面白いものはない!! 無様に這い蹲りながら命乞いをし、結局死に絶える滑稽さ!! これほど効率のいい食料はないだろう? 今更食料に対して慈悲を抱くか。愚か者め』


『不滅であり不死身の我々龍祖に食料など必要ない!! 道楽気分で命を奪うなど、それでも僕と同じ龍祖か、恥を知れ!! お前もこの世界を創ったものの一人だろう?! 何故そうも簡単に……』


『貴様にはわからんだろうなァァァァァァァァァァ!!!!』



 途端世界が暗転した。晴れていた日差しがどす黒い雲に覆われ稲光が鳴り響く。マリンブルーだった美しい海は一瞬にしてドブよりも汚い黒に変化、たくさんの海の生き物が水面に浮いて絶命していく。島の植物が残らず枯れ果て、蜥蜴人間の死体が腐り落ちて強烈な腐臭を放ち始めた



『私がどれだけこの世界を思って動いたと思う?! 混沌を私の中に溜め込み、引き受ける事で世界を保とうとした!! だがどれだけ混沌を食っても食っても世界は一向に元へと戻ろうとしない!! 何故だ?! 人間だ!! 人間なのだ、原因は!! 最早この世界の混沌は私の手に負えん、ならばどうする? 欠陥品である人間は壊し、その器に我々の世界の住民を呼び込むのだ』


『龍界の住民の大量失踪、お前が……』


『あぁ、私がこちらに呼んでやったのだ。弱い者は器に合わず人間もろとも死んだのが大半だが、まぁそれはいい。強者たちだけのほうが面白いことになる』



 どれだけ救おうとどれだけ助けようとそれを踏みにじる人間という存在。愛すべきわが子が己を苦しめているというのは救われなさ過ぎる。彼の心は人間の心の病みに犯されすぎていた。彼の身体に溜まったこの世界の膿は、龍祖の心を壊すのに十分だったのだろう。


 最早彼の心に龍祖の心はなく、混沌のみが支配している



『欲望さえ満たしてやれば人間は簡単に手に落ちる、龍化者を増やすのはとても容易たやすかったよ。そうだな、人間全ては止めておこう、数千は残して新しい世界の奴隷にする、というのはどうだ?』


『お前の憎悪はわかった、だが人間を龍化者に変えても意思までは変えることはできない、いつか必ずお前に牙をむく! お前の世界への愛が、いつか必ず反逆を招く!!』


『貴様は人間である間随分とヌルいところにいたらしいな、貴様の言う事すべてに反吐が出るわ。まぁいい、私の下僕の研究施設に貴様が紛れ込んだのは誤算だったが……丁度いい。今ここで貴様を殺し、私が龍皇となろう。龍界から降りて来た者共が織り成す混沌、それを見下ろす私……素晴らしい』


『それじゃあ今龍化者が闘っているのは……』


『私の趣味だ。己が絶対に座する事のできない頂点の座を求めて龍化者は戦い続ける。戦いの愉悦、狂気、恐怖が感染し世界を混沌の渦へ叩き込む……中心に座するは私、ドス黒い絶望の渦はいつしか闘いを求めるものの血で深紅に染まる……あぁ、想像しただけでたまらないな』


『ッッ……もはや、手遅れか……』


『そうだ!! 私は最早以前の己を取り戻せない!! さぁ選べ!! 私を殺すか、世界を殺すか!! それとも貴様が死んで私がリソウの世界を創り上げるか!!』




 混沌と濁流。希望と炎、そして終末と無を司る龍が激突する。












「チッ、早く青年たちに合流しなければ……だが……」


「ウフフ、ご機嫌麗しゅう、ヴァアル様。いえ、ここではソロモンさん、とお呼びしたほうがいいのかしら?」



 あの砂浜の戦いで姿が見えなかったソロモン。彼は今別の次元に拘束されていた。海と空が逆転したような奇妙な世界。ソロモンが睨みつける正面には女性が嬉しそうに笑みを浮かべて佇んでいた。



「こうやってゆっくり貴方様と話すのは久しぶりね……それも、私の世界でなんて。涙とか色々なもので私は大洪水よ」


「こちとらゆっくりもしていられないのだがな。私を元の世界へ戻せ」



 手を口元に持っていき、妖艶な笑みを浮かべながらクスクスと笑う女性。まるで濡れているかのように艶やかな濃紺の長髪、鮮血よりも赤い瞳、水死体のように色の抜けた白い肌。普通に見れば美人の類だが、その瞳の奥にはドス黒い闇が見て取れる



「嫌ですわ。今まで散々私を待たせ、私の心を弄んだのですから。貴方様はここで永劫私と一緒にいるのです」


「私は『もう』お前とは違う!! 私は人間だ、人間、ソロモン・レクターなのだ!!」


「その左腕」


「ッッ!」



 反射的にソロモンは左腕を押さえる。皮膚の一部がブレ、一瞬虫のようなものが見えたかと思ったが、次の瞬間には戻っていた。そう、ソロモンの左腕は以前切り落とされているのだ。だったら今彼の左腕のある場所にあるはなんだ?



「瞳の奥に映る私と同じ、この世のものではない闇色。人の身でありながら72もの高位悪魔たちを従属させているその圧倒的な力。そして先ほどの言葉。貴方様も、思い出してきているのでしょう? あの爬虫類モドキたちの、『この世界のものではない力』の影響を受けて。貴方様のもといた世界の記憶が、人間となったその体に蘇ろうとしている」



 一呼吸置いて、心底楽しそうな表情を浮かべながら女性は言葉を紡ぐ



「貴方様のあるべき姿、貴方様の本当の素顔。蝿の皇、いいえ、崇高なる皇。あk」


「黙れぇぇぇぇぇぇぇえええぇぇぇぇぇえぇぇぇぇ!!!!」



激昂し誰も聞いた事のないくらいの叫びを上げながらソロモンは2丁の銃を手に出現させ連射する。だが放たれた弾丸は女性に届く事はなく、空に浮かぶ海から流れてきた水流によって止められてしまった。心底愉快そうに女性は言葉を最後まで紡ぎきる



「悪魔皇・ベルゼブブ様」



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