自分の意志で決めたこと
いやー大分空いちゃってすみません。いろいろあったもんだからさ……その分ちょっと多めになってるよ、それでカンベンね
「うぅ……ねらいがさだまらない……」
車椅子から射出された鋭い刃の着いた触手を自在に操り、蜥蜴人間を切り裂いていく皐月恋。だが足元が砂浜なので安定感が悪く、グラグラと危うい。砂浜用のタイヤとはいえ、車椅子での戦闘はやはり危険だ。
飛び掛ってきた蜥蜴人間の一体に触手の刃を突きたてたとき、その重みでバランスが崩れ恋は砂浜に投げ出される
「きゃっ……」
今が好機と一斉に飛び掛る蜥蜴人間。だがその攻撃が幼い体に直撃する前に蜥蜴人間たちは、横から飛んできた巨大な鉛弾の雨に砕け散った
ダガン!! ダガン!! ダガン!! ガガガガガガガガガ!!
「私の家族に手を出さないでもらえるかしら?」
新しい予備の義手を装着し万全な状態となった蘭が、巨大な銃器を構えて残っている蜥蜴人間たちを睨みつけた。
その眼光に思わず怯む蜥蜴人間たち。その様子を見てマガジンを入れ替えながら口角をニタリと吊り上げる蘭。蜥蜴人間たちの小さな脳に浮かんだのは恐怖の感情。逃げ出さなければ殺される、だが恐怖に全身がすくんでしまい、指を動かす事さえ出来ない
「さぁ、数えなさい。あなたたちの体に食い込む鉛弾の数をね!!!」
右手に巨大なショットガン、左手に同じく巨大なマシンガンを構え、引き金をこれでもかと引き続ける。ガラガラと大きな薬莢が砂浜にその重みで沈みこんでいく。戦闘欲は極限まで高ぶり、視界がはっきり敵のみをロックオンする。引き金を引く指がとても軽い。極限射撃高揚といったところか
「コレよ……私が求めていたもの……一方的に蹂躙し、捻じ伏せ、破壊する……あぁ、楽しい!! あははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」
容赦なく降り注ぐ鉛玉の豪雨に蜥蜴人間たちは成す術なく砕け散るのみだった。
「如月流抜刀術・緋顔花」
紫色の閃光が高速で蜥蜴人間の間を走りぬけていく。蜥蜴人間達は反応すらできず立ち尽くす。そのコンマ数秒後に蜥蜴人間たちの頭は緋色の花火を上げる。蜥蜴人間たちの間を走りぬけた如月舞奈はゆっくりと確かめるようにして納刀した。
「如月流抜撃・駆流身」
納刀した鍔の部分に親指を折りたたんだ状態で待機。蜥蜴人間が飛び掛ってくる瞬間に親指で弾くようにして刀を射出し眉間にブチ当て怯ませる。蜥蜴人間は目の前に高速で敵が迫ってくるのを気配で感じた。チャキ、と武器を握る音。
「殲ッッ!」
龍が天へと上るような美しい鋼色の一閃が煌いた。一つだった蜥蜴人間の体は二つに分かれ、右と左に分かれて地面に落ちた。
「敵はまだ来る……なら、頑張るしかないわね。如月抜刀術・連解」
相手の攻撃をサイドステップで避け、カウンター気味に蜥蜴人間の足を切り落とし、蜥蜴人間の頭蓋を貫きつつ次へ、また次へと切り進む。如月舞奈、底が知れない人物だ。(実力と胃袋的な意味で)
「風刃!」
空咲彩音が手刀を作り、振り下ろす。振り下ろした範囲の空気が極限まで圧縮され風の刃を形成する。彩音がそれを掌で押し出すと、形成された風の刃が前方に凄まじい速度で射出される。
射出された風の刃は1つだが、その射出されたエネルギーで周りの空気も影響を受け、辺りを切り刻みながら直進。風の刃の斜線上にいた蜥蜴人間はもれなくずたずたに切り裂かれた
「うぐっ……ぅぅ………」
彩音の脳内にあのときの光景がフラッシュバックする。原形をとどめずぐしゃぐしゃになった建物、空気を伝って己の耳に響いてくるたくさんの人の呻き声。戦わなければ殺されてしまう、だがその一方でトラウマが心を侵食する。あのときは龍斗がそばにいたのと、暗闇で視界が利かなかったことでトラウマは表に出なかったが今は違う
トラウマによる眩暈と吐き気が彩音を襲い、彩音は地面に手を着いてうな垂れる。舞奈さんがこちらの異変に気付きこちらに走ってくる。だがその行く手に新手が現れ、舞奈さんは足止めを喰らう。
「大家さん! クッ、すぐ行くからそれまで持ちこたえて!」
舞奈さんの珍しい大声、それに気づいた他のメンバーも駆け寄ろうとするがあまりにも蜥蜴人間の数が多い。敵はどうやら本気でこちらをツブす気で来たらしい。
「やはりトラウマが枷になるか。脆弱だな、化け物というのは」
ふと彩音の正面から男の声。この声に聞き覚えがあった。能力が暴走し全てが破壊されつくした後でやってきた、妙な服の連中の中にこの声はいた。
『コイツが一人でこの惨状を? ありえねぇな……まぁいいや、とりあえず』
『殺すか』
そのときの男から発せられる狂気と恐怖がフラッシュバックし、彩音は恐怖で顔を上げることすらできなくなった。近づく気配が重いものをこちらに向け、突き出そうとするのを彩音は肌で感じ取る。今度こそ殺される。
「まー俺様に殺されるのを誇りに思うがいいぜ、化け物」
嫌だ。
まだ皆と生きていたい。皆と笑いあっていたい。ずっと皆と居たい。ずっとあの人と……赤羽龍斗と
鋭い一撃が彩音へと繰り出された
「ごめんね、待たせた」
彩音の前で希望の炎が燃え上がる
~~~~~~~~~~~~~~~
突き出されようとしている巨大な刺突槍の切先を握り締め、彩音への攻撃を止める。
重い。先ほど男が槍を突き出す際の挙動はごく軽いものだった。それこそ羽虫を払うような軽い動作だったが、龍斗の手にかかっている重圧はそんな生易しいものではなかった。化け物を祓う加護でもついているのか、槍を握る手がヒリヒリと痛む
「おー、おーおーテメーが赤羽か。資料で見るよりもザコそうだな」
「お前が龍殺し急進派トップの禍星 天魔 か。ソロモンに教えてもらった以上に淀みきった目してるな。吐き気がする」
「おーおー光栄だねぇクソ野郎。こっちはテメーみたいな化け物視界に入れるだけでヘドが出る」
「そのヘドの海に溺れて死ぬのがお前にはお似合いだ。こっちは腐った生ゴミ処理するときの気分だよ。お前は僕がキレイサッパリ焼却処分してやる」
「やってみろよ、マッチで大河を蒸発できるかなァ? ン? トカゲモドキ風情が」
ひとしきり罵倒しあった後龍斗は掴んでいたランスを思い切り押し出してとりあえず相手を後退させる。余裕綽々と言った様子でランスを肩に担ぎ、首をコキコキいわせる天魔。
猫背、ボサボサで荒れ放題の髪、直視をするにも躊躇う血走った目、三日月のようにいやらしく釣りあがった口角、血と泥で汚れきったボロい服。誰が見ても好んでお近づきにはなりたくないタイプの人種
禍星 天魔とは龍殺し設立者を始祖に持つ正真正銘の化け物殺しのプロ。永い間受継がれてきた化け物に対する怨念と戦闘技術、そして狂気の結晶がこの天魔だ。『化け物は全て滅ぼす』の信念の元、化け物を倒すためなら手段を問わず、時として目的すらも問わない正真正銘の狂奔でもある
彼の狂気は同じ龍殺しの中でも特に狂気が強いものを呼び寄せ、類は友を呼ぶよろしく龍殺しでもっとも危険で凶悪な部隊となっている。
「夜襲ってきたやつとコイツらはお前の部下か」
「ン? あぁ、この役立たずのゴミのことか? 勘違いすんな、高貴な俺様とこんなゴミを一緒にするな。コイツらは買ってきたドレイの成れの果てだ。死ぬ間際、高貴な俺様に使い潰されたんだからこいつらも本望だろうよ」
ニタニタと下卑た笑みを浮かべながら足元に転がっていた蜥蜴人間の躯を踏みつける天魔。この男は殺すという行為を楽しみ、他人の死に快楽を覚える正真正銘のクズだ。蘭のように守るために狂ったのではなく、人間の根っこそのものが腐っている
「んで? 危険人物トップの龍化者赤羽。お前は楽しませてくれんのか よっ!!」
ぎりぎりと音が聞こえそうなほど体に力を入れ、槍を突き出しながら突進する天魔。速い。油断せず、気を張った状態の龍斗ですら出遅れてしまった、そのスキを化け物殺しのプロがみすみす逃すはずはない
初撃の一突きは体を横にそらすことで当たるのは免れた、だが逃れた方向に天魔の腕。龍斗は首に強烈なラリアットを喰らい、後ろへともんどりうって地面に叩きつけられた。
背中から地面に叩きつけられ、脳が激しく振動し、肺から空気が抜ける。肺に空気が戻る前に龍斗の眼前には鋭い切先が迫る。頭を動かす事で避けるが槍が地面に突き刺さった衝撃は凄まじく、地面が爆発したかのごとく空中に打ち上げられる龍斗
「ッぁ………」
シャツを破って翼が大きく広げられ、大きな翼で空気を掴んで姿勢を安定させる。爆発の傷は完全に癒えていた。心なしか以前より翼が使いやすくなったような気がする
「ほー、あれを耐えるか。だが! チンタラボーッとしてんじゃねぇぞ!!」
いつの間にか龍斗の背後の空へと跳躍していた天魔が槍を龍斗の頭蓋へと振り下ろす。龍斗はそれに対して尻尾で槍を横からなぎ払うようにはたき、もう一ひねりの一撃で天魔を地面へと叩き落す。しなやかで強靭な一撃が天魔の鳩尾を捕らえ、内臓にダメージを与える
「そらぁぁぁぁ!」
「ッおぉおおぉぉおおぉ?!」
砂浜が爆発したように弾け、砂が雨のように降り注ぐ。翼に再び力を込め、足に意識を集中させる。龍斗の右足が燃え上がると同時に両足全体が龍の鱗で覆われ鎧のように足を武装する。
翼で掴んだ空気を自分の後ろに投げつけるようにし動かし凄まじい推力を発生、炎に包まれた右足を突き出し龍斗は追撃の一撃を放つ
「龍星脚!!」
「ナメんなクソがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
天魔が立ち上がり、槍を龍斗が居る方へ構え槍の持ち手をひねり、槍に仕込まれた何らかの動力を動かす。バイクのエンジン音のような轟音のあと、天魔は同じく持ち手の部分のトリガーを引く。
すると槍の地面に近いほうの根元が展開され、バーニアが姿を表した。彼の部隊の名前にもなっている、天魔の使う槍、『機構槍・グラム』。
槍の中に推進剤を仕込む事で爆発的な推力とエネルギーを生み出し敵に叩き込む事ができる。もちろん常人にはその重量と取り回しの難しさから持つ事すらできない、常軌を逸した武器である。
エネルギーを限界まで溜め、龍斗に狙いを定める。そしてもう一度トリガーを引くと、バーニアからエネルギーが凄まじい推力となって放たれ、天魔は龍斗へと突進。二つの流星が空中でぶつかり合う
ビリビリと空気を激しく震わせて二人は一瞬こう着状態に陥る。龍斗はこのままではまずいと思い自分の足に更に力を込め、回転を加える。龍斗の足の炎が螺旋を描き、天魔の槍の推力を徐々に押し始める。龍斗が足を思い切り蹴りあげると天魔は姿勢を崩し、完全に無防備となる。
「おぉおおぉぉぉぉッッらぁぁぁぁぁああぁぁあぁ!!」
「ちぃぃいぃぃいいぃぃぃぃ!!」
無防備となった天魔に、回転を加えた右の拳を叩き込む。再び地面に向かって叩き落された天魔。砂に半分埋められたが、槍を振るって自分を埋めている砂を吹き飛ばす。
「クソが!! テメェ、何しやがった?! (あのソロモンのクソ虫とコイツが戦ったときの映像を見たが……その時よりクソみてぇに強くなってやがる……)」
血の混じった唾をはき捨てながら天魔は上空に飛んだままの龍斗を睨む。そして天魔は悟った、龍斗の目には一切の迷いがない。今までの迷いやしがらみがこの島で仲間と過ごすうち緩和され、ふっ切れて精神が安定し、落ち着いて天魔の攻撃を対処している。
覚悟が決まり、確固たる意思が龍斗に芽生えたのだ。大切なものを失わないために戦う覚悟。そのためならどんな力だって乗りこうなそう。そのためならどんな壁だって打ち砕いて見せよう。
自分の居場所になってくれた人、自分の心を守ってくれていた人、背中を預け共に闘ってくれる人。この手が届く限り、この体が動く限り、絶対に折れない
それはありふれた願い。ありふれていながらも最も遠い場所にあり、掴み取らねば手に入る事はない。ならば手を伸ばそう。どれだけそれを掴むのに困難が待ち構えていようとも。龍斗は初めて欲した。
---------------------大切な人を守るための力を-----------------
「なんだ、あれ………」
百戦錬磨の化け物殺しのプロの天魔は驚いていた。空に浮かんだままの龍斗が急に背中を丸めたと思ったら、背中から背びれが生えてきたのだ。
「おおおぉぉおぉおおぉぉぉぉおおぉぉぉぉぉぉぉおお!!」
突如として龍斗の背中から生えてきた背びれは白く淡く発光し、その場に居た誰もが目を奪われるほど美しかった。薄い楕円を半分に割ったような形、外側に沿うように白い刺がびっしりと生えている。
蜥蜴人間ですらその光景に目を奪われていた。そしてなんとその場に跪き、両手を組んで祈るように頭を下げたのだ。
それだけではない。その場に居た龍化者全員は無意識に目尻に涙をため、戦いの最中であるにもかかわらず笑顔を浮かべた。まるで親友と久しぶりに会ったときのように。
『もう何も失いたくない、だから戦う。お前を、倒す!!』
実も蓋もないけど背びれはどこぞの怪獣王イメージです。そのうち絵もアップしないとだなぁ……