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夜、二人、寄り添って

ロマンチックなタイトルですがそうでもなかったりします


「さて、皆お待ちかねの肝試し大会だ!」


「待たんかい」



 夕食後、突如として訳のわからないことを吐いたソロモンに対して全員が突っ込んだ。



「なんだ、折角私が前日徹夜で考えたプランだというのに」


「良くそんな状態で車運転したなお前?!」


「そこはアレだ、校長パゥワーというヤツだ」


「訳がわからないよ!」



 不本意ながら微妙に上手い漫才をかましたところで、席をはずしていた守人先生が戻ってきた。普段浮かべているさわやかな笑顔ではなくニヤニヤとしたいやらしい笑みを浮かべていた。この短期間でわかったことがある。守人先生はドSだ



「ソロモン校長、準備できたようですフフッ。いつでも ククッ いけるそうですよ」


「それは重 クッ  重畳。ププッ……」


「ああいう大人になっちゃダメよ、恋?」


「うん!」




 蘭が割りと正しいことを恋に言っている中、他のメンバーはサプライズイベントに心を躍らせているようだ。周りの娘と会話を弾ませキャッキャしている



「私こういうのダイスキなんだ! 恋ちゃんは? こういうの大丈夫なの?」


「おばけこわい……おばけきらい………」


「大丈夫、いざとなったらこの中の誰かが守ってくれるよ! あ、黄泉川さんはいいです」


「なんで初対面のヒトにディスられてんの俺?」


「うん、ゆうきでた! がんばる! あ、よみかわはいいです」


「良心かと思ってた恋ちゃんまで?! しかも呼び捨て?!」



 春沙さんと恋と黄泉川とでトリオ漫才が繰り広げられている。一方で舞奈さんと大家さんとで肝試しの仕掛けを予想している




「こういうの憧れてたんだ~私! 暗闇でドキドキシチュエーション! たまんないよねー!」


「ウフフ、そうね。そういえば蒼空ちゃんとオカマがいないわね、彼女たちがお化け役やってくれるのかしら?」


「あのオカマさんなんかその道のプロって感じするけど、どうなんだろ? 皆海で泳いでるときに海面をシャカシャカ走ってたし」


「梅剣は本物の忍者の一族の末裔よ。夜の闇は彼のホームグラウンド、どんな仕掛けを用意してくれてるのかしら」


「忍術とかで仕掛け作ってるんじゃない? 足払いの糸踏んだら地面が爆発するとか!」


「ぜひとも遠慮したいわね、フフフ」



 さっきのさっきなので爆発はカンベン願いたい。と、隣から不穏な声が聞こえた



「レーザーサイト使えば狙撃も可能かしら……」


「オイこら待てや殺人狂!」


「あぁ、装備品は懐中電灯だけだぞ蘭君? そして懐中電灯を改造した改造暗器も持ち込みは禁止だ、私が用意したこの懐中電灯を使ってもらう」



 見越していたのかソロモンが蘭に釘をさす。小さな音で『チッ』と舌打ちが聞こえたような気がしたが、まぁ放っておこう。ソロモンが懐からおみくじの箱のようなものを取り出した。どんな圧縮率でアロハシャツにそんなものが入ってたんだ



「さて、これはチーム分け用のくじ引きだ。順番に並んで」


「龍斗様! 私と一緒に!」


「りゅーとさん、一緒にまわろ♪」


「りゅーとおにいちゃん! おねがい、いっしょにいこ!」


「龍斗と他の子を一緒にはできん、何をするかわからんからな! ということでわちが一緒に」



 あの、花華、大家さん、恋、チャクラ、近いです、目が怖いです、雰囲気に潰されちゃいますってば



「あの~、この組み分けのくじを……」


「「「「うるさい!!」」」」


「ひぃ?!」




 鬼気迫る気迫というのはこういうことなのだろう、ソロモンが尋常じゃなくビビッている。お前組織のトップだろ、なに本気でビビッてんの。かく言う僕も手の震えが止まらないのだが



「ソロモン、肝試しのソロプレイは可能か?」


「やめておけ、私が殺される! 考えても見ろ、誰も選ばなかった場合確実に混沌に飲まれるぞ!」



 腹をくくるしかないようだ。その後数十分、僕とソロモンが平等性を高めるためのくじだと言って皆を納得させた。全員が渋っていたが。結局僕と組むことになったのは




「私と一緒だね! さぁ~て、楽しむぞぉー!」


「そうだな。ソロモン、電池は新しいのだろうな?」


「もちろんだ、抜かりはない。消臭液と消毒液と雑巾買いに言ったついでに買ってきたからな」


「なんか、ゴメン……」


「謝ってくれるな青年……」



 懐中電灯を手渡しながらソロモンは引きつった苦笑いをしていた






「それじゃ、行ってくるぜ」


「いってきまーす♪」


「ゴール地点にゴールの証を置いてある、それをとって戻ってくると終わりだ。道順は看板が立ててあるからそれに従うように。では楽しんで来い」



 マンガみたいにハンカチ噛み締めてる数人をよそに僕と大家さんこと空崎彩音さんは出発した。




 懐中電灯を駆使して夜の海岸線を進む。懐中電灯の光がギリギリ届くくらいの位置に看板があり、迷うことはない。


 明かりは懐中電灯とわずかな星明りのみ。暗闇のせいか、波の音が昼より大きく不気味に聞こえる。青い海が真っ黒に見え巨大な穴のようにも見える。肝試しにはもってこいのシチュエーションだった


 

 目が細かく、軟らかい砂の上をゆっくりと歩く。肝試しというのに不思議と恐怖は感じない。隣に居る彼女のせいだろうか



「あわわわわ……ひぅ?! あ、あの草むらガサガサ言ってなかった?! ねぇ?! ひゃぅっ?!」



 人は近くに自分より慌てているヒトがいれば自然と落ち着く。今がまさにそれだった。挙動不審にあたりを見回し、おどおどとしている大家さん。こうもおびえられていると落ち着かないので、とりあえず落ち着かせてみようと立ち止まって手を差し出す



「手、繋いどく?」


「ふぇ?」


「こうしとけば落ち着くだろ? どうする、イヤなら」


「繋ぐ!」



 いいけどを言い終わらないうちに出した手をギュッと握る大家さん。暗闇で顔は見えないが、握った手がちょっとずづ熱くなってきている。勢いで返事したものの冷静になってみると恥ずかしくなってきたのだろう



「んじゃ、行こっか」


「は、はい」



 緊張ゆえか、敬語になってる大家さん。かわいい。そして僕達は夜の砂浜をゆっくりと歩き出した




 しばらく看板に沿って砂浜を歩くと案内看板は林の中へと二人を導いた。歩道用にほどほどの整備はされている道の奥は真っ暗闇。ここでようやく肝試しらしくなる



「こ、この奥に行かなきゃダメなの?」


「案内どおりなら行かなきゃ。ホラ、手握ってるから大丈夫だよ」


「う、うん……」



 先ほどより気持ち強く大家さんの手を握り、歩を勧める。先ほどより挙動不審さが加速し、辺りをしきりにきょろきょろしている大家さん。龍斗も怖いといえば怖いが、隣に大家さんが居るのでなぜか心は落ち着いていた。そして僕はふと気になっていたことを思い出し、聞いてみることにした。



「なぁ、大家さん」


「ふぇっ?! な、何?」


「聞きたいことがあるんだけど」


「す、3サイズは非公開だよ? ひ、人気がないからってえ、えっちいことは…」



 強がって気丈に振舞っているようだ。言わせないよ?



「それは今いいから。大家さん、てか空埼さん、あの荘が龍殺し関係って知ってたんだよね、大家さんなんだから。ソロモンとも面識あるようだし、ということは空埼さんも龍殺しなんだよね?」



  少し間を置いて大家さんは答えた



「うん。私もりゅーとサンと同じ龍化者なの。彩風龍、って言って風とか天気の力を使えるの。今回の旅行も強制的に晴れにできたりもしたんだよ? でもさ、そういうのってなんかズルいじゃない?」


「ゴメン、能力使って料理の火加減とか食材の火の通り具合とか見てました」


「あはは、いいんじゃない? それくらい」



 空埼さんはおかしそうに笑った。暗闇で見え辛いが、いつものように明るい太陽のような笑顔が浮かんでいることだろう。彼女に幾度となく心を助けられてきた、救われもした。あの時だって助けてくれたのだ




「あの時あんまり覚えてないんだけどさ、やっぱり空埼さんが助けてくれたんだな。暖かい、優しい風が吹いた気がしたんだ」


「そ、そうかな……」


「そうだよ」


「そかな?」


「そだよ」



 二人してちょっと笑ってしまった。心が安らぎ落ち着く。大家さんもちょっとだけ落ち着いたようだ



 ガサガサッ!



「ひゃぁぁもうヤダぁぁぁ~~!」



 おのれ物音! そういえば肝試しの途中だったことに気付く。覚悟はしているが、やはり不意打ちとなると驚いてしまう



「大丈夫、僕がいるから、な? さ、先行こ?」


「ぅん……」



 意を決して林の中へと歩を進めた瞬間



 ガサッ!! と上から冷たくてプルプルしたものが振ってきて大家さんの頬にヒットした。お化け屋敷では古典的かつ基本的な不意打ちこんにゃくである



「うひぃやぁもういやぁ…」


「落ち着いて、こんにゃくだよ大家さん」


「う~……帰ったらおでん作って材料にしてやる~!」


「はは、その意気だってぅぉおお?!」



 僕の頬にぬるい感触がいきなり張り付いた。またしてもこんにゃくである。それも常温ではなくちょっと暖かい。なんかタテに切れ目が入っているような気がするが、気のせいだろう。なんとなく仕掛け人をシバかなければならないような気がしてきた



「ま、まぁ進もう」


「う、うん……」



 少し踏み出したところで上からネバネバしたネットが降ってきた。ネットの端にはご丁寧に重りがついており、用意には脱出できない。だんだん腹が立ってきた。



「なぁ大家さん」


「ふぇぇ……なにりゅーとサン?」


「僕、この肝試し終わったら仕掛け人シバくよ」


「なんかそれ死亡フラ…」


「どぉぉっせぇぇオラァボケぇ!!」



 龍化能力の無駄遣い、龍気迫ドラゴンオーラでネット粉砕



「さぁ、逃げるよ大家さん!」


「ふぁい?!」



 僕はそのまま大家さんをお姫様抱っこしたまま駆け出した


話すすまないよぉ、ふぇぇ…

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